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~タマの決意~

「ねえ、あなた……、タマちゃんはどこかしら……」

「おおかた、庭で精霊たちと遊んでるんだろう?」


 ここは、村はずれの一軒家。その屋内での若い夫婦の会話。

 タマの父親と母親である。


 物事にはなんでも表と裏がある。タマの父親は『裏』の権力者である。

 表の権力者は、村長をはじめとする、長老会として、名を馳せている。村人のため、旅人のため、各商店や農業をしている人、職人、様々な人のために村の自治に力を割く。


 しかし、それだけで世界の秩序は保てない。平和な世にあってもだ。


 それを一手に引き受けているのが、タマの父親、バルドネックである。裏稼業といっても自ら手を汚すことはない。

 バルドネックの仕事は情報の斡旋。裏の情報を集め、それを欲するものに与える。情報の行先さえ間違えなければそれで事足りる仕事なのである。


 妻のアーシャは、そんな夫の仕事に深くは立ち入らない。それでもバルドネックが何をやっているかぐらいは理解している。

 仕事の内容と、家庭人としてのバルドネックは別物。そういうふうに割り切れるからこそ、アーシャは妻として、バルドネックに付従っているのだ。


「心配ですわ。あのこったら、ずっと精霊とばかり……。数少ないとはいえ、この村にもあのこと同じくらいの子供は何人もいますのに……」


「あれほど、精霊に愛されているこも珍しい。であれば、小さい頃から精霊と慣れ親しんで置くのも悪くない。自然なことだろう」


「あなたのお考えは知っています。それにタマに秘められた才能も……。だけど……もっと普通の暮らしをさせてあげたいんです。あのこの幸せのためにも」


「アーシャ、何も俺は、タマに無理強いをさせているつもりはないんだ」


「それはわかってますけど……」


「タマは……、タマが精霊に愛されるのは生まれ持った天賦の才だろう。あれほどの才能を持ちながら、魔法使いや精霊使いを目指さないのは、もったいない。いつまた魔王の復活の兆しが現れるかがわからないんだ。

 その時に、タマほどの力があれば十分、救世主様のお力になれるだろう……」


「!? ……近いんですの? 魔王の復活は……?


「そればかりはわからんよ。だが、各地のモンスターの動きが徐々に活発になっていると聞く。それが予兆である可能性は少なくはない」


「あなたには感謝していますのよ。タマを……自分と血の繋がらないあのこを……」


「その話はやめにしないか? 俺には、タマは可愛くて大事な一人娘だ。それ以上でもそれ以下でもない」


「ごめんなさい……。でも……」


「お前の気持ちもわからないでもない。俺の仕事のこともあるだろう。自分の子供……タマが、この先、優秀な精霊使いにでもなって歴史に名を残す。それは……、俺の仕事にも有利に働くし、俺だってそれを望んでいる。そのことは否定はしない。

 だけどな、俺はタマには一言も言っていないんだ。俺の期待、タマの持つ才能について。それは信じてくれ」


「わかってますわ。あの子は……、ああ見えて勘もするどいですし、言わなくたって私たちがあのこに何を望んでいるか……、自分に課せられた役目はなんなのか……、きっと理解しています。

 あなたが望まなくたって……、村中があのこの才能に注目しているんですもの。きっとそれもわかっていますわ」


「そうだろう? ならば、俺達があのこにしてやれるのは……」


「そっと見守ることだけなんでしょう?」


「もう何度目になるかな? この話……」


 そう言うと、バルドネックは、窓際へ赴き、窓から庭を眺めた。そこには一人ではしゃいでいる幼いタマの姿があった。


「じゃあね! 次は火の精霊さん! タマちゃんの言うことをよく聞くですよ!

 はい、ファイアー!」


 タマの要求に応えて、ポッと中空に火が灯る。


「上手ですぅ! でもでも、まだまだ威力が足らないですよ! 火の精霊さん達はみんな力を貸してあげるです! おっきなおっきな炎を付けるですぅ! それ~!」


 今度は、地面からひときわ大きな火柱が立った。


「すっごいですぅ! これなら、救世主様が現れた時、きっとタマちゃんの力が役に立つですね!」


 精霊使いというのは特殊なスキルである。この世界において魔法というのは、なにがしか精霊の力を得て実現されている。

 魔法使いでない一般人でも魔法を使うことができる。精霊を自らに憑依させてその力を借りるのだ。

 魔法を本職とする魔法使いであれば、特定の精霊と契約を結び、その精霊の力を十二分に引き出すことができる。

 しかし、どちらも借りられるのは、一体の精霊の力のみ。


 精霊使いというのは、精霊を自らに憑依させることなくその力を発揮させる。

 それは、精霊とよほど仲良くならないとできることではない。

 そして、精霊と仲良くなる方法については未だにはっきりとその方法が編み出されていない。いわば、生まれ持った才能がすべてを決める。そういっても間違いではないのが精霊使いの世界なのだ。


 タマは、精霊に愛されている。彼女が生まれたその瞬間、精霊たちは祝い、喜んだ。そのことは周知の事実である。彼女の誕生からしばらくの間、精霊たちの動きが活発になり、それでいてタマ以外の人々の要求に従わなくなったというエピソードがある。

 実際に、何人かの精霊使いは廃業に追いやられた。というのも精霊たちはみな、タマの周囲にあつまり、タマの要求に応えたいと願ったからだと言われている。


 タマは精霊に選ばれた子なのだ。


「タマちゃんは……、絶対に大きくなったらすっごい精霊使いになるんですぅ! それで、救世主さんのお役に立つんですからっ!


 だから……、精霊さん達! タマちゃんをよろしくですね!」

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