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第16話 夏休み突入!



今日は一学期の最終日、つまり明日から夏休みというわけだ。

教室の中も心なしかザワザワしている。


「ユウ、なんで私の成績表だけないんだよぅ」


青龍は自分だけ成績表がないのが不満らしい。


「しょうがないだろ、途中から入ったんだしテストも受けてないんだから」


「む〜、でも授業は受けたよ?」


「まぁ二学期から貰えるからいいじゃないか」


「それはそうだけど………」


青龍は納得していないようだ。

じゃあ納得できる例を見てもらおう。


「成績表も貰わない方がいい奴だっているんだぞ?ほら、例えば和馬」


今まさに成績表を開こうとしている和馬を指差す。

少し躊躇った後に恐る恐る成績表を開くと………がっくりと肩を落とした。


「な?」


「あれは和馬だからなんじゃ………」


「それを言ったらおしまいだぞ?」


「まぁそれもそうだね」


話を逸らしたところで担任から、連絡事項が伝えられた。

それから大したこともなく一学期最後のホームルームが終了した。


「あ〜一学期もやっと終わったー」


先ほど落ち込んでいたのが嘘のように元気になった和馬。


「今年はさっさと宿題を終わらせて遊ぶぜー!」


そう言って和馬は教室を飛び出していった。

なんか小学生の時もあんなヤツいたな。んでそいつは、計画倒れになる、というセオリーを見事実行してくれた。


「俺は今年もコツコツやってくか」


「宿題か〜面倒臭いな〜」


「ふっふっふっ、お困りのようですな、青龍さん」


遊沢が時代劇の越後屋のように悪い笑みを浮かべて近寄ってきた。


「宴〜なんか楽な方法ないかな〜?」


そんなこと言ったら遊沢の言うことは決まったようなもんだ。


「ある、と言ったらあるけど〜」


「何!?」


チラリと流し目でこちらを見てくる遊沢。

つーか青龍、食いつきすぎだ。


「その方法は……………」


「方法は?」


「ツッキーのを写す!」


「おぉ〜〜パチパチ」


「やっぱりな…………つーか青龍、拍手するな!」


どう?完璧でしょ?、とばかりに言い放った遊沢は俺の宿題を写す気満々のようだ。


「なぁ、華凛もなんか言ってくれよ」


「えっ、私!?」


傍観に徹していた華凛はいきなり話を振られて困り顔、というか苦笑している。


「ユウくん、ここは潔く………ね?」


う、裏切り者ぉ!

あぁ隊長、俺は既に敵に囲まれていたようです。


「ちくしょー、写したきゃ写せっ」


「ふっ、これぞ多数決の原則なり」


「やった、これで宿題の枷から解放だよっ!」


「ユウくん、私も…………」


くっそー、どいつもこいつも。少数意見も反映しやがれっ。


「じゃあ早速遊びの計画を〜」


だだだっーーー、っと遊沢は凄い勢いで走り去っていった。


「………遊びの計画って気になるね。なんだろ?」


「さぁ?遊沢にもいろいろあるんだろ」


いらんことを考えてきそうで不安だ。


「それじゃあ私たちも帰ろ」


「そうだね」


「ああ」


そしていつものように帰宅。

明日から夏休みだと思うとなんか気が楽だな〜、なんて思いつつ玄関のカギを開けようとする。……が


「あれ?開いてる?」


不思議に思いながらドアを開ける。


「おかしいな、朝はしっかり閉めたはず……………」


半分くらいまで開けたドアをバタンッ、と思いっきり閉めた。


「どうしたの?」


「うーん?疲れてるのかな、幻覚が見える」


「幻覚?」


「うん、幻覚」


今日は宿題の件で精神すり減っているのかもしれない。味方もいなかったし。


「幻覚ではないぞ、少年。それと久しぶりだね、青龍ちゃん」


「ち、父上!?」


俺の現実逃避は数秒で終わりを告げた。


「はぁ〜なんで勝手に俺ん家に上がってるんですか」


いつまでも外にいるわけにはいかないので玄関に入る。


「そもそも、どうやって入ったんですか?」


「大家さんに言って開けてもらったよ」


………大家さん、俺が鍵をかける意味ないじゃないっすか。

防犯できねー、と思いつつ部屋に入っていく。………が


「………………誰?」


部屋に入ると大和撫子という言葉がぴったりの女性が寛いでいた。つーか前にもあったな、こんなこと。


「母さんまで!なんで!?」


母さんって…………若っ!?どう見ても三十代前半なんですけど………。


「あ、お邪魔してます〜」


「ど、どうも………でもなんで二人揃って?」


「前に少年の料理を食べに来ると言っていたじゃないか」


あ〜そんなこと言ってたような気がする。了承してないけどな。


「ごめんなさいね〜、いきなり押しかけちゃって」


「いえ大丈夫です」


おぉ、なんか青龍のお母さんって常識人っぽいぞ。


「じゃあ料理作りますんで」


早速料理を作り始める。居間からは家族団欒の声が聞こえてくる。

なんか他人の家に居るような気分だ。


「仲が良いんだな」


なんとなく呟いてみる。つーか仲が良いのはいいことだけど自分たちの夕食くらい自分で作れよ。


「………おっと手が止まってた」


なんか俺って損してね?と思い調理を再開する。

と、


「月代くん?何か手伝いましょうか〜?」青龍のお母さんから声が掛かった。


「そうしてくれると助かります。ええと…………」


「あ〜自己紹介がまだだったわね。私は紗夕(さゆ)って言うの〜、気軽に紗夕さんって呼んでね〜」


「月代悠です。よろしくお願いします、紗夕さん」


ほわ〜ん、とした感じの紗夕さんと自己紹介が済んだところで再び調理再開。

さすがに二人ということもあっていつもより早く料理が出来た。


「出来ました」


「出来たわよ〜」


紗夕さんと二人で夕食を運ぶ。

少しくらい人数が多い方が賑やかでいいな、なんてことを思っていると、紗夕さんの皿に大量の料理が乗っていることに気づいた。


「………紗夕さんってかなりご飯食べますね」


確実に青龍以上に食べている。


「え〜そんなこと………モグモグ……ないわよ〜」


「……………」


青龍の大食いは遺伝だと判明したところで夕食は終了した。

そして、いつもの食後のお茶。


「今回の料理もなかなかのモノだったな、少年」


「いつも通りだけど、美味しかったよ」


「月代くんはお料理上手なのね〜」


「どうも」


やはり自分が作った料理を褒めてもらえると嬉しい。


「月代くんも大変でしょ〜?この子、よく食べるから」


「む〜」


あなたがそれを言いますか…。


「まぁ大変ですけど……それほど大変じゃありませんよ。俺の料理を美味しいって言ってくれるのは嬉しいし」


へぇ〜、と感心した顔になる紗夕さん。青龍は俺の言葉を聞いて嬉しそうに頷いている。

で、閠龍さんは熱心にテレビを見ていた。


「閠龍さん、それ面白いですか?」


閠龍さんが見ているのは普通のバラエティー番組。


「……………別に」


「沢尻かっ!!」


「予想通りのツッコミをするな、少年。しかしネタが少し古いぞ?」


「悪かったな、古くて予想通りで」


つーか、アンタが誘導したんだろうが。まったく、何をしたいんだこの人は…。


「ね?父上とユウって仲良いでしょ?」


「そうね〜」


あっちはあっちで結構盛り上がっているようだ。


「そういえば閠龍さん。少し聞いていいですか?」


「何だい?」


「紗夕さんっていくつなんですか?結構若く見えますけど………」


「うーん…私と同じ位だったと思うが」


「そうですか………って閠龍さんの年知りませんよ?」


「私の年は秘密だ、秘密主義なのでね」


「…………秘密主義、ですか」


ニヤリと笑う閠龍さん。そして、それを見て疑いの目を向ける俺。

すると閠龍さんは少しひるんで、


「う…………まぁ秘密主義というのは嘘だ」


嘘を白状した。


「しかし少年、女性の年齢を聞くのは失礼ではないか?」


「……………そう、ですね」


はぐらかされた感が強いがしょうがない。

その後、しばらく四人で談笑していた。


「あら、もうこんな時間〜。今日は青龍ちゃんに合いに来たついでに実家に寄らなきゃいけなかったわ〜」


「そうだったな」


青龍の他にも用事があったらしい。


「そういうことで、もう帰るわね〜。またね〜青龍ちゃん、月代くん。今度はウチに遊びに来てね」


「青龍ちゃん、元気でね。少年、今日はいきなりで済まなかったな」


「いえ、こうして四人で食事するのもたまにはいいもんです」


「父上と母さんも元気でね〜、バイバーイ」


二人を見送った後、ふと疑問が湧いてきた。


「なぁ青龍、紗夕さんの実家って人間界にあるのか?」


「ん?母さんは人間だから実家が人間界にあるのは普通じゃない?」


「え?人間?」


「そう、人間」


紗夕さんって人間!?

ということは………………


「青龍って………」


「うん?神獣と人間のハーフだけど?」


「それ初耳だぞ」


「何か問題…あった?」


少し不安そうな顔で尋ねくる。


「いや問題ない。少し驚いただけだ」


「そう、よかった」


「ただ、俺って青龍のこと何も知らないなー、って思っただけ」


「え?何?」


「いや、何でもない」


青龍が何者だ、とか関係ない。俺は俺のやりたいようにやるだけだ。


「何も知らないなら少しずつ知っていけばいいよ、時間はたくさんあるんだし」


「そうだな」


「そう、世の中には私の知らない美味しい食べ物がまだまだたくさん………」


「………………」


どんな食べ物を想像しているのか青龍はにやけている。

というか、こちらの言ったことは断片的にしか聞こえていないようだ。


「食べ物の力はすごいな、うん」


と、今日は妙なことを悟った日だった。

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