第20話 帰省〜前〜
♪〜〜♪〜〜〜♪
携帯が鳴る。
「着信は………っと親父か」
取るのが面倒だが一応取ってみる。
『よう息子!元気だったか?』
「まぁな」
『積もる話しはないんだが、夏休みなら一回くらい家に帰って来い』
「去年は帰っただろ」
いきなりだなぁ、オイ。つーか親父が追い出したんだろ。去年は初めての一人暮らしだったので仕方なく帰ったけど。
『えー』
「えー、じゃない!気色悪いから、いい歳したオッサンがそういうこと言うな!」
『いや、息子。それはいくら何でも酷くないか?』
ヒドいのは、あなたの思考回路です。
「だいたい親父が追い出したんだろ」
『別に追い出してない。無理やり一人暮らしさせただけだ』
それ、ほとんど意味一緒じゃない?
ぶっちゃけ家まで帰るのは面倒臭い。うーん、どうしよう?
「ユウ、誰と話してるの?ずいぶん楽しそうだね」
「いや、大して楽しくないぞ?親父だし」
俺は自分の父親と電話してウキウキするほど、ファザコンではない。
『ん?誰だ?彼女か?同棲してるのか?』
「違う」
「ユウの父上か〜」
そう言ってニヤリと笑う青龍。
あ、何か嫌な予感。
「ユウ、電話代わって!」
サッ、っと俺の手から携帯がなくなった。
「ちょ、待てっ!」
「もしもし、私はユウの家に居候させてもらってる青龍です」
『これはどうも、俺は悠の父親の月代徹だ』
あーあ、もうどうしようもないな。つーか、これ確実に家に帰らなくちゃいけないんじゃね?
……それから数分後。
「はい、コレ」
「おう」
青龍から携帯を渡される。
青龍は満面の笑み。親父とどんな話をしたか気になるな。
「ユウの父上、いい人だったよ」
「そうか、そりゃよかった……もしもし、代わったぞ」
『いいコじゃないか。家に帰ってくるついでに青龍さんも連れて来なさい。それに母さんも心配してるぞ』
「げっ、母さんが……わかったよ、いつ帰ればいい?」
結局帰るハメになったな。
『二・三日のうちには帰って来いよ』
「わかった」
その後、少し会話した後に電話を切る。
「青龍、親父が青龍を家に連れて来いってさ」
「うん、私もそんなことを言われたよ」
ちっ、やっぱりか。
「青龍、どうする?来るか?」
「うーん…お断りするのも悪いね。せっかく誘ってもらったから行くよ」
「そうだな、帰らなかったら親父が来そうだし」
親父が来ると言ったら、あの子離れ出来ない母親も来るだろう。それだけは避けたい。
もし、ここに来たらどうなることか…。
「じゃあ明日あたりに行こう」
「うん!」
やけに嬉しそうに返事をする青龍。
俺の実家に行くのがそんなに嬉しいのか?
ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ〜〜♪
今度は携帯ではなく、フザケた着信音の固定電話が鳴った。
今日は電話が多いな、と思いながら受話器を取る。
「もしもし、月代です」
『久しぶりだな、少年。閠龍だ』
閠龍さんから電話なんて珍しい。というか向こうにも電話ってあったのか。
「お久しぶりです、閠龍さん。どうかしましたか?」
『うん、もう学校は夏休みだろう?青龍ちゃんは夏休みくらいは家に帰ってくれないかな、と思ってね』
どこの親も考えることは一緒だな。
「ちょっと待ってください、青龍に代わります…青龍〜、閠龍さんから電話だぞ〜」
「えっ!?父上から!?」
若干驚いている青龍に電話を渡す。
「代わったよ〜」
青龍が電話で話しているうちにこれまでのこと、今後のことを考える。
(実家か…親父や母さんは変わってないんだろうな)
一人暮らしを始めて一年とちょっと。特に問題も無くやっていけた。
初めの頃は毎日のように母さんから、寂しくないかって電話かかってきてたな。
たしかにそう感じたこともあった。今は青龍が居て毎日が忙しい、というか騒がしいからそれはない。
青龍はこれからどうするつもりだろうか。しばらくしたら出ていくのか?それともずっと居候?
さすがにそれはないだろ?
いろいろな思いが交錯する。
「うん……わかったよ。………バイバイ」
自分の思考の限界と青龍の声で現実に引き戻された。
「あ゛〜〜ごちゃごちゃ考えすぎだ」
「どうしたの?」
「いや、なんでもない。…で青龍は実家に帰るのか?」
閠龍さんからの電話もそういう内容だったはずだ。
「うん、家に帰って来いって言ってたよ」
「そうか、都合が合わないなら俺んちは…」
来なくていいぞ、言おうとする前に、
「都合は合わせるよ。父上もユウを連れて来いって言ってたから」
「え?マジで?」
衝撃の事実を告げられた。
「それ確定?」
「うん、もう連れてくるって言っちゃった♪」
「言っちゃったって……」
どうやら俺は行かなければいけないらしい。
「神獣が住む世界、か…」
大変なことになってきたな。……………やっていけるのか、俺。