ぶどう会 ファシリア VS タマ
「さあ、みなさんお待ちかね! 注目選手の筆頭である、ファシリアさんと、タマさんことミックバルドターマネイヤーさんの試合開始です。すでに両者リングインで、あとは試合開始のゴングを待つばかりですっ!」
「いやいや……、ゴングなんて鳴らねぇだろ!」
「そうでした! 試合開始の銅鑼を待つばかり! 実況はこのボク、クルジェがお送りします。そして、解説は勇者であるルーザー様! どうでしょう? 今回の見どころは?」
「そんなこと言われても、俺全然この世界詳しくねーし!
魔法のこととか全然わかんねーし。ファシリアもタマもあってから間もねえし!
転生者だし!
なんで解説に選ばれたんだかわかってねえし!」
「そうでしたっ! いろいろと知識不足なルーザー様のために今回はスペシャルゲストの解説員をご用意しました!
ご紹介いたしますっ!
現勇者のパーティーメンバーでもあるアイリさんの血縁上の母親でもあり、武器屋であり、そして実は魔法にも詳しいという、お色気未亡人のサラサさんですっ!」
「よろしくっ! まあ小娘二人の色気のないバトルでしょうけど、観客は喜んでるわね……。こんなロリコン娘たちの何がいいんだか?
そんなわけで、いやいやなんだけど、他に引き受ける人がいなかったから、解説をやらせて貰うわ。やるからには一応は真剣にやるけど……。もっといい男の試合に呼んで欲しかったわ!」
そんなサラサのやる気のなさがにじみ出ている態度を気にせずクルジェはサラサに尋ねる。もはや、クルジェの視線の中には、役に立たないお飾りの解説者である勇者は入っていない。
「いろいろ事情がありますので……。では早速お聞きします!
サラサさんっ! この試合の見所はどこら辺でしょうか?」
サラサさんが答えた。
「一回戦はね、いわば序章。ほとんどの参加者は消化試合。それくらい実力差のある組み合わせが多かったわ。わたしの試合を除いてだけど……。
でも、この試合は違う。真剣勝負よ! 実力拮抗よ! 亀甲縛りよ! SMよっ!
ファシリアがMでタマがSよっ!
愛くるしいキャラクターとドSの本性を持つタマの攻めが、ドMであるファシリアのM欲を満たしつつ、お互い頂点に達して……」
何を言ってるんだ……、このビマジョは……。不穏な空気を察したクルジェが慌てて止めに入る。
「サラサさん! サラサさんっ! ちょっと、この実況解説はお子様も聞いてるんですからっ! 性的な発言は少し控えるようにお願いしますよ!」
「あらそう? 真正のドS対究極のドM対決って、矛盾みたいで面白んだけどね? どんなドMも貫通するダメージを与えるドSとそれを待ち受ける、どんな攻撃も快感に変えてしまうドMの対決って……」
「話を試合に戻してくださいっ! この勝負の見どころは?」
「なによ、つまんないわねぇ。しょうがないわねえ。ギャラも貰ってるしね」
「おっと、それはルーザーさんには内緒ですっ! 僕達はちゃんと報酬を受け取ってますけど、ルーザーさんはノーギャラでここにいるんですからっ!」
いや、聞こえちゃってるけど?
しばしの間を開けて、クルジェが再度サラサに解説を促す。
「さて、サラサさん? この試合の見所は? いかに?」
サラサさんは意味も無く舌なめずりをし、豊満な胸の位置を修正し、足を組み替えて……と、お色気ポーズを繰り返しながら、もったいぶってやっとこさ口を開く。
「そうねえ……、ひとつ言えるのは……この勝負! 一瞬で決着がつくわ!」
「それはどういう根拠に基づいて?」
クルジェの問いに、サラサは、
「ファシリアが得意とするのは水系統の魔法。それに対してタマは全系統の精霊術。そこに居る坊や、ルーザーちゃんにもわかりやすく説明すると、
どちらも、魔力を使っての攻撃、戦闘を得意とするタイプよね。
魔法戦というのはちまちまやってたってしょうがないの。魔力には限界があるから。
ファシリアのつかう魔法っていうのはいわゆる魔術。特定の精霊を契約を結び、力を借りるのね。精霊の力を自分のものにする。その魔法の源はファシリアの魔力であるからして、ファシリアは魔力が無くなる前に片を付けないといけない。
だけど、それはタマにも言える。タマちゃんの精霊術は、見えないけどそこらへんに満ち溢れている精霊たちの力をそのまま相手に向ける攻撃。精霊の力を借りるためには、やっぱりタマちゃん自身の魔力を消費しなければならない。
つまりは、どちらも、自身の魔力が残っているうちに決着を付けないといけないのよ!
そうであれば、お互い、一番攻撃力のある魔法、精霊術を最初に使うのがセオリーっ!
だから、勝負は一瞬で片が付くわ。
お互いが最高の攻撃を相手にぶつけ、攻撃力に勝るものが勝つ。この試合は試合開始直後が山、ピークなのよっ! 一瞬たりとも目が離せないわ!」
実を言うと、サラサさんが長々と喋っている間に試合が始まっていた。
どんな感じだったかというと、
先に動いたのはタマちゃんだった。
「風の精霊ちゃん達! タマちゃんに力を貸すですぅ!」
タマちゃんは小さなステッキを振り回して、宙に魔方陣を描いた。
「超大爆風陣烈風牙!」
「これは! 風系統のかなり上位に食い込む攻撃用の精霊術ですっ!
辺り一帯が暴風に巻き込まれつつも、さらに中心部では鋭い風が、吹き荒れて攻撃対象を切り刻むという! さらには、最終的に周囲の空気が真空状態になり、爆縮と呼ばれる大爆発を起こします!」
と、クルジェの解説。
迎え撃つファシリアはなにやら呪文を詠唱している。杖をかざしてぶつぶつと。
「さあ、真空の牙がファシリアさんを襲うっ! ファシリアさんの対処は間に合うのか? ファシリアさんから繰り出されるのは、防御呪文なのか? それとも相殺狙いの攻撃呪文か?」
とクルジェの実況。
ファシリアの口からは、それまでの意味がわからない古代言語的な呪文とは変わって、呪文の発動最終文句が聞こえ始めた。
「蒼き水の加護よ、わが翼となりて、この空を友とせん……、聖紺碧天使翼!」
詠唱が終わると同時に、ファシリアの背中に大きな翼が現れた。その姿はまさに天使。翼をはためかせてファシリアは上昇していく。大空へと。
「これは上手い! タマさんの攻撃が風系統だというのを読んでいたか? タマさんの攻撃で乱れた気流をものともせず、逆にその力を利用して飛翔!
一気に攻撃範囲から、逃れた!
タマさんの攻撃は不発ですっ! ぶどう会場の近くに居た人たちは、その爆風で少なからず巻き添えのダメージを受けて、重傷者もたくさん出ていそうですが、ファシリアさんにはなんのダメージもありません!
ちなみに、被害に遭われた方の中に、この村の住人は居ませんでした!」
クルジェの解説だ。
そこで、ようやく、先ほどの『勝負は一瞬で決着が付く』という語りを語り終えたサラサさんが解説に復帰する。
「この試合……、長引くわ……。長期戦になる!
何故なら、ファシリアもタマちゃんも今の攻撃で全ての魔力を使い果たした。
魔力って言うのは徐々に回復するけど、この試合中という短期間での回復は望めない。
ファシリアは今の呪文で、魔力を使い果たしたでしょう。あの翼も長くは持たない。すぐに地に降りてくる。
それにタマちゃんも、付近一帯の精霊の力を使い果たした。タマちゃん自身の魔力は、風系統以外の精霊から力を貰うことで回復はできるけど、そんなことをしたらこんどは、力を借りるべく精霊が居なくなってしまう。
これは……、肉弾戦の予感よ!
そうなれば……、『魔法メインで戦う少女たちのスライム撲殺コンテスト』の、『杖の部』で全国上位に食い込んだファシリアと、生まれ持った身体能力を生かしたタマちゃんの体術という、もはや魔法とは何の関係もない戦いが始まるわ!」