第25話 天界2
青龍のかけ声とともに駆け出し、間合いを取る。
いつになく真剣な顔の閠龍さんと十分に距離を取る。
「逃げてばかりじゃダメだよ、少年」
「!!」
10メートル以上ある間合いを一気に詰めてくる。そして、そのまま木刀を振り下ろしてくる。
「くっ」
ギリギリのところで木刀を避ける。
「まだまだ」
「……っ」
避けてスキが出来たところに蹴りを入れられるが、それを左腕でガードする。
「ほう、よく防いだね」
「それほどでも」
避けた自分が驚いてます。つーか、痛っ〜〜〜。腕がジンジンする。やっぱガードは無謀か…それなら受け流すのが一番いいな。
息つく間もなく攻撃が再開される。
「はっ」
再び閠龍さんが木刀を振り下ろしてくる。
「…………よっ」
木刀を右手にあるナイフで受け止める。しかし、だんだんと押され始める。
くそっ、このままじゃマズい。
「力比べなら負けないよ」
「そうですか……っ」
こちらは力比べなどする気はない。ナイフの向きを変えて、木刀を流す。
バランスを崩れた閠龍さんの一瞬のスキに木刀を蹴り飛ばす。
「む」
「はっ!」
木刀を蹴り飛ばした衝撃でがら空きになった閠龍さんの脇腹に回し蹴りをする。
「うん、狙いは悪くない」
「なっ!?」
タイミングもスピードも申し分ない。しかし片手で軽々と止められてしまう。
「驚いている暇はないよっ」
「ちっ」
閠龍さんの手には再び木刀が握られていた。
その後も木刀での連続した攻撃が続く。避けたり流したりしているが、それも時間がたつにつれてだんだんミスが多くなってきた。
「………くっ」
蹴りやパンチを数発もらっているし、ナイフで木刀を防ぐのも限界が近い。
それなら…………勝負っ!
「ふっ」
木刀を横薙に振ってくる。それをしゃがんで避け、そこからスライディングのような足払いをする。
「それじゃあすぐに次の行動に移れないよ?」
「……………」
足払いをジャンプで避けながら木刀を振ってくる。
仰向けの状態なので次の行動まで時間がかかる。
しかし…ここで白刃取りだっ!
「…って、うおっ!危なっ!」
木刀での攻撃を転がりながら避ける。その攻撃は振る、ではなく突くというものだった。
「うーん、毎回狙いはいいんだけどね」
「なら狙った通りにやられて下さいよ」
「それは痛いから嫌だね」
俺の数倍攻撃した人がなにを言うか。
「じゃあ次はこっちから…」
「ストーップ!」
「はい?」
「大体実力はわかったから終わり」
実力がわかったって…俺の実力はどれくらいなんだ?…………知りたい。
「閠龍さん、俺どうでした?」
ナイフをポケットに仕舞いながら聞く。
「うん?知りたいかい?」
「はい」
「う〜ん、教えてあげてもいいんだけどね。どうしようかな〜?」
あまりにイラッとするじらしっぷりに仕舞ったナイフを思わず再び装備しそうになる。
「い、いや、冗談だよ?もちろん教えるよ?」
「ならいいんですけど…」
「ふぅ…少年は模擬戦より今の方が殺気立ってるよ」
「そんなことはどうでもいいです」
つーか、それはアンタのせいだ。
「並みの人間じゃ少年に勝てない、これが少年の評価だ」
「なんですか?その評価」
「まぁとりあえず、青龍ちゃんの居候先にふさわしい人物ということだよ。それだけ戦えれば青龍ちゃんを守れるからね」
喜んでいいのか分からねえな、その評価。そもそも守らなくていいと思うぞ。
青龍って海に行った時、一人で怖いおにーさんたちを追っ払ってたし。
「お疲れさまー」
青龍がこちらに向かって歩いてくる。
「う〜ん?ユウ本気出してた?」
「出してたぞ?…というより死なないように必死だったな」
「ユウならもっと動けるはずなんだけどな〜」
「いや無理」
…青龍の中での俺の評価はどんだけ高いんだ。というか、あれ以上動いたら体壊すだろ。
「とりあえず居間に戻ろうか」
「はい」
「母さ〜ん、戻るよ〜」
完璧に熟睡している紗夕さんを起こして、道場から居間に戻る。
居間に戻ると、俺は治療を受けることになった。治療と言っても湿布を貼る程度の作業だが。
「ふぁ〜まだ眠い〜」
トロンとした目で救急箱から湿布を取り出す紗夕さん。
「…大丈夫ですか?やっぱり自分でやりますよ?」
「大丈夫よ〜」
何故か紗夕さんが湿布を貼ってくれている。ちなみに青龍と閠龍さんは紗夕さんの命令でキッチンで昼食の仕込みをしている。
紗夕さんは『怪我の治療は母親の役目でしょ〜?それに男の子供にこうするの夢だったの〜』と言っていた。
多分、言っていることは本心だろうが、完全に寝ぼけている。その証拠に、
「は〜い…ぺちっ」
「冷たっ………紗夕さん、そこは怪我してないです」
打撲していない所に湿布を貼りまくられる。
「ふぁ〜ごめんね〜」
「いや、別にいいですけど…」
欠伸をしながら、というのが非常に不安だが、実害は出ていない。
「えいっ」
だんだん調子が出てきたのか、投げるようにしつ湿布を貼ってくる。
「うふふ、だんだん面白くなってきちゃった〜…えいっ」
だんだんエスカレートしてくる湿布攻撃、もとい治療。
体中湿布まみれになる前に止めさせないと…。
「あの紗夕さん…」
止めさせようとした次の瞬間、
「えいっ」
べちん、と湿布が顔面にヒットした。
「うおっ!目がぁぁっ!」
湿布はすーすーする。それが目に…。
「だ、大丈夫〜?」
すぐさま湿布を取り外す。
俺の声を聞きつけた青龍と閠龍さんがキッチンから居間に駆けつけた。
「どうしたの!?ユウ!?」
「どうしたんだい!?少年!?」
慌てて駆けつけたようだが、目を押さえて悶絶する俺の姿はさぞ滑稽に見えたことだろう。
「ユウ、何やってるの?」
「私が目に湿布を貼っちゃったの〜」
説明できない俺に代わり、紗夕さんがこの惨状の説明をする。
「なんだ…慌てて損したな」
「うん、そうだね」
「お前ら………」
なんて親子だ、特に父親。
「それにしても…目に湿布とは。なかなか面白いね。少年、君は芸人になれるよ」
「……………」
この苦しみも知らないで…。この苦しみを味あわせてやろうか?
「む、少年?かすかに殺気が発せられているのは気のせいかい?」
「それは、どう、でしょう、ね。ふっふっふっ」
「ゆ、ユウが壊れた」
「青龍ちゃん、月代くん大丈夫なの〜?」
そして、惨劇は再び繰り返される。
「ぐぁぁ、目があぁぁぁぁっ!」