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スライムだらけの60分

 村の入り口を出てからしばらくは平穏そのもの。とにかくエンカウントしない。

 魔物――といってもスライムばかりなのだけれど――の姿はちらほら見えるものの、襲ってこない。


「そうなんですよ。この村周辺は平和なんです。モンスターからの被害もほとんどないですし」

 クルジェに対して、

「その分、実戦経験を積むのが難しいんだがな」

 とアイリ。


 あんまり何事もなく目的のダンジョン――封印の洞窟――に到着してしまってもなんだからということで、適当にそこら辺のモンスターを狩ることになった。


 まずはアイリ。

「これくらいのスライムなら、剣の先で突けばそれだけで崩壊するんだが……」

 などと言いつつ、そこらに居るスライムを抱えて一か所に集めた。

 五匹ほど集まったスライムたちは、逃げるでもなく襲い掛かるでもなく、その場でじっと固まっている。


「では、参る!」

 アイリは左手にクマのベアリーちゃんを抱えながら、右手の剣を構える。


「でやぁっ!」

 あっというまの虐殺。一撃でスライムたちがポンッポンッと弾けて消えて行った。


「まあこんなもんだ」

 特に得意げになるわけでもなく、淡々とした表情でアイリが言う。


「へぇ~、簡単そうだなあ。ちょっとやってみてもいい?」

 剣を構えて、手近のスライムに目標を定める。


「あっ! 勇者様! ダメですっ! それはっ!」

 クルジェの制止を聞かずにふるった剣は、スライムの表皮? を貫通することなく弾き返される。

 

 そして、反撃。その場で二度ほど飛び跳ねたスライムが下腹部に体当たりを仕掛けてくる。

 どおーんと鈍い衝撃で吹き飛ばされた。


「えっ? ちょっと。強いよこいつ! しかも……、指輪が赤点滅! なにこれ? 瀕死ってこと? なんで? たかがスライムでしょ?」

 想像もしなかった事態に、口からは戸惑いしか出てこないのだが、実はそんな余裕をぶっこいている場合ではなかった。


 更なる追撃を繰り出そうとスライムさんは、こちらへじりじりと近づいてくる。


「ちょ、やばっ、死ぬ、死ぬ……」


 窮地を救ったのはタマのどこか間延びした呪文の叫び。

極大アルティメット最終兵器的ファイナル単体攻撃火炎バーニングファイア!! ですぅ!!」


 目の前が真っ赤に染まる。たかがスライム一匹倒すのには分不相応な圧倒的な炎が、目前まで迫る。

 が、火炎の標的はスライムさん。業火に焼かれたスライムは圧倒的な火力の前に焼け焦げて、消滅した。


「いきなりあんな奴に手を出すとは……」

 やれやれと言った表情でアイリが言う。


「あんなやつ? だって、スライムだろ? さっきアイリがあっという間に……」


 その疑問に答えてくれたのはクルジェだ。

「いえいえ、さっきアイリさんが倒したのは、いわゆる普通のスライムです。ボクたちはそのまんまスライムって呼んでます。

 で、勇者様が攻撃をしかけたのは、この辺では強さランキング五位には入る、通称『特に必要が生じない限り手をだしちゃいけない、めっちゃつよいスライム』ですよ」


「違いがわからんのだが……」


「え~! 全然違うじゃない! 色も艶も違うし、何よりそのたたずまい。一目瞭然じゃない!

 もしかして、勇者様? あっちのスライムとそっちのスライムとおんなじに見えちゃうとか?」

 ファシリアが指し示した先、確かにスライムが二体居る。だけどその違いなんてわからない。

 どちらもつやつやヌルヌルと緑色にテカっているし、大きさも一緒。目も口も無いから表情だって見分けがつかない。


「あれとそれって違う種類なのか? どう見ても同じようにしか見えないんだが?」


「あっちは、『ちょっと強くて好戦的なスライム』で、」

「そっちは、『まあまあ強いけど臆病なスライム』さんですぅ!」

 アイリとタマがそう説明するが、さっぱりわからん。


「とりあえず、ファシリアさん。勇者様の回復をお願いできますか?

 ボクも回復魔法は練習してますけど、ボクの魔力じゃ全快させれそうにないですから」


「えっと、普通に回復魔法でいいんだっけ?」


「ええ、勇者様の着けている指輪は回復魔法の魔力を吸収して蓄える仕組みになっているそうですから」


 クルジェに頼まれたファシリアが、そばに来て回復魔法を唱える。

「聖なる水の力よ! この者の体を癒したまえ! 個人完全回復呪文パーフェクトヒーリング!!」


 指輪の表示が赤点滅から濃い青に戻り、とりあえず窮地は脱した。

 そして、クルジェの説教が始まる。


「いいですか? そもそもスライムというのは、多種多様な種類が存在し、さっき勇者様が手をだした、

 『特に必要が生じない限り手をだしちゃいけない、めっちゃつよいスライム』なんていうのは、とっても危険なスライムなんですよ」


「でも、呪文で一瞬でやっつけちゃったじゃないか?」


「あれは、タマちゃんの最高級の攻撃ですぅ。おかげで魔力を使い果たしちゃいましたぁ。

 精霊さんの機嫌が悪いと不発することもあるから、運が良かったですぅ」


 つまりは、運が悪ければゲームオーバーだったということだ……。


「そんな危険な奴がいるんなら先に言っておいてよ! こっちは初心者なんだからさ!」


「じゃあ、聞きますか? ボクはいいんですよ。全部覚えてますから! 八千種類は存在するというスライムのその全種別を?」

 なんてことをクルジェが言う。

「は、八千……? それを全部覚えて、それで見分けがつくのか?」


「もちろん! 全部覚えてますよ。マニュアルにも載ってますからね」


「クルジェちゃんすごいですぅ。タマちゃんなんかは、大体の雰囲気で判断してますからぁ」


「タマちゃんは、特別よ。わたしだってほとんどは覚えてるわよ。マニュアルなんて読まなくたってね」

 とファシリア。


「えーっと、じゃあこの辺りに住んでて、やばそうな奴だけでも……」


「それだって、今の勇者様の力を考えるに、数百種類は該当しますけど?」


「そんなに居るの?」


 助け舟を出したのは、アイリだ。

「まあ、見分けもつかない奴に説明しても無駄だろう? それに、一応パーティ組んで進んでるんだ。

 私たちの力でも、対処しきれない危険なスライムに限れば数はそんなに多くないだろう?」


 クルジェは少し考え込んだあと、

「そうですね。じゃあ、めぼしいスライムを幾つかだけ……。

 まずは、『夜行性で好戦的な強いスライム』です。昼間は寝てるので大丈夫ですけど、夜になると徒党を組んで手当たり次第に攻撃してきます。

 他のスライムに比べて、色が濃いめで、透明感が程よい感じで、ぷよぷよ感が、中の上ってところでしょう。自分から襲い掛かってくるようなスライムは極めて珍しいです。

 あと、恐ろしいのが魔法を跳ね返すタイプのスライムです。

 『がっつり魔法を反射する哀愁漂うスライム』と、『たまに魔法を弾き返す基礎能力もそこそこ高いスライム』ですね。

 この二体は、魔法を跳ね返すスライム特有の、ぬめぬめ感と素材感が特徴で、『哀愁漂う……』のほうは、その名の通り疲れた中年男性のような雰囲気を醸し出しています。

 『基礎能力のそこそこ……』のほうは、常にそわそわしている感じがするので、その見た目と雰囲気ですぐに判別可能です。

 あと、『とにかく固い、固すぎてなまじっか普通の武器では手におえないタイプのスライム』も、要注意です。

 このスライムは…………」



 なんだかんだで、十数種類は挙がっただろうか?

 説明を聞いてもピンと来ない。特徴が曖昧すぎる。

「多分見分け付かない……。みんなはわかるのか?」


「それはこの世界に住むものとしては一般常識ですから。特に危険なスライムの見分け方なんて。

 とにかく当分の間は勇者様は単独行動禁止ね!」

 ファシリアがズバッと結論づけた。


 その後、スライムを見分ける特訓と実地の剣の練習を兼ねて何匹かのスライムと戦うことになったのだが……。


「なんだ? その剣捌きは? 『防御力が無さすぎていたたまれないスライム』を倒すのがやっとだなんて……。

 勇者が聞いてあきれるぞ?」

 と、アイリに愛想を尽かされる始末。


 実際に『防御力が無さすぎて……』を倒すのも一撃ではなく、数十回の攻撃を繰り返してやっとこさ。

 その次ぐらいに弱いという『ごくありきたりで練習相手にちょうどいいスライム』に至っては、ダメージは食らわないものの、攻撃も通用せずに数十分間の格闘の上、疲労困憊で、


「もういい。俺戦わない。俺パーティ組む。仲間戦う。仲間、魔物倒す。仲間、俺護る。俺、それ見とく」

 と敗北宣言。カタコトなのは精神ダメージの表れ……?


「まあまあ、勇者様、地道に努力していればいつか『ごくありきたり……』どころか、『まあまあほどほどでそれなりに戦闘経験が無いとやっつけられないスライム』ぐらいは相手にできるようになるわよ!」

 と、ファシリアに慰められるも、目標が低いような気がしつつ。


 のっけから、戦うことを諦めて女の子たちの力が頼り。

 それでも物語は進んでしまう。

 スライム談義はちょっとずつその場その場で小出しで聞くとして、てくてく歩いて、封印の洞窟とやらに到着した。

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