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真なる名を知ってしまうと大変なことになる斧

「というわけで、ルーザー様! 封印の洞窟第一層に関しては、そんな感じで、特に誰を選んでも問題なくクリアできると思います」

 クルジェの長い演説が終わった。


 この場には、クルジェ、そしてアイリ、ファシリア、タマの勇者パーティ志望者三人衆、それから宿屋の主人のトーマと女将さんのミリアさん、そして勇者ルーザー、俺が居る。


「ごめん、聞いてなかった……なんだって? もう一回お願い」

 実は昨夜、夜這いイベントが複数発生してろくに寝られる状況じゃなかったのは内緒だ。


「もう! ルーザー様! 折角説明しているのに寝るなんて酷すぎます! だから、封印の洞窟の第一層には、取り立てて厄介なモンスターも居ないので、特に注意は必要ないんです」

 要約するとそういうことになるようだ。


 さっそく決めねばならない。

「えっと……、特に自分が行きたいって人いる?」




 その声にクルジェ以外の全員が手を挙げる。『勇者様、ダンジョン初潜入に向けてパーティメンバーを選ぶ会議』の正式な参加者は、案内役であるクルジェと、アイリ、ファシリア、タマだけのはずなのに、野次馬として参加している、宿屋の夫婦までが名乗りを上げるとは……。


アイリ「わたしが行く!」

ファシリア「あたしだって!」

タマ「タマちゃんも行くですぅ!」

トーマ「俺も力になれるぜえ!」

ミリア「じゃあ、わたしも!」


 一人挙手しないクルジェを全員が注目する。

クルジェ「じゃあボクも!」

全員(クルジェ以外)「どうぞ、どうぞ!」




 ってな展開にはならない。挙手(立候補)したのはアイリ、ファシリア、タマの三人。




「実際のところ……クルジェ的なおすすめは誰?」


「ボ、ボクの意見ですか?」

 全員の注目がクルジェに集まる。


「ボ、ボクは……、そうですねぇ、回復魔法と補助魔法に長けたファシリアさんなんかは序盤にパーティに入れておくべきメンバーだとは思うんですが、いかんせん火力不足です」


「そうだな、ファシリアには攻撃魔法が無いからな」

 アイリがニヤっとしながら、言うと、


「そんなことないわよ! あたしは『魔法メインで戦う少女たちのスライム撲殺コンテスト』の、『杖の部』で全国二位にも入ったことあるんだから!」

 とファシリアの反論。よくわからんが、まあそこそこ魔法無しでも戦える感がする。


「ええ、だから誰でも良いっていったんです。タマさんも回復魔法は使えませんが、精霊さんのお力があれば地下第一層くらいのモンスターなんて瞬殺でしょうし……。

 問題は、その後のことだと思うんです。

 徐々にきびしくなる地下第二層、第三層を戦い抜くためにはルーザー様の戦闘力も必要になってくると思います。

 ですので……、ボク的にはアイリさんと二人で行って剣の手ほどきでも受けながら……っていうのが一番いいかと」


「なるほど……、たしかに俺は魔法は使えないんだったよな……」


「そうですね、ルーザー様の魔力は身を護ることで精いっぱいですので……」


「仮にだよ? 仮に、ダメージ受けてさ、そこにファシリアが居なかった場合、俺の回復はどうしたらいいの?

 やられっぱなし? それとも薬草みたいなのがある?」


「よし、魔力の源である、キュアキュアウォーターを大量に持って行ってやろう! 万一のために……。

 それから、戦闘は極力ルーザーに任せる。それでいいだろう」

 アイリの決断はそのまま行動に現れた。即断即決。文句を言いつつ引き留めようと必死の、ファシリアとタマを置き去りにして、さっさと出発の準備に取り掛かる。


「行くぞ! ルーザー!」

 勢いよく飛び出したアイリに引きずられるような格好になった。




「まずは、武器の強化だな……」

 そういって連れてこられたのは昨日も来た武器屋。


「あら、アイリ! いらっしゃい」

 武器屋の女主人である、サラサさんが出迎えてくれる。


「おう! 母さん、アレあったろう? 勇者、ルーザーの武器にするんだ。出してくれ!」


「母さん?」


「言ってなかったっけ? 今は養子にとられて別の親に育てられてるんだけど、わたしを生んだのは、この人、サラサだ」


 世界は広いようで狭い。というか、そういえば名前もまだ聞いていないこの村は狭い。人間関係が複雑に入り組んでるのかも知れない。


「アレって何よ?」


「武器だよ武器。勇者が来てくれたのに、鉄の剣はないだろう。もっと攻撃力のあるド派手な奴じゃないと!」


「ああ、あれね。ちょっと待ってね! 取ってくるから……」

 そう言うとサラサさんは奥に引っ込んでしまった。


「それにしても、アイリとサラサさんが親娘だったなんて……」


「似てないだろう? わたしは剣士だった父親から才能も、そして容姿も受け継いでるんだ。それでもって、なんで養子に行ったかは聞かないでくれ!」


「ああ……」

 そりゃそうだ。プライバシーにずかずかと踏み込む男子は嫌われる。


「父さんが亡くなってしまってな。まあよくある流行りの病だったんだけど、こじらせて……。小さなわたしと母親が残された。

 店は父さんが、冒険の片手間にやってたんだ。自分で探してきた武器なんかを売っててな。

 元々は、その店で鍛冶屋の見習いとしてバイトしていた母さんと仲良くなって、わたしが生まれて、二人は結婚することになったんだが、その矢先だったらしい。

 父さんが死んだのは……。

 で、いろいろあって、わたしは養子に出されたんだ……」


「なるほど……」

 これが教えられるぎりぎりの情報なんだな……。その後の養子に出された経緯ってのが触れられたくない箇所なんだろう。


「というのも……」


 結局、アイリは包隠さずあれこれと話し、どこが秘密にしておきたい情報だったのかさっぱりわからなかったが、結局のところ、若くして未亡人となったサラサさんが、再婚するためにコブ付ではまずいだろうと、子供の居ない親戚に預けたというのが、話の結論。

 よくある話っちゃあよくあるような。途中で何度か出てきた、サラサさんの性欲が強すぎて男をひっきりなしに連れ込むから教育上良くないという理由から親戚がアイリを引き取りたがったとかいうところは聞かなかったことにしよう。

 そして、この武器屋に来るときは決して一人では来ないことを誓って貰おう。魔性の女(武器屋の女主人)にパクっと食われちゃうイベントは青少年には刺激が強すぎる。


「おまたせ~!」

 とサラサさんが持って出てきたのは、いかにも攻撃力のありそうな、それでいて取り回しが難しそうな、そして見るからに禍禍しい一本の斧だった。


「そう、それそれ『死神っぽい……の斧』! ルーザーの武器にはこれを使おう! これなら、終盤まで使えるだけの威力はあるからな!」

 と、アイリは無造作に、『死神っぽい……の斧』を差し出した。


 受け取ろうとすると、

「!? なんだこれ! 重い……」

 うっかり地面に落として足を切り落としてしまうところだった。こんなところでゲームセットなんて洒落にならない。


「ははは! 重いだろう! その手の武器は重量が威力に比例するからな!」


 なんとか持ち上げてまじまじと見つめる。それだけ体力が奪われていく感じがする……。


「よくこんなの……、アイリも……それにサラサさんも軽々と持ってたな……」


「言い忘れたが、その『死神っぽい……の斧』は……」


「ちょっと、待って! さっきから、もごもご言ってるのはなんだ? 『死神っぽい』の後! 良く聞こえないんだけど……」


「ああ、死神っぽいもにょもにょもにょの斧だな。正式名称は」

「そうね、死神っぽいむにゃむにゃむにゃむにゃの斧よね。正しくは」

 アイリとサラサさんがそれぞれに言う。


「だから聞こえないって! それに、なんか見た感じ……呪われてそうなんだけど……」

 斧には髑髏どくろの装飾や、とげとげが一杯で、由緒ある勇者が持つにはふさわしい感じがしない。


「気にすんな! 別に呪われちゃあいない。まあ、注意しなければいけないことが二、三あるだけで……」

「そうよ、取扱いを間違えば大変なことになるから、昨日は渡さなかったけど、うちにある武器では一番の攻撃力なのよ!

 お代は気にしないでね~。出世払いで! そ・れ・と・も……」

 サラサさんは『体で払う?』と言いかけたようだが、アイリに睨みを効かされて、断念したようだった。

 ちなみに、『体で払う?』の後は『正直、若くてぴちぴちした男の子なんて久しぶりなのよ~。正直体が疼いちゃってるのよ。昨日あなたを見た時から』とかなんとか続くのが、アイリが居なかったときの対応の正しい語りらしい。


「とりあえず、実地練習を兼ねて、外へスライム狩りにでも行くか!」

「行ってらっしゃい! 気を付けてね~」

 とサラサさんに見送られつつ、


「ちょっと、待って……、これ……、この斧……持って歩くだけでしんどい……」

 なんて泣き言には、


「今からそれを使って実践をしようってんだ! 根性で持て! 気合だ!」

 と、アイリに背中を蹴飛ばされつつ、村の外へと向かうのであった。

次回は釣りのお話の予定。

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