ありきたりなプロローグ
本作品に素晴らしいレビューが寄せられましたので、本編を読む前にご一読することをお勧めします。はい。
では、よろしくお願いします。
「いらっしゃいませ~! 異世界へようこそ~!
本日は転生ですか? トリップですか?」
気が付くとそこは異世界だった……。
俺の対応をしてくれたのは、緑色の髪をした少年。まだあどけなさの残るその顔立ちは、可愛らしいという言葉がしっくりくる。
「転生? トリップ?」
思わず聞き返してしまったが、ここが異世界なのだとしてだ。
別に赤子になっているわけではない。
生まれ変わったわけではないから、トリップの範疇に入るのだろう。
見ればわかるだろうに。
「トリップですね~。かしこまりました~。
元居た世界のご記憶はお持ちでしたでしょうか?」
言われてみると思いだせない……。はて? 何がきっかけでこんなところに来てしまったのやら……。
そう言えば、部屋で本を読もうと思っていたというくらいのぼんやりとした記憶。
たしか……『初めての○○入門』とかいう本だったのだが、何の入門書だったのかも思い浮かばない。
自分の年齢もそうだ。高校生だったような気もするし、大学に通っていたような気もする。
働いていたような……、結婚して子供が居たような居なかったような……。
さすがに孫は居ないし、小学生や幼稚園児ってこともないだろうけど……。
「では、記憶喪失ということで承りました~。
ご一緒にポテトもいかがでしょうか~?
あ、これはギャグです! 一応小ネタを挟んでおけとマニュアルにも書いてございますので」
寒いギャグとネタばらしはいらんよ。心底そう思う。
そんなこんなで、初期設定? を終えて、俺は俺に与えられた役割を聞くことになった。
「ボクたちの世界では、数百年に一度、魔王が降臨するという危機にさらされるんです。で、その対策としてマスターが救世主を派遣してくださることになってます!」
「マスター?」
「えっと、そちらの世界でいうところの神様、創造主のような存在と思っていただければ……。
で、あなたがまさに派遣された救世主というわけです!
わたくしども、世界の住人が徹底的にサポート致しますので、はりきって世界をお救いくださいませ~」
やけにあっさりと世界の運命を託してくれたもんなんだけど。
「拒否権は?」
「ございません。拒否された場合も代わりの救世主は派遣されませんので、その場合は、この世界とともに滅び行く運命でございます!
また、魔王の降臨を阻止できなかった場合も同様に、世界とともに滅び行くことになっております!
元居た世界に帰ることもできません!」
明るく破滅的なことを言う少年だ……。
とにかくやるしかないか……。
「では、救世主様! 詳しい説明をさせていただきますね!」
俺は、クルジェと名乗った少年の長い説明にひたすら聞き入った……。