第11話 神獣親子
ここはとあるアパートの一室。つまり俺こと月代悠の部屋だ。
青龍の親父を会心の一撃で気絶させたあと(そんな気はなかった)、気絶した青龍の親父を叩き起こして部屋まで連行した。
「で、なんで父上は私たちを襲ってきたの?」
「いや、それがね青龍ちゃんの気配を捕捉したところに行ったら偶然青龍ちゃんを見つけたんだ」
「それは偶然とは言いません。しかも襲った理由は言ってないじゃないですか」
つーかちゃんと話す気があるのか?
「父上!ちゃんと話してよ!」
おお、青龍激怒。本気で怒るなんてめずらしいな。
「青龍ちゃん、ちゃんと話すから落ち着いて。ほら少年も青龍ちゃんを宥めるんだ」
「ちゃんと話す、ということは今までテキトウに話してたんだな?」
「少年、そこで殺気立つのは良くない。君の攻撃は人間にしては威力が高いからな」
「じゃあしっかり説明してください」
「うーん、話すと長くなるな。その前に私は閠龍[ギョクリュウ]という名だ」
「あ、俺は月代悠です」
今頃自己紹介かよっ、とツッコミたくなったが俺も忘れていたので言わないことにした。
「自己紹介も済んだし説明しよう。えー、簡潔にいうと青龍ちゃんが人間界に行って人間の所に居候しているという噂が流れていたんだ。それで様子を見にきたついでに青龍ちゃんを預けておけるだけの人間か見極めた。という所かな」
だいたい理解できたけど納得いかない点が一つ。
「俺に攻撃する必要があったんですか?」
これで、なんとなくとか言ったら殴らなければ気が済まない。まぁ、既に殴ってるんだけど。
「攻撃する必要はある。…なぜなら健全な精神は健全な肉体に宿る、というからな」
う、反論できない。それは親父からも常日頃から言われてきたことだ。
「わかりました、それで納得しました。でも俺が閠龍さんの攻撃を避けきれなかったら死んでましたよね?」
自分では解らないが鏡を見たらたぶん極上の(冷たい)笑顔だと思う。
「し、少年!無闇に殺気を放つのはダメだ!」
本気で慌てる閠龍さん。これはこれで見ていて面白いが質問に答えてもらわなければいけない。
「どうなんですか?」
「いや、君を殺すつもりはなかったよ。避けきれなかったら寸止めする気だった」
まぁ殺すつもりがなかったのなら許してやろう。じゃあなんで青龍も襲ったんだろう?
「そうですか…ならなんで…」
「なんで私まで襲ったんだよ!?」
聞きたいことを先に言われてしまった。
「それはね、青龍ちゃんは可愛いでしょ?襲われちゃったら大変だからね」
アンタみたいなヤツから襲われたら、そりゃあ大変だろうな。
「ふざけないでよっ!ちゃんとした理由がある筈だよ!」
あ〜なんか一人でヒートアップしてるな。
「青龍、少し落ち着け」
「ユウは黙ってて!」
「わかったよ」
何故俺が怒鳴られなければならない?
「本当のことを言うとね…青龍ちゃんは神獣でしょう?」
「うん」
急に閠龍さんの顔がキリッと締まる。
「神獣たる者日々の鍛練を怠ってはならないんだ。ましてや私たち一族は神獣の中でも上位、そんな者が皆の手本にならずしてどうする!」
驚いた…閠龍さんがこんな信念を持っていたなんて。…見習わなければならないところが世の中にはまだまだある。
「…というのを伝えにきたけどその必要はなかったみたいだ。青龍ちゃんが元気そうで安心したよ」
「父上…」
う〜ん、感動の場面だな〜。などと思っていると…
「…よくできた言い訳だね」
青龍がとんでもない暴言を吐いてくれた。
「青龍、閠龍さんはお前のことを思っ……」
「あ、やっぱりばれる?この言い訳。いや〜よくできたと思ったんだけどな〜」
「たぶん母さんには通用しないよ」
「どうしよう?勝手に人間界に行ったってわかったら母さん怒るだろうな。母さんが怒ったら恐いんだよな〜」
「……………」
一瞬でも感動した俺が馬鹿だった。
「ん?どうしたのユウ?さっき何か言おうとしてなかった?」
「………なんでもない」
「言いたいことは言わないとスッキリしないぞ」
「………なんでもありません」
つーかこの親子、俺を馬鹿にしてるのか?
「そういえば青龍ちゃんはなぜ少年の所に居候してるのかな?」
「ああ、それは青龍が…
「実力行使だよ」
「自慢げに言うな!」
しかも人が話そうとしている時に割り込んできやがった。
「じ、実力行使……少年!青龍ちゃんにナニをした!?」
「だから何もしてないっ!それに実力行使って言ったのは俺じゃねぇ!」
つーかナニって何だよ…。
「そ、そうか…いや、慌ててすまなかった」
「わかったんならそれでいいです」
親バカだな。まぁ青龍は可愛いから親バカになるのも解るけど…。
「ユウと父上、なかなか相性がいいみたいだね」
「青龍ちゃんがそう言うならそうかもしれないな」
あははは、と笑い合う神獣の親子。しかし、俺は認めないぞ。閠龍さんと相性がいいなんて。
なぜか否定しまくっていた。
「相性の話は置いといて、なんで俺ん家に青龍が居候してるかって話ですよね」
「そんな話だったような気がしないでもないな」
「え〜さっきので説明終わりじゃなかったの?」
「終わりじゃない!」
ちくしょう、馬鹿にしているとしか思えないぞ。
そして途中で邪魔が入りながらも説明を終えた。
「そうか少年が作る食事が美味しかったから居候することになったんだな」
「違うっ!どこをどう解釈したらそうなるんだ!」
「食事をしている時に居候の相談をされたんだろう?それは食事が美味しかったからではないのか?」
「うん、ユウが作るご飯はなかなかのモノだよ」
青龍さん、そこでそんな発言をしたら誤解が生まれるじゃないですか。
「そうかじゃあ今日はご馳走になっていくか」
「なんでそうなる?」
「青龍ちゃんが美味しいというのがどれ程のものかと思ってね」
…で早速料理を作る。がしかし神獣親子は何もしないくせに“まだ〜?”とか“むぅ手際が悪い”などと言ってくる。
「早く食べたいなら手伝え」
「料理できないもん」
「私もだ」
これで不味いとか言ったら殴らなければいけない。
「少年、包丁を持って殺意を抱かないでほしい」
「……じゃあ黙れ」
「はい」
おとなしく引き下がる閠龍さん。
その後騒がしい夕食を終えて食事のお茶を啜っている神獣二人。
「なぁ閠龍さん、アンタいつ帰るんだ?」
「まぁ慌てるな、すぐ帰る。それより少年…」
「はい」
なんかすごく真剣だ。なんだろう?
「さっきの食事のレシピ教え…」
「無理です」
何かと思えばそんなことか、重要な話かと思ったぞ。
「そうか…では私はもう帰る」
「そうっすか」
「バイバイ、父上」
名残惜しそうな閠龍さんに対し青龍は何も思っていないようだ。
「また会うこともあるだろう」
こっちとしてはもう会いたくないけどな。
そして閠龍さんは…
「少年、また食事をご馳走になりにくるよ。母さんと一緒に」
…なにやら不吉な言葉を残して去っていった。
最後のは聞かなかったことにしよう。