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とりあえず自己紹介の巻き

「アイリちゃん、まずは勇者様に自己紹介しましょうよ!」

 これは、アイリの腹話術。クマのぬいぐるみを片手に、

「そうか、ベアリー、そうだな。まずは勇者様に名乗らないとな」

「そうだよアイリちゃん」

 などと戦士というキャラに似合わない一人芝居をやった後、


「我の前に立ちはだかるは、深紅の閃光の餌食となりて! 人呼んで、赤い稲妻! さすらいの剣士アイリ! 精一杯頑張るぞ!」

 名乗りとともに剣を鞘から抜き放ち、袈裟懸けに切り落とすポーズを決めた。

 その流れで、クマのぬいぐるみを前に突き出して、

「と、アイリちゃんのお友達のベアリーだよ。よろしくね」

 もちろん、クマのぬいぐるみが喋るわけではないので、これはアイリの腹話術だ。地声は、凛々しく、ぬいぐるみの声をするときは可愛らしく甲高い声。


 誰も求めていないバンクシーンを繰り広げたアイリをファシリアが押しのけた。


「差し出がましいようですが、次はわたしが……」

 とファシリアはその場で一回転。ローブの裾が綺麗に広がる。心なしか周囲の空間がキラキラと輝いて見える。


「蒼き清浄なる水の巫女! 回復、補助はお任せ! マリーネ=ファシリア!」

 手に持った杖を掲げて、こちらも決めポーズ。なんなの? これって、お約束なの? 少女アニメじゃないんだから……。


「じゃあ、タマちゃんも勇者様に自己紹介するですぅ~」

 と、ツインテールを揺らしながら、タマが中央に躍り出る。どこの中央かって? そりゃあ勇者様の視界が基準だ。


「エルメンタル、エレメンタル、エロメンタルゥ~! 元気いっぱいの精霊使い、タマちゃんだよっ! よろしくですぅっ!」


 白いシャツに黄色いオーバーオールのキュロットという、精霊使いなんて属性とはかけ離れたファッションのタマちゃんが、指でピースを作って顔の横に持ってくる。

 これがアイドルのライブでの出来事なんかだったらとびっきりの笑顔にとろけそうになるのだろうけど……。

 とりあえず台詞は意味不明。勢いで押し通そうって魂胆か?




「はあぁ……」

 と、クルジェが大げさにため息をついた。


「で、なんなんです? あなたたちは? これから勇者様と封印の洞窟へ向かうんですから邪魔しないでください!

 行きますよ、勇者様!」

 無視を決め込んで、さっさと立ち去ろうとするクルジェだが、


「だからちょっと待てって言ってるだろ!」

 アイリに道を塞がれる。


「あたし達は!」

「勇者様の!」

「パーティにぃ」


「入りたいんだ!」「入りたいの!」「入りたいんですぅ!」

 とコンビネーションよく、そして最後はみんなで口を揃えて三者三様に言う。


「あなたたち……、ちゃんとマニュアル読んでますか? 勇者様のパーティメンバーを決定するのは、封印の洞窟へ行ってからでしょう?」

 というクルジェに対して、

「それくらいは知っている!」

 とアイリが口を挟む。続けて、

「勇者のパーティに入るには、封魔の指輪が必要だ。ひとつめは、封印の洞窟の入り口に置いてある。それくらい常識だ」


「だったら、おとなしく待っていてください。すぐに帰ってきますから」


 今度はタマが、

「でもでも~、クルジェちゃんがパーティのメンバーに選ばれちゃうかも知れないですぅ」


「ボクは別に、勇者様のパーティに入りたいなんて考えてませんよ! 冒険初めの案内役を任されただけで、十分な名誉ですから」


「わたしは知ってるわよ。クルジェがこっそりと魔法の練習してるの。それって、一緒に冒険したいからじゃないの?」

 ファシリアが意地悪そうに言う。


「そ、それは……、いくら洞窟の入り口まで行って帰ってくるだけだからといっても、モンスターに襲われる可能性はゼロってわけじゃあないですし。その時に、少しでも勇者様のお力になれれればと思って……」


「証拠が無い限りは、信じることはできないな」

 クルジェの弁解をアイリが切り捨てる。


「そんなぁ、じゃあちゃんと説明してくださいよ。アイリさんの剣の腕もすごいし、ファシリアさんの魔法も絶対冒険の役に立ちます。

 タマさんの精霊術に関しては、便利すぎてチートかっていうくらいの代物ですし。

 それにひきかえボクなんてなんの役にも立たないです。魔法だって上手に使えないし、武器もちゃんと扱えないし。

 はっきり言って連れて歩くだけ無駄ってもんですよ!

 それはみなさんも重々承知じゃないですか?」


「勇者様がボクっ娘大好き人間じゃないとは限らない……」

「色仕掛けでせまってパーティに入っちゃうかも! ああ、たぶらかされて、トロトロに溶けてしまう勇者様……」

「それに、クルジェちゃんはタマちゃん達より分厚いマニュアル持ってるですぅ。その冒険の知識は、十分戦力に入るですぅ」

 それぞれにクルジェを責め立てる。


「で、俺はどうすりゃいいの? なんなんだ? みんな俺と一緒に冒険したいっていうこと?」


「そうだ!」「そうよ!」「そうですぅ!」

 またしても三人の意見がぴたりと一致。これぞ異口同音という奴か。


「アイリちゃんは、勇者様のパーティに入るために頑張って剣の腕を鍛えてきたんだよね!」

 と、どうでもいいクマの語りが挿入されたところに、


「ボクは違いますよ! ボクは案内役がしたいだけなんです! そりゃ、ボクのマニュアルには他の人よりもずっと沢山の情報が載ってますけど……。

 ボクがしたいのは、一緒に冒険することじゃなくって、勇者様のパーティが行き詰った時に、影から支える役目。

 縁の下の力持ち的な感じになりたいだけなんです!」

 クルジェが必死で抗弁する。


「どうだか?」

 ぽつりとアイリが漏らす。


「みんなで一緒に行くって駄目なの?」


「えっ? 勇者様、今なんと?」

 クルジェが目を大きく見開いた。


「いや、だからね、案内役はクルジェなんだろ? じゃあ、クルジェは決定。だけど、他のみんなもついて来たらいいじゃん?

 なにか都合悪い?」


「えーっと……何も悪くないです。行って帰ってくる分には……。ですけど……」

 クルジェは他の三人に聞こえないように声を潜めて、耳打ちするように顔を近づけてささやく。


「あの、泉でのイベントのことですけど……、二人っきりじゃないと発生できなくなっちゃいます」

「それって重要イベント? それが起きないと魔王の復活を阻止できない? 今後の道程に不安が残る?」

「いえ、そんなことは……」

「じゃあ、いいよ。イベントはパス。それに、クルジェがボクっ娘設定だってことはもうバレちゃってるし……」


「あっ、ごめーん。言っちゃまずかったっけ?」

 とファシリアが舌を出した。実際に『ボクっ娘』という単語を口にしたのはアイリだが、彼女は謝る気もさらさらないようだ。


「じゃあ、みんなで行きましょう……。だけど約束してくださいよ。今回は行って帰ってくるだけです。

 それからパーティのメンバー、一人目を決めるのは村に帰って来てからですよ!」


「一人目? 一人しか決められないのか?」


「ええ、封印の洞窟に入れるのは、勇者様と封魔の指輪を身に着けたものだけなんです。

 でもって、今回行く入り口には指輪はひとつしか置いてありません。

 そこで、誰か一人を選んで、二人で洞窟の地下一層目を探索することができるようになるんです。

 地下一層のどこかには次の封魔の指輪が置いてあります。ですんでそれを手に入れるともう一人メンバーが増えますし、地下二層目に入ることができるようになるんです」


「ややこしいな。つまりは、一人で入り口に行く。一つ目の指輪を手に入れて、パーティにメンバーを追加して二人になって地下一階を探索する。

 そしたら、地下二階へ行けるようになって、二つ目の指輪をまた探し出して……ってこと?

 何階まであるの? その洞窟?」


「言い伝えでは四階か五階までだよ~。でもほんとはもっと深いかもっ!」

 クルジェではなく、タマが答えた。


「それ以上はねぇ」

 とファシリア。

「ああ、ネタバレ情報だからな。これ以上は今の段階では明かせない」

 アイリが言う。


 彼女の口調からは、私たちは知ってるけど当事者である勇者様にはあえて教えないなんて匂いがプンプンするが……。


「とにかく! 勇者様は少なくても四人パーティを組めるんです。そしてここに志望者が三人。ボクは違いますから。

 なので最終的にはみなさん勇者様のパーティのメンバーになれるってことです!」


「他の志望者が居なかったらな!」

 アイリが鋭く言う。その視線は村の中心部。まるで、これ以上勇者パーティ所属志望者が出てきたら自分の剣でぶったぎってやるというような目つき。




 かくして、とりあえずは封印の洞窟の所在地確認と、初めてのお使いクエスト。ダンジョンの入り口に置かれている封魔の指輪とやらを目指して出発することとなった。


「出発だぜ!」

「行くわよ!」

「レッツゴーですぅ」

 アイリ、ファシリア、タマのそれぞれの掛け声に、

「はあぁ」

 っと再び大きなため息をついたクルジェ。


 名もなき男若干名に、少女3人、少年と見せかけて少女が一人。いきなり大所帯のパーティの進軍が始まる。

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