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世界(露天風呂)の中心で愛(背中)を叫ぶ(流される)

 異世界へは来たばかり。今夜が、この世界での初めての夜になる。


 是非に勇者様を接待するのだ! と息巻く宿屋が一軒あるという。ちなみに、この村には宿屋はひとつしかない。選択肢は限られている……。


「えっ~、ルーちゃん、タマちゃんのおうちに泊まっていかないですかぁ?」

 なんでも、精霊使いのタマちゃんのご実家は、村の有権者、村長さんと人気、実力を二分するほどの人らしい。

 もちろんそんな人のお住まいは当然のごとく豪邸、大豪邸で、使用人が何人も居て、豪華な食事が待っているらしいが、


「ダメだ! ルーザーの宿は『のんびり亭』に決まっているんだ! タマの家でもてなしなんて受けたらルーザーが、戦闘力や今後の都合でメンバーを選ばない! すなわち賄賂に相当する! 断固拒絶!」

「そうよ、タマちゃん! ルーザーくんには明日、ちゃんと自己アピールとか説明を受けてから、公平にメンバーを選んでもらうんだから!」

 と、アイリとファシリアにそれぞれ却下された。


「じゃあ、行きますか!」

 とクルジェが歩き出そうとすると、


「おいっ! クルジェも案内したらさっさと帰るんだぞ!」

 とアイリに釘をさされた。


「わかってますよ、アイリさん。ボクは、ルーザー様のパーティに入る気ないんですから!

 それに、皆さんの事は公平に。今夜はルーザー様には、ゆっくり休んでもらいます。攻略情報も教えませんし、魔法とか精霊とかの話もしないでおきます!」


 ということで宿屋に到着。


「いらっしゃいませ~! 『のんびり亭』にようこそ~」

 と主人とその奥様が歓迎してくれた。


 なんでも、この村には旅人なんてめったに来ない。それなのに、宿屋を経営している理由はたった一つ。

 勇者を接待して、歴史に名を残すため……。

 後々世界が救われたのを確認して、『あの勇者がこよなく愛した宿』という看板を掲げるのだとか。


 なんでも先代の救世主とやらが、冒険の拠点としていた宿は、後に観光名所として大勢の客が訪れて、にぎわって、さらに言えば大儲けしたらしい。

 ちなみにクルジェ情報。

 そんなわけで、宿代は無料。したがって通貨の話はまだ出てこない。


 後々のにぎわいを想定してか、ほとんど客が来ないにも関わらず、何十部屋もある大きな宿屋だった。

 普段はご主人は農業と畜産に精を出しているのだとか。


「うちはね、勇者様の世界の『料理』に特化したマニュアルを預からせて貰ってるんでさあ!」

 と宿屋の主人が言う。


「なんでもお好きな料理をお出ししますよ。この日のために特訓を重ねてきましたから!」

 奥様も自信満々だ。


 急に、味噌汁とかが飲みたくなった俺は、典型的な日本人なんだろう。だけど、今は我慢。己を殺すしかない。


「えっと、カレーとかでもできる?」

 ありきたりな……、だけど失敗することが少ないカレーは抜群の安定食だ。

 誰が作っても、どんな作り方をしても、そこそこ食える。様子見にはもってこいかもしれない。


「ええ! 上等のスライム肉がありますわ! それに、こっちの世界にも勇者様の世界にあったスパイス類は対応してますし!」


 なんとまあ。そりゃ、市販のルーなんてものが無いという事情なのは仕方ないが、逆にスパイス調合からの本格的なカレーが食えるとは。

 でも、気になるのはその前の部分。スライム肉とか言ったか?


「スライム……肉?」


「ええ、もちろん霜降りですわ!」


「そんなことより、スライムって喰えるの?」


「えっと、ルーザー様、ボクたちの世界では、スライムの家畜化に成功したんです。もちろん普通のスライムとは違います。

 ルーザー様の世界でいうところの、ビーフ、ポーク、チキン、マトン、その他もろもろ、それぞれに対応したスライムが居るんです!」

 クルジェが割り込んで説明してくれた。

「あと、川で泳いでいるフィッシュスライムが、この村の主食です!」


「そうですね。やっぱり初日は豪華な舟盛りでも作りましょうか? 赤身のフィッシュスライムも白身のフィッシュスライムもどっちも美味しいですよ!」

 宿屋の奥さんはそう言って勧めるが、


「いや……、やっぱりカレーで……。見た目はお肉なんだよな? スライムって言っても……」


「一度食べたら病み付きですよ! 家には焼肉用の特性ダレもあるんでさあ! 今日はあまりお疲れじゃないようですが、スタミナ回復には焼肉が一番でさあ!

 なんだったら、今晩は焼肉にしましょうか?」


「いや、やっぱりカレーで……」


「そうですか、勇者様はカレーがお好きなんですね。それでは、準備しますので……」

 と奥様は、ほほほと笑いながらそそくさと出て行った。


「勇者様は、お食事の前にお風呂にでもお入りになられますか? うちにはねえ、立派な露天風呂があるんでさあ!」


 で、カレーの前のひとっ風呂。

 クルジェは、また明日の朝に来るといって引き上げた。アイリ達の手前もあるのだろう。律儀な性格だ。


 宿屋のご主人に、部屋に案内してもらい――なんと、部屋には浴衣が置いてあった――、露天風呂の場所を教えて貰った。客は一人しかいないから好きに使ってくれとのこと。


「それにしても……、露天風呂に浴衣……、カレーに舟盛りに焼肉って……。勇者が元日本人ってこと前提にしてるような気がするなあ……」

 一人で呟く。

 

 で、お風呂へ向かう。露天風呂は一つしかないらしく、女湯とも男湯とも書かれていない。

 もちろん、異世界の文字で書かれてても読めないんだが、建物の中の普通の浴場は、青いのと赤いのに別れてたから、その辺はこっちの世界でも男=青、女=赤というのは同じなんだろう。


 体を洗い、のんびり湯船に浸かっていると、湯気の向こうに何やら人の気配。


「ルーザーくん、背中を流してあげるわよ!」

 バスタオルに身を包んだファシリアが……、


 というのは妄想で、どこでしつらえたのか、水色の短い浴衣――ドリフターズがオープニングで来てたような奴といってもわかんなかったらググって――を来たファシリアが手にスポンジを持ちずいずいと入って来て、近づいてくるところだった。

 タイツとかスパッツみたいなのは履いてないので生足。

 これは妙に艶めかしい……。


「ちょ、ファシリア! なんで! どうして!」


「だって、勇者の休息と言えば、露天風呂。露天風呂といえば、混浴。混浴と言えばお背中流しましょうタイムってのが世の常識じゃない?

 さあさあ、早く! 出てきて! そっちに座って……」

 ファシリアの常識が、元居た世界……日本の間違った――ごく一部の層の中での――常識なのか、こっちの世界の常識なのかはともかくとして、露出度は高めだけれど、浴衣を着ているという時点で混浴が何か良く理解していない、あるいは理解した上で無視しているという意味では言動不一致な彼女の行動。

 いや別に混浴を望んでいるわけじゃあないけども……。

 そして、こういうシチュエーションで男の取る反応と言えば? 三つくらい?


 1.なし崩し的に背中を流される

 2.慌てて逃げ出す

 3.息子がパワーアップしてまあ大変、的な……


「せ、背中流すって……! いいよ、もう自分で洗ったから!」


「そんなこと言わずにさあさあ!」


 とファシリアは、生足なのをいいことに、それほど深くも無い湯船にずかずかと入って、腕をつかんで引っ張って行こうとする。

 ああこれは、『なし崩し的に背中を流される』パターン……。


 と思ったがそうは行かなかった。いや、最終的にはなし崩しなんだけど。


「考えることは一緒だな……」

 さっそうと登場したのは、白いハーフパンツの和風なやつに上半身はさらし姿という男前な出で立ちのアイリ。

 普段が露出高めのビキニ鎧なので、露出度は通常時より落ちるのだが、これはこれで……アリかナシかでいえばアリだ。


「どうして……」

 戸惑うファシリアに対して、

「なに、マニュアルどおりの行動だ。『勇者接待の章、第六十七項目、第四条、温泉で背中を流すの巻』に従ったまでだ!」


「ちぃっ! せっかくわたしがポイント稼げるチャンスだと思ったのにぃ! アイリのマニュアルにも同じこと書いてたなんて!」

 吐き捨てるように、言い放つファシリア。


 で、その後、


「ルーちゃ~ん! タマちゃんがお背中流してあげちゃうですぅ」

 と、縞々のクラシックな水着姿のタマまでやってきて……。


 三人でかわりばんこに背中を流されるという、本編とは何の関係もないイベントノルマをこなしつつ、カレーを食べて翌朝を迎えた。

 

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