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十二鬼将現る!

 さっきまでより道が太くなった。そして奥へまっすぐ伸びている。


「そろそろ終点が近そうな気配だな」

 とアイリがぽつりとつぶやく。


 そういえば、クマのベアリーは、洞窟に入ってから無言を貫いている。まあ無言とは言っても、実際に喋ってるわけじゃなくアイリがそれっぽく演出しているだけなのだが。

 律儀に背中に背負って連れてきているが、特に何の意味もない。あえていうなら安心感? アイリにとってベアリーが居るのと居ないのとでは何かが変わるって可能性。


「もう終わり? あっけないなぁ……。中ボスみたいなのも、知らない間に倒しちゃったし。

 あっ、そうかっ! この先には大ボスが居るのか!」


「そうだろうな。どうだ? 相手をしてみるか? もちろんピンチになったら助けてやる」


「そうだなあ、やっぱり何もしないまま地下第一層クリアってのもつまらないし……」


 そんなことを話していると通路の奥から女の子の声が。大声なのでかなり離れていても聞こえる。


「よくぞここまでたどり着いた! 勇者とその一行よ! 我こそは、△※■%&で=:<#の一人! …………」


 とはいえ、まだかなり距離があるため、ところどころ聞き取りにくいところがある。


「なんだ!? 良く聞こえないぞ! ちょっと待て、もう少し近くに行くからっ!」

 とアイリが歩を進めると、


「ま、待て! それ以上近づくな! お前の魔力の圧力で死んでしまうだろう! ゴホッ、ゴホゴホッ……」

 命がかかっているのか、ひときわ大きな声を出し、最後の方は咳き込んでしまってる……。


「なんだ~? 近づくなって? それじゃあもうちょっと聞き取りやすいように大きな声でしゃべれよ!」

 とアイリ。腹式呼吸の良く響く声。


「だから~、よくぞここまで辿りついたって褒めたの! そいでもって、わたしが、かの有名な十二鬼将の一人、冷酷なる暗殺者アサシン、影とともに生き、影を操る影使い、それでいて超絶グラマーな体と、クールビューティな美貌を兼ね備えた、十二鬼将の7人娘が一人、カヲルコ様だっ!

 なんとスリーサイズは下から、ヒップ88、ウエスト46、バスト92だっ! 巨乳でありながらスレンダー! この腰のくびれが男を惑わす!

 ぷっくり唇とアヒル口! 」


 いろいろ突っ込みどころが多い……。女性比率が高い。自分で超絶グラマーだと言ってる……。ウエスト細すぎ……。これくらいにしておこう。

 こういうのが、あと11人――そのうち五人は男性だとしても、まともなキャラは居ない気がする……――もいるのか……。ちょっと疲れそうだ。


「じゅうに……きしょう……?」


「十二鬼将ってのは、魔王の配下。魔王より先に復活して、復活をサポートする係のものたちだ。あと、四天王とか獣人三兄弟とか、魔王復活阻止戦隊ユウシャヲヤッツケルンジャーとかいろいろいるらしいが、そいつらは出てきたり出てこなかったりする。まあ、十二鬼将だって、出てきたり出てこなかったりするんだが、一人出てきたってことは他のメンツもそろっているんだろう」

 アイリが答えた。


「で? 何の用なんだ!」

 アイリがカヲルコに向って大声で尋ねる。


「決まっているだろう! ゲホっ! わたしがここに居る理由はただひとつ!

 お前たちの魔王復活阻止を阻止するためだっ!

 そして、もうひとつっ! それが、わたしに与えられた任務であり運命さだめだからだ!

 なにより、儚く散って行った十二鬼将の一番手、戦慄の三択女王ミナギサと、同じく二番手、驚愕の朴念仁、キラータロウの仇!

 無念に散った仲間を思うこの優しき心。これこそが、魔王の統べる世界において美徳とされる」


「なんか言ってるけど? 俺達そもそも十二鬼将になんて出会ったっけ?」


「知らない間に倒してしまったという可能性もあるな……」


「ああ、そういうことか?」


「ちょっと待て、確認してみる」

 とアイリが、

「おいっ! カヲルコとやら! その十二鬼将の一番手、二番手ってのはどこに居たんだ?

 私たちは出会った記憶がないんだが?」


「…………」


「聞こえないっ! もっと大きな声で! なんなら近づこうか?」


「それはダメだ! 死んでしまうではないかっ! この階に居ただろう? 一人は宝箱の前でずっと頑張って待っていたはずだっ!

 もうひとり、ミナギサは洞窟の入り口で待ち受けていたはずだっ!」


「やっぱり……」


「あの時にプチっと倒してしまった奴だな。そして入り口に居たって奴はさっぱり気配すらわからなかった……」


「何をごちゃごちゃ言っている! とにかく! 勝負だ! お前たちの行く手を阻むのがわたしの使命、いや運命さだめ

 いざ! 尋常ゴホっ、ゲフっ とにかく勝負だっ!」


「なあアイリ? 俺はどうすりゃいい?」


「相手が勝負を望んでいる以上……受けて立ってやるのが男だろう」


「そうだよな……、だけど……、動かないスライム相手だったらまだしも、こんな重い斧を持って戦っても勝てる気がしないよ……。

 それに、なんか怪我さしちゃいそうじゃん? 仮に当たったとして。血とかばあーってほとばしったりとか……。俺苦手なんだけど……」


「なあに、そのことなら問題ない。あいつらもスライム同様に一定以上のダメージを受けると消滅してしまう。

 残酷描写にはならないさ!」


「そうなの? スライムと一緒なの?」


「というか、あいつらもスライムの一種だからな」


「へ?」


「オーガスライムというのが居てな。まあ人型に進化してそこそこの知識も身に着けてる。要は見た目はああだが、スライムの仲間だ」


「そうなの?」


「だから! ごちゃごちゃ言ってないでさっさと勝負しろ! それにそんなに遠くに居たら、わたしのナイスバディーと美貌が良く見えないだろうっ!

 さっさと近くに来て、しばしわたしのルックスを堪能した上で、さっさとやられなさいっ!

 あっ、そっちの女は来るなよ! お前が近づいたら死んじゃうからっ!

 勇者だけ、男だけ。悩殺ボディにメロメロになって戦闘能力を失いかねない健康な男子で始終強力な魔力を放出なんて無茶なことをしていない奴が希望だっ!

 一騎打ちだ! さあこい!」


「なんか嫌だなあ……。いろんな意味で」


「なら瞬殺しようか?」

 アイリがぶっきらぼうに言うが、


「それはそれで後味悪そうだな」


「なに、もう既に二人も倒してしまってるんだ。十二鬼将とやらを。こうなったら二人でも三人でも一緒だろう?」


「そうだな……。そうしようか?」


「じゃあ行くぞ! と言ってもただ歩いていくだけだがな……」

 アイリがゆっくりと歩を進める。


「待て! 来るな! 死んでしまうじゃないか! それに、見ないと損だぞ? ウエスト40代って貴重だぞ! なんだったら脱ぐから?

 あられもない姿になるからっ! ランジェリー姿になるからっ! 手ブラだってするよっ! セミヌードで戦うからっ! それ以上は見せないけどっ!

 だからお願い! 勇者さんとだけっ!

 そっちの男の子一人で来てよぅ!」


 一旦立ち止まったアイリが振り返りながら、

「あんなこと言ってるけど?」


「う~ん。たしかに……。ナイスバディは……必見の価値あり……って別にいいよ」


「そうか、じゃあこのまま進もう……」


「待てっ! まてぃ! わたしの色香に迷わないとは! さすが勇者だ!

 それならば、わたしも奥の手を出そう!

 なぜならわたしは影使いっ! わたしの操る影の正体こそが、十二鬼将のひとり、姿を見せぬ闇の暗殺者アサシン、カオリコだっ!」


「……………………………………………………

 ………………………………………………………………

 …………」


 遠くに見えるカヲルコの影が実体化して、またなにやら女子の形を取ったが、遠いし暗いし良く見えない。

 それになにか言ったようだが、声が小さすぎて聞こえない。


「カオリコはこう言ってるんだ!


 わたしの正体を暴いたことを誉めてやろう!

 名前が似ているということで、よくカヲルコと間違われるし、キャラがかぶってるって言われるけど、それは単なる伏線。

 双子の姉妹、カヲルコとこのわたし、カオリコのコンビ芸! 二重暗殺術にかかって敗れ去るがいいわっ!


 ってな!」


 カヲルコが必死で説明するがもはやどうでもいい。


「もうひとりも一緒にやっつけちゃえる?」


「もちろんだ。あいつも強さ的にはもう一人とそう変わらない。瞬殺レベルだな。もう少し距離を詰めれば消え去ってしまうだろう」


「ああ~っ! 来るな! 近づかないでくれ!」

「…………」


「ここは一旦退くぞ! カオリコ! って、逃げ場がない! 行き止まり! くそう! 卑劣な!

 ああ~! 痛い……、苦しい! 死ぬ、ほんとに死ぬ……」


 プチプチっっ! と何かがはじける音が小さく洞窟内に木霊した……。


「あとは、奥の部屋へ行って、封魔の指輪を取って終わりだな……」

 無感動な、無慈悲なアイリの台詞。


「ああ、そうだな」


 と小さく頷き、カヲルコ、そしてカオリコ、それから、知らないうちに倒してしまったミナギサとキラータロウという、変な名前の十二鬼将軍たちとの激闘の想い出、戦いの余韻に浸るでもなく、ただ事務的に歩を進めるのであった。

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