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第23話 帰省〜神獣〜



「…………」


ここは、とある公園。前に来た時は気が付かなかったが、住宅街には珍しく裏には林があった。


「林か…怪しいと言えば怪しいな」


扉を開くために青龍が剣を構えている。剣は青龍刀のように大きくなく、いろいろと装飾されていた。

青龍曰わく、その剣も青龍刀のように自分で出したらしい。


「うーん………ここ、かな?………あ、違っ……あれ?」


「……大丈夫かよ、オイ」


さっきから?マークばかり出している青龍に不安を覚えずにはいられない。


「もうちょっとなんだけどな〜」


「……………」


……今日の空は青かった。ああ、なんていい天気なんだ。あ、鳥が飛んでる、旨いのか?…いや、マズそうだな。


「………よーし、出来たよ。プロテクト解除〜」


「…出来たのか?」


「うん、完璧だよ!」


どうやら現実逃避をしている間に準備が出来たらしかった。

青龍が剣で何かをしていた場所は、何も変わっていないように見える。


「何か変わったか?」


「うん、まず私が疲れたよ」


「………他は?」


「ここは別に変わってないよ?」


結局変わっていないらしい。


「失敗?」


「失礼な、成功だよ!ユウ、行くよ」


「行くってどこに…」


「こっち」


スッと青龍が指差した先は…林の中。


「マジで?」


「マジもマジ、大マジだよっ」


「そんな所に入り口があるなら他の奴が間違って入って行かないか?」


「さっきの作業は何のためだったと思ってるの?」


「あ、そうか」


さっきの現実逃避の後遺症か、頭があまり働いてないみたいだ。


「それじゃ、行くよ」


「ああ」


青龍はスタスタと林の中へ歩いていく。俺も青龍の後を付いていった。

しばらく歩くと洞窟のような所に入っていく。


「なぁ、これで合ってるのか?」


「大丈夫だよ」


不安だと思った次の瞬間、洞窟の先に光が見えた。

どうやら洞窟ではなくトンネルだったらしい。

少し歩くとトンネルが終わり、神獣の世界(というか天界)の風景が目に飛び込んでくる。


「さぁ、着いたよ…天界へようこそ」


「おおっ!これはっ!」


目の前に広がる光景、それは…………………人間界と何ら変わらない街並みだった。


「なんつーか………普通だな」


「うん、普通だね」


もっと凄い所だと思っていただけに少し拍子抜けだった。……が、


「うん…普通はいいことだ!」


「ユ、ユウ、どうしたの?」


「いや、なんでもないぞー」


わけが分からん世界じゃなくてよかった。


「ユウ、早速というかそこに行かなきゃ駄目なんだけど、私の家に行くよ」


「そうだな」


青龍と並んで青龍の家を目指す。途中で何か視線を感じたり、子供に指を差されたりしたが気にしないことにした。

青龍が言うには『人間が珍しいんだよ』だそうだ。

それから数分ほど歩いたところで青龍の家に着いた。


「はい、これが私の家だよ!」


「………………マジっすか」


青龍が自分の家だと紹介した建物は和風の家。しかも、どこの武家屋敷ですか?って言いたくなるくらい大きい。

門をくぐって玄関まで歩く。玄関を開けると閠龍さんが待ち構えていた。


「あ、父上。ただいま〜」


「おかえり、青龍ちゃん!」


ガバッと青龍に抱きつこうとする閠龍さん。しかしそれは青龍に軽く躱されてしまう。


「どうも、お久しぶりです」


「うん、久しぶりだね少年」


軽く挨拶を交わして屋敷の中に入る。


「それにしても大きいよな、この家」


「私も昔はよく迷ったよ」


自分の家で迷うなよ。


「そうそう、今は使用人たちも休みを取っているから管理も大変だ」


「使用人!?」


「そうだけど…何か驚くことでもあったかい?」


「普通は驚きますって」


まぁ確かにここは広いから使用人が必要かもしれない。


「ユウの家も広いから使用人くらいいるんじゃないの?」


「いや、いない。うちは母さんがやってるな、たまに掃除とかは業者に頼んでるみたいだけど」


青龍って実はお嬢様じゃね?と思いつつ、居間に案内される。

居間では紗夕さんがお茶の準備をしていた。


「あ〜青龍ちゃん。おかえりなさ〜い」


「ただいまー」


「どうも、お久しぶりです」


「月代くん、お久しぶり〜」


紗夕さんとも軽く挨拶を交わした後、座る。


「はい、どうぞ〜」


「あ、どうも」


紗夕さんからお茶を貰う。当然と言うべきか日本茶だった。


「で、少年。今日はどういった用だね?」


「…アンタが呼んだんだろうが」


思わず拳に力が入る。


「まぁ、それは冗談として…」


殴っていいっすか?この人。


「今日はゆっくりしていきなさい」


「はい」


その後、食事をしたり屋敷を案内してもらったりしてあっという間に時間が過ぎた。

そして、夕食後。


「少年、明日は…わかってるね?」


「はい、模擬戦ですね…」


今日はいろいろ疲れているから模擬戦は明日にしよう、と閠龍さんと話し合って決めた。


「後、風呂のことだが…」


「はい」


案内された時に見たが、ここの風呂はデカい露天風呂があった。


「好きな時に入っていいからね」


「わかりました」


なんか旅行に来たみたいだな。


「それと…青龍ちゃんの入浴シーンを覗いてはいけないよ?」


「覗かねぇよ!」


「私も覗いたことがないんだからね」


「それは覗いたら覗いたで問題です!」


まったく…何考えてんだか。


「まぁ、少年ならそんなことはないと思うけどね」


「…なら言わないで下さいよ」


それだけ言って閠龍さんは出ていった。


「……………じゃあ早速風呂に入るか。着替えはっと」


バッグを漁って着替えを引っ張り出す。一応、銭湯セットも持っていく。


「いざ、風呂へ!」


風呂が大きいとなぜかテンションが上がってくるから不思議だ。

やっぱりデカい風呂はいいよなー、と思いながら風呂へ向かうが…


「………迷った」


見事に迷ってしまった。

つーか、家の中で迷うってありえなくね?


「うん、シャレにならん」


とりあえず迷ったら、引き返すのが安全だな。いったん自分の部屋に引き返す。


「ここからは記憶との勝負だな」


よく考えたら、相当アホなことをやってるな。

でも考えたら負けのようなな気がしたので深く考えないことにした。

そして歩くこと数分。


「やっと着いた」


脱衣場は本物の旅館のようになっていた。旅館の温泉をそのまま持ってきた感じだ。


「すげ」


もしかしたら使用人たちもこの風呂を使うのかもしれない。


「それでもやりすぎだろ、これは…」


こんな所で温泉みたいな風呂に入ると思わなかった。

風呂は室内と露天に分かれいた。まずは体を洗って室内の風呂に入る。


「広い」


ふと壁に目を遣ると、看板に《効能・リウマチ、関節痛》と書いてあった。


「…これ本物の温泉かよ」


住宅街によく温泉が湧いたな。


「よし、次は露天だ」


やはり露天風呂となるとなかなか入る機会がないので楽しみになってくる。外に出てみると、まさに温泉!って感じの露天風呂があった。

露天風呂は屋敷の真ん中にあって四方は屋敷に囲まれている。外から見られる心配なしだ。


「こっちもすげーな」


開放感からか、自然と声が大きくなってしまう。

しかし俺の言葉は誰にも聞かれることなく、湯煙と一緒に消えていく。………はずなのだが。


「……………え、ユウ?」


岩の陰から青龍の声がした。どうやら先客が居たらしい。


「す、すまん、気付かなかった。俺、上がるわ」


慌てて室内の風呂に戻ろうとする。


「え、い、いや。別にいいよ」


「………はい?」


今、なんと仰いました?


「ユウもこっちに入りに来たんでしょ?」


「そ、そうだけど」


いろいろと問題があるってもんだ。


「こっちに来なければ大丈夫だよ」


「ま、まぁそう言われたらそうだけどな…」


いや、それでもこの状況はマズいだろっ。


「ユウは私とお風呂入るの嫌なの?」


岩の陰から顔を出して聞いてくる。

濡れた髪、ほんのり赤くなった頬、そして上目遣い。思わず青龍の顔をじっと見つめてしまう。


「………………」


「嫌なの?」


これだけのコンボを食らって首を横に振る奴はいないだろう。俺もその例外ではなかった。


「ま、まぁ入るくらいなら問題ないだろ」


「うん!」


にっこりと笑ったその笑顔はいつも意識していない分、とても可愛く見えた。


「!!」


「どうかしたの?」


「い、いや、何でもない」


そう言うと青龍はまた岩の陰に隠れてしまった。


「広いし、気持ちいいな」


「うん、そうだね」


その後、青龍と他愛もない話をして風呂から上がった。もちろん上がるのは俺から。

部屋に戻り、布団に潜り込む。


「……………」


目を閉じると青龍の髪の毛の一本一本まで思い出してしまう。

それにあの笑顔。瞼の裏にしっかりと焼き付いている。


「……………寝れん」


こうして月代悠の初めての天界の夜は更けていった。

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