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飛場稔流 と いふ 漢 (中編)

 さて、首尾よく――飛場にとって、スライムを殺めたというのは心理的には避けたい事象だったのだが――ゴのスライムとショクのスライムを打ち取った飛場であったが、それでスライム三国時代が終わるわけではなかった。

 スライム三国志は、三国統一にて終焉する物ではない。その終わりは儚き結末、つまりは統一されたスライムの軍勢が人間に害を及ぼし、打ち滅ぼされるまでが三国志なのである。

 それはつまり、すなわち、『家に帰るまでが遠足』と同義である。『家に帰るまで』=『軍団が滅亡するまで』が『遠足』=『スライム三国志』という式が成り立つ。蛇足であるが、後世の歴史家からは、同様の疑念として、『飛場はスライムに入るのですか?』が提唱されている。これはかの有名な哲学問題、『バナナはおやつに入るのですか?』と同様に、一向の解決を見ない。

 なお私見ではあるが、バナナはおやつに入るか? については次のような解決を提唱する。

 それが、弁当とともに包まれていること。(弁当との共生)

 バナナに対して加工を行っていないこと。(バナナの非装飾性)

 日常、その家庭においておやつとしてバナナを食していないこと(バナナの原型論)

 以上の三点を満たす場合には、バナナはおやつに入らないというのが私の結論である。

 

 つまりは、弁当とは別に持ってきていたり、冷凍バナナやチョコバナナなどの加工を施していたり、日頃から

「ママ~おやつない~?」

「バナナがあるわよ」

「やった~! 今日のおやつはバナナだ~」

 のような会話を行っていない場合には、バナナはデザートである。


 閑話休題。


 ゴのスライムとショクのスライムを失った元ゴのスライム軍と元ショクのスライム軍は、三国時代で群雄割拠するという共通の目的を失い瓦解しつつあった。

 しかし、飛場がスライム達を殺戮するのではなく、行動不能に陥らせたことに悲劇は始まる。

 五万ものスライム達が身動きできず、ただただその場で傷の癒えるのを待っていたその時、ギのスライムの軍勢が大挙して押し寄せてきた。

 いざ、出撃の段になって、飛場の不在でギのスライム軍は浮足立ったが、そこは百戦錬磨の猛将、ギのスライムである。

 まずは偵察部隊を派遣した。ギのスライムはうすうすながら気づいていたのかもしれない。

 飛場が単独で敵陣へと攻め入ることを。

 そして、偵察部隊からの報告を受けて、その予感が真実であったことを知る。

 動くことのできなくなった五万のスライム、そして一人呆然と立ち尽くす飛場。偵察部隊が告げたのはそのような光景だった。

 ギのスライムは進軍した。二万の軍勢すべてを引き連れて。


 そこでかの有名なギのスライムのあのセリフが繰り出されたのだ。

 ギのスライム曰く、


「ゴとショクに仕えたスライム達よ!

 そなたたちのリーダーである、ゴのスライム、ショクのスライムは我が軍によって消滅させらしめられた。

 しかし! 勇猛果敢なるそなたたち!

 スライム三国志は、終わったわけではない!

 そなたたちの武芸、興力、志し(こころざ)! それを我に預けてはくれまいか?


 私はこの場を借りて、ギとショクの意思を継ぐものとして語りたい!

 スライムが軍団を結成したのは、人間たちの腐敗を正すためである。

 世界はスライムによって支配されるべきなのである!」

(以上、スライム語による演説)


 ゴのスライム軍の残党(残党といってもリーダであるゴのスライム以外は存命していた)と ショクのスライム軍の残党(残党といってもリーダであるショクのスライム以外は存命していた)がその言葉に涙した。

 まだ自分たちは終わっていない。ギのスライムが暖かく迎えてくれる。僕達には帰るところがあったんだ! と。




 飛場は、その後にギのスライムとこんな会話をしていた。

「おお、党首よ! 我が父にして将であるギのスライムよ!

 なにゆえそなたは、破滅へ向かうのか?

 私の力を過信してのことか?

 これから、スライム達が相手にするのはげに恐ろしき人間。

 その力は強大にして、われわれは一瞬にして粉塵と化すと伝え聞く。

 どうにか思いとどまってはくれまいか?

 スライムだけで……、人間と距離を置いてスライムのユートピアを作ってそこで安住するわけにはいかないものか?」


 ギのスライムは答えた。

「飛場よ、強きものよ。

 これは宿命なのである。

 今、世界は、スライムと人間によって二分されている。

 人間が行っているのは破壊。人間は調和を忘れた古き思想を持った種族なのである。

 そのようなものに命運を任せていてはこの星はいずれ滅びるであろう。

 立ち上がらなければならぬ。

 攻め入らなければならぬ。

 それは、われわれがスライムであるか否かという問題ではない。

 人間に立ち向かうべく力を、可能性を持ったのが我々だけなのである。

 このことは、まさに宿命。

 我々、三国時代を勝ち抜いたスライムにマスターより与えられたひとつの試練であり、究極の目標なのであるから……」


 飛場は言った。


「しかし、いかに私が戦闘に長けているとはいえ、人間とスライムの戦力比は数十万以上も離れていると聞く。

 人間に立ち打ちできるスライムは希少、わずか数名のスライムのみが人間と対等にわたり合えるのみ。

 それは私とて同じこと。

 スライムに利するのは数のみ。ゴとショクを統一し七万となった軍勢でもってしても、そのうちの六万九千九百以上は、一瞬に消滅させられてしまうだろう。

 そして、その六万九千九百の中にはあなたも入っているものぞ!」


「飛場よ、我が息子にして、過去に例を見ない稀有な力の持ち主よ。

 死は終わりではないぞよ。

 意思は、決意は死なぬ。

 我の死は、残ったスライム達に大いなる力を与えるであろう。

 そして、我の死を乗り越えた次世代のスライムがやがて人間を打ち滅ぼす力を蓄えるであろう。

 恐れてはならぬ、忘れてはならぬ。

 これぞ、おとこの生き様。

 スライムの本望よ!」


 話は決裂した。平行線をたどった。

 結局飛場にはギのスライムを説得することができなかった。


 そして……飛場はスライム達とたもとを分かつこととなる。

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