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旅立ちの準備はごく簡単に

「要は、魔王が現れるのを防ぐってことだな?」


 問いかけに対してクルジェは、

「そういうことでございます! 封印の洞窟というのがございまして、そこの最下層にある封印の間で、呪文を唱える簡単なお仕事です!」


「で、その封印の洞窟とかいうのに行くのが大変だと?」


「歩いて二時間ぐらいですよ?」


「二時間? たったの? 外の世界はモンスターが強すぎて辿り着くのが大変とか?」


「まあ、村を出るとモンスターは居ますが、自分から手を出さない限り襲ってくることは滅多にありません」


「それにしても、クルジェだっけ? 色々と詳しいけど……、まさか君がマスターだったってオチじゃないよな?

 なんでそんなに説明上手なんだ?」


「それはですねえ……、これです! マニュアルオープン!」

 クルジェの掛け声に反応して、クルジェの手元に一冊の分厚い本が現れる。

 タイトルのようなものが大きく書かれているが異世界の文字なので読めない。


「これが、勇者様の歓迎&世界を救うためのマニュアルです。

 この世界の人はみんな持ってます。勇者の到来に備えて、それぞれ自分がどんな役割を果たすべきか……なんてことが書かれてまして……」


「ちょっと見せて?」


「あ、だめですよ! 他の人には見せちゃいけない決まりなんです! もっとも持ち主以外が見ても何も見えないようになっているんですけど」


「ほんとだ、全部白紙にしか見えない」


「ボクには、ちゃんと読めるんです。

 たまたまなんですけど、ボクは勇者様を受け入れる係、つまりは説明役が割り当てられてまして、せっかくなので、気持ちよく勇者様に冒険していただこうと思いまして。

 すべて暗記しました~!」


「すごい努力だね……」


「とりあえず……、全部を話してしまうには時間が勿体ないですし、勇者様も混乱するでしょうから、徐々に進めていきましょう!

 まずは、装備を整えましょうね! 武器屋の女主人は美人で未亡人ですよ!」

 クルジェは先導して歩き出した。


「いや、そんな情報はどうでもいいんだけどね……。そんなところで気を使うんなら、こっちに来てすぐの案内役を可愛い女の子にしておいてくれたら良かったのに……」


 そんな声に反応してクルジェが足を止める。

 睨み付けるように、

「ネタバレになりますけどよろしいですか?」


「なに?」


「ボクと一緒に街の外へ出て、ボクが泥まみれになって、ちょっと近くにある泉で体を洗ってくるって行って、そしたら勇者様も、

『ああ、そういえば俺も汗をかいたなあ。泉があるんだったら俺も汗を流したいなあ』

 なんて言って、泉の方へ行くと、ボクが裸で水浴びしてて、よく見ると未発達だけど、女の子じゃん! 

 っていう萌イベントが発生しなくなってしまいますけどよろしいですか?」


「それって……、ダメって言ったらそのイベントはまだ有効なの?」


「ええ、勇者様が聞かなかったことにしてくだされば」

 クルジェは涼しい顔でそう言った。


「じゃあ、聞かなかったことにする……」


「それでは気を取り直して、武器屋に行きましょう!」


 俺達は武器屋へ向かった。

 まあ、そこでは、女主人の放つ色香に惑わされながら、女主人――サラサという名前らしい――の愚痴を聞いたり、欲求不満のはけ口に任命されそうになったりと、お約束のイベントはあったんだが、結果だけを報告する。

 手に入れたのは、革の鎧と、鉄の剣。ありきたり。勇者様からお金は取れないということで、無料サービスだった。


「まあ、序盤のアイテムとしては十分か……」


「そうですよ! それに、勇者様には特別なご加護があるんです! さっきはめて貰った指輪なんですけど……」

「ああ、これか……」

 視線を指輪にやる。


「それをはめていると、物理攻撃も魔法攻撃も効かなくなるんです!」

「そうなの?」

「もちろん無限にってわけにはいきませんけど。

 指輪には魔法が込められてまして、勇者様の体を攻撃を吸収する薄い膜で覆ってくれます。

 攻撃を受けると、魔力が消費されて、魔力が無くなってしまうと、その膜は消えてしまいます!」


「その場合は?」


「誰かに魔力を供給してもらえば、また元通りになります。

 ちなみに、その指輪についている青い宝石ですが、その輝きが残りの魔力の目安になってます。

 今は濃い青、つまり魔力が満タンの状態です! 少し消費されると薄い青に変わります。

 その次は濃い黄色、薄い黄色、濃い赤、赤点滅……という風に変わっていきまして、赤点滅だと残りわずかです。


 この世界の住人は、魔法にも耐性があり、物理攻撃を受ける際には反射的にその指輪と同じように、防御壁を身にまとうのでちょっとやそっとじゃ死にませんが……」


「俺は違うと……?」


「ええ、勇者様のお体は、とってもひ弱いようですので……、モンスターの攻撃なんて食らえば一たまりも無いでしょう……」


 ある意味効果的な脅し。


「まあ、魔力が無くならないように気を付けろってことだな……」


「そういうことでございます! では、封印の洞窟へまいりましょうか!」


「えっ? もう? レベル上げとか? 魔法の訓練とか? 装備の強化とか……、パーティ集めとか?」


「レベルやステータスという概念はこの世界にはありませんね。勇者様の世界のゲームというものにはそういう仕組みがあるとマニュアルには記載されてますけど。

 それと勇者様は魔法は使えません。勇者様の魔力はその身を護るための指輪にすべて使用されてますので。

 あ、パーティについては洞窟に着いてから、ご説明しますね」


 クルジェに従って村の入り口――この場合は出口とも言う――まで来たところで、一人の少女に声を掛けられた。


「ちょっと待て! 抜け駆けは許さん!」

 赤い髪の毛をポニーテールにした、ちょっと眼つきの鋭い女の子。年恰好は十代後半ぐらい。

 見るからに女戦士……というのも、真っ赤な鎧に身を包んで剣を携えているからだ。

 といっても、鎧はいわゆるビキニの水着と同じような面積分しかない。はたしてこの鎧に意味はあるんだろうか……?


「アイリさん、こんにちは? どうしたんです? 抜け駆けって?」

 クルジェが顔全体に疑問を浮かべながら聞くと、アイリと呼ばれた少女は、

「チュートリアルのどさくさに紛れて、勇者様のパーティに入ろうって魂胆だろう! そうは行くか! 問屋がおろさん!」

 と激昂しだした。


 予定調和のようなもめごと。で、アイリ一人ならそれはそれで収集が付きそうなものだけど、

「待ってください! わたしも連れて行ってください」

 と現れた、第二――クルジェもカウントすると第三?――の少女。

 青い髪で、白いローブを着ている。美少女だけど、特に特徴は無い。しいて言えば髪の毛が長すぎるくらい。


「これはこれは、ファシリアさん!」

 とクルジェ。


「タマも勇者様のパーティに入りたいんですぅ」

 と、もう一人。

 黄色い髪をツインテールにした女の子。ちっちゃくてかわいい。


「ミックバルドターマネイヤー……通称タマさんまで!」

 律儀にクルジェ。


 とにかく……、しゃしゃり出てきたアイリ、ファシリア、タマという三人の少女。

 出発までは少し時間がかかりそうだ……。

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