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夭下一ぶどう会開幕!

いろいろおかしくなりました。

 そして、封魔の指輪を取って村に帰ると大変なことになっていた。


「あっ! おかえりなさい! 勇者ルーザー様!」

 クルジェが駆け寄ってくる。


「どうでしたか? 初めてのダンジョン探索は? 敵は倒せましたか? ピンチにはならなかったですか?」


「いや、ピンチもなにも……」

 と口ごもると、アイリが、


「そうなんだ。こいつは、洞窟の中が暗くて何も見えないとかほざきやがる。

 仕方がないから、わたしが魔力を放出して発光してやったんだ。火属性の魔力は備わってるからな。

 そしたらな、ダンジョン内の魔物がすべてその魔力の放出のエネルギーにやられてルーザーに近寄ることもできない。

 わたしから離れるとルーザーは暗くて戦いどころではないし、わたしと近くにいると魔物は近づけない。

 そんなこんなで、ただ歩き回っただけだ」


 するとクルジェが、

「ああっ! 大事なものを忘れていました! 聖者の井戸の中に眠るという、導きの蝋燭ろうそく

 ダンジョンの地下層への潜入前の重要な必須アイテムですっ!」


「なんだ? イベントの順番を間違えたってこと?」

 と聞くと、


「ええ、そうですっ! 聖者の井戸というダンジョンへ行って数々の試練をこなし、それを乗り越えたものだけが手に入るという勇者の必須アイテムですっ!」


「要するにそれを取り忘れてた……、そしたら、ダンジョンの難易度が崩壊した……ってことか……」


「そういうことになりますっ!」

 とクルジェ。


「今からでも遅くないのかな?」


「えっ!? どういうことですか?」


「いや、その聖者の井戸というの? どうせ近いんでしょ? それに数々の試練ってなんか乗り越えたらレベルアップしそうじゃん?」


「いえ……、聖者の井戸のイベントは基本的に知識、ひらめきなどが試される、知的なパズル要素全開のものなので、戦う役には立ちませんっ!」


「ってことは身の危険もないの? クイズみたいなのに答えていくだけ? リアルな脱出するゲームみたいなもん?」


「まあそうですが、身の危険はありますね。マニュアルオープンっ!」

 クルジェはマニュアルを取り出すと、


「まあ、マニュアルは暗記しているから呼び出す必要はないんですが、一応……、このあたりは頻繁に仕様が変更されますので……」


 と、マニュアルを捲って


「あっ、ここです。えっと、基本的に聖者の井戸の中は幾つかの部屋に分かれています。

 で、その部屋ごとに用意された課題をクリアする必要があります。課題というのがなんであるかまではマニュアルには記載されていません。

 そして、各部屋には制限時間が設けられてまして、制限時間内にクリアできないと失敗となるわけです」


「よくあるシステムだな……。で、失敗したらどうなるの?」


「えっと、柔らかで、低反発な天井が下りてきて押しつぶされるけど、全然平気で持ち上げたらすぐに天井が持ち上がるだとか、

 クッション性に富んだ壁に挟まれて、でも呼吸もできるし、隙間がゼロってわけじゃないので脱出は容易であるとか、

 高さ1メートルくらいの奈落の底に落ちて、その底にはマットが敷いてあるので怪我はしないとか……」


「ようするに、安全ってことだな……」


「いえっ! 恐ろしいトラップも仕掛けられていますっ!

 マニュアルにはこう書かれています


『聖者の井戸の恐ろしいトラップ。

 聖者の井戸の各部屋には恐ろしいトラップが仕掛けられています。

 これにより、クリアできるか、失敗してしまうか、ドキドキわくわくすることができます。

 尚、トラップの内容については、公開いたしませんが、粉が落ちてきたり、水が落ちてきたり、たらいが落ちてきたりします。

 致命的なダメージを受けるようなトラップはございませんので安心して、トラップに引っかかることができるよう配慮しました。

 以上 マスターより』



「どっかで聞いた内容だなあ……」


「あ、あとこんな内容も……」

 とクルジェが付け足す。


『なお、落ちてくる水には天然水を利用しています。酸性化や有害物質は含まれておりません。

 体に優しい、やや軟水の上質な湧き水を選定いたしました。

 また、粉についてですが、昨今の情勢を鑑みて、小麦粉やカタクリ粉などの食用の粉を利用するのは控えております。

 これは……』


「それって……」

 アイリのほうを向くと、


「ああ、封魔の洞窟の偽扉のトラップとまったく一緒だな……。

 ひょっとすると、いや、ひょっとしなくても使い回し。

 ルーザーが本来のルートを逸れて、イベントをクリアすることなく封魔の洞窟に向ったから似たような仕組みをねじ込んだんだろう」

 と、アイリが言った。あと、コピーペーストによる文字数の水増しという効果もあったりなかったりする。


「あっ? そうなんですか? ほんとだ、偽の扉についての情報がアップデートされてる……。

 しまったっ! 気づかなかった! 早く暗記しなくっちゃ!」

 とマニュアルを読みふけるクルジェに、


「いや、それはもう終わったイベントだから……」


「でもボクはマニュアルを暗記しているというのが唯一の長所なんで……」


「あとにしてくれない? それより、その聖者の井戸とやらで取れる『導きの蝋燭ろうそく』ってやつは必須アイテムなんじゃないか?

 それがあったら、アイリが魔力を垂れ流しながら歩かなくたって洞窟内が明るくなるんだろう?

 それなら、魔物と戦う機会だってあるかもしれないし……」

 一応、勇者としての自覚というか、何もしないまま他のメンバーの力に頼って他力本願で事態を進めていくのに懸念を、そして辞意を表明したように言った。


「そうですねっ! 『蝋燭ろうそく』は必要ですよね?」


「そうだろう? それに身の危険が無くって脱出するゲームみたいなのをほんとに体験できるんなら、やってみたいよ!

 そして、キーとなるアイテムを手に入れる。それこそ勇者の歩みだろ?」


「さすがです! 勇者様! ルーザー様!」


「で、どこにあるの? その聖者の井戸って? なんで井戸なのかわかんないけど」


「えっと、聖者の井戸はこの村に、すぐそこにあります」


「じゃあ行こう!」

 と、アイリも伴って歩き出そうとしたその時だった。


「あ~、おもしろかった。暇つぶしにはちょうど良かったね!」

 と、ファシリアが歩いてきた。タマも居る。

「ファーちゃんよく最後の問題わかったですぅ、タマちゃん全然わかんなかったぁ」

「あれはね、ちょっとコツがいるのよ。暗号解読の基本ね。複数の図形や記号があるときは、別々に区切って考えること、それが問題を解くカギよ!」

「でも、あんなに楽しくって、それでもって大切なアイテムが手に入るんだから、なんか得した気分ですぅ」

「ね、これでルーザーくんにも喜んでもらえるわ」


 などと話しながら、ファシリアとタマが近づいてくる。その二人の会話に少々引っ掛かりというか嫌な予感を覚えたような……。


「おかえり! ルーザーくん!」

「おかえりなさいですぅ、ルーちゃん!」


 と、元気に手を振るファシリアとタマ。


「どこ行ってたんですか? この大変な時に!」

 とクルジェが聞くと、


「もちろん聖者の井戸よ! あそこってば封魔の洞窟と違って入場制限無いでしょ?」

「それにルーちゃんとアイリちゃんが、『導きの蝋燭』を忘れて行っちゃってたから!」


「ふたりで取ってきたの!」「ふたりで取ってきたですぅ!」


 と、ファシリアが蝋燭の燭台のようなものを差し出してきた。


「これって……」

 と押し黙るアイリ。


「ルーザー様が今から行こうとしていた聖者の井戸、そして待ち受ける試練の数々、果たして勇者ルーザーの運命やいかに!?

 から一転して、

 え~、洞窟内で明るく過ごすためには、『導きの蝋燭』が必要なのです。

 それには聖者の井戸に行く必要があります。

 そこで数々の試練が待ち受けています。


 そして、その試練を乗り越えて手に入った『導きの蝋燭』がここにありますっ! 状態!」

 とクルジェ。三分間クッキングかっ!


「とほほ……、何やら楽しそうなイベントが起きたと思ってたのに……」

 とがっくりと肩を落とす。


 その時突然、クルジェが叫んだ。

「ああっ! 大事なことを忘れてましたっ!」


「どうしたの?」「どうしたんだ?」

 などと一同が口々に問いかける。


 クルジェは、

「全員そろったところで大変なんですっ! いえ、ルーザー様には直接関係しませんが、いや、ルーザー様にも間接的に関わってきますっ!

 そうでした、今回の冒頭で『村に帰ると大変なことになっていた』なんて記述しておきながら、話が横道に逸れていました!」


「だからなんなの?」


「村の……一部の人たちが、やっぱり俺達、わたしたちも勇者のパーティに加わりたいって言いだしたんですっ!」


ファシリア「ええっ! 倍率低そうだと思ったのに」

タマ「そんなの困るですぅ」

アイリ「それはそれは……。先にパーティに入っておいて正解だったな」


そういうわけで、数百年ぶりに開かれるんですっ!」

 とクルジェ。


三人娘「まさか!!!!!!」




クルジェ「そのまさかですっ! 『夭下一ぶどう会』ですっ!

 勇者のパーティメンバー争奪! 『第18回夭下一ぶどう会』の開幕ですっ!」


 いや、『夭下一』ってどういう風に読むのさ? 『天』と『夭』って似てるね。異世界って日本語使ってないんじゃない? とかいうツッコミはおいておきつつ。

 ネタが尽きた……、いやさ、少年漫画における人気のテコ入れ、それっぽい大会が開かれるということにあいなったのだった。

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