ぶどう会 ファシリアVSタマ その3
試合は緊迫している。圧倒的優位に立つファシリア。
しかし、それでも試合を諦めきれないタマ。
どうしたもんだか……?
若干クールダウンしたクルジェがサラサさんに解説を促す。
「どうでしょう? サラサさん。この先の展開は?
サラサさんの解説では、まずは短期決戦だとおっしゃって、その後、長期戦になるという予想でしたが、やはり長期戦になるのでしょうか?」
サラサさんは苦笑いしながら……、
「痛いとこつくわねえ……。しょうがないじゃん! まさか、ファシリアが精霊融合なんて荒業をやってくるなんて予想できないじゃない!
いいわ、断言する。この試合……、ファシリアの勝ちよ!」
「それはどういう……」
「見てごらんなさい? ファシリアの顔、露出している皮膚……。うっすらと文様が浮き出ているでしょう?」
視線をファシリアに向けると確かに、顔やら手足やらに、不可思議で幾何学的な模様が浮かび上がっている。
さらにサラサさんは続ける。
「あれが、精霊融合の反動よ。ファシリアの体は徐々に精霊化が進んでいるのよ。魔力の放出を止めて……つまりは戦闘をさっさと終わらせれば、すぐに精霊になってしまうってもんじゃないけど……、長引くと厄介よ」
「それはファシリアさんが精霊になってしまうということですか?」
「そういうこと。人に非ざるものと化してしまう……。それを防ぐためには……、やっぱり短期決戦しかない……、あと一撃……、あと一撃で勝負は決まるわ。
ファシリアにはまだまだ攻撃するための魔力が残っている……、一方のタマちゃんは……」
そこで、サラサさんは一旦言葉を切った。
そして、苦々しい口調で、
「タマちゃんは……、もう戦う術を残していない……。
タマちゃんは、最初の攻撃で、風の精霊の力を、そしてファシリアの攻撃を防ぐために、地の精霊、それからファシリアへの攻撃で火と水の精霊の力を使い果たしたわ。
この付近に存在する精霊は……、ファシリアと契約を結んでいる精霊や、他の人に仕えている精霊を除いて……、タマちゃんに力を貸せるだけの魔力が残っていない……」
「ええっと、ここで補足です! (おもにルーザー様のために)
タマさんの使う精霊術は、付近の精霊の力を借りる、いわばお願いして精霊さんに魔法を使ってもらって使用するようなイメージです。その際、タマさんの魔力の消費はわずかですが、無尽蔵に使えるわけではありません。身の回りにいる精霊さんの力を一度借りてしまうとしばらくは再使用できなくなるのです!
そして、サラサさんいわく、タマさんは、かなり広範囲の精霊の力を借りて戦っていたようです。
ということは! もうタマさんの精霊術は封印されたも同然なのです!
わかりましたでしょうか? ルーザー様?」
「おっ、おう……」
「タマちゃんが、試合を諦めないのなら! あたしもその意地に! 姿勢に! 闘争心に! 敬意を表しましょう!
死んじゃったって知らないんだから!」
ファシリアは叫ぶと詠唱を始めた。呪文攻撃だ!
「なるほど……、考えたわね、ファシリア」
「えっと、サラサさん? それはどういうことでしょうか?」
「今のファシリアが使える魔法は、おおむね三系統。水と風、それに聖属性の一部ね」
「はい」
「で、風属性といえばその攻撃は真空や烈風による物理直接攻撃、斬撃系になる。想像して見て? 防御の術を持たないタマちゃんがそういった攻撃を受ける姿を……」
想像するだけでやばい……。手足がもげたり、胴体が真っ二つ、あるいは首から上がすっとぶってこともありえそうだ。まさにR-15、いや、描写の仕方によっては18禁に仕上がるだろう。
「かなり危険な状態になると?」
「そう、それから聖属性だけど、基本的には聖属性は対人攻撃に向いていない。暗黒属性を持つモンスターには絶大な威力を持つけどね。
タマちゃん相手に繰り出せる技と言えば……、光線系ね。レーザーレイ、光の力を束ねて光条として打ち出す。これだってやばいわ!」
結局、手足をもいだり、胴体に大きな穴を穿つことになるのだろう……。
「では、ファシリアさんはそういった技は選択しなかったと?」
「そうね、彼女が詠唱しているのは水属性の中でも氷結呪文。それも最上級の……」
それだって、やばくないか? タマちゃんが凍ってしまったら……。そりゃあ、流血ドロドロなんて事態にはならないかも知れないが……。
凍っちゃったんだけどお湯懸けて戻りましたってなことにはならないだろう。
俺の疑問をクルジェがサラサに問いかける。
「最上級の氷結呪文攻撃を食らってしまえばタマちゃんの体はどうなってしまうんですか?」
「それが問題だったのよ。ファシリアが唱えているのはおそらく、
永久破壊力豪風雪最大級! 食らえば、一瞬で凍りつく技よ、本来なら……。
だけど……、今のファシリアには……、精霊融合を為し、その魔力を精霊の一歩手前まで高めたファシリアなら……、凍っていく速度をコントロールできるはず」
「つまりは、徐々にタマさんを凍らして、戦意喪失を願うということですね!」
クルジェのまとめ発言と呼応するかのごとく、タイミングよくファシリアの詠唱が終わった。
ファシリアが叫ぶ。
「もう……、諦めなさい!
永久破壊力豪風雪最大級!!!!!!!!!!!!!!!!」