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第一部 試衛館の剣

前書き


本作は、新選組一番隊組長・沖田総司を主人公とした歴史フィクションです。


第一部では、幕末の動乱が始まる前、

江戸・試衛館での修行時代を描いています。


まだ名もなく、地位もなく、

ただ剣だけを信じて生きていた若者たち。


近藤勇、土方歳三、沖田総司――


後に新選組として名を残す彼らが、

どのような絆で結ばれていたのかを、

本作なりの解釈で描いていきます。


史実を元にしていますが、

本作品は創作を多く含む物語です。


少しでも楽しんでいただければ幸いです。

 江戸・市ヶ谷の外れ。

 小さな道場があった。


 試衛館――近藤勇が継いだ天然理心流の道場である。


 朝の冷たい空気の中、木刀の打ち合う音が響いていた。


「はあっ!」


 鋭い踏み込みとともに、若い剣士が前に出る。

 だが、その一太刀は軽く受け流された。


 受けたのは、まだ十代半ばほどの少年だった。


「遅いですよ」


 静かな声。

 次の瞬間、木刀が相手の喉元に止まる。


「……参った」


 倒れ込むように膝をついた門弟を見て、道場の奥から声がした。


「また総司の勝ちか」


 腕を組んで立っていたのは、近藤勇だった。


 がっしりした体格。

 豪胆な目。

 まだ若いが、この道場の主としての風格がある。


「強すぎるぞ、総司」


「そんなことありませんよ」


 沖田総司は、にこりと笑った。


 笑顔だけ見れば、ただの少年に見える。

 だがその剣は、誰よりも鋭かった。


 その隣で、木刀を肩に担いでいる男がいた。


「お前は強すぎるんだよ」


 低い声で言ったのは、土方歳三だった。


「俺たちが相手だと、修行にならねぇ」


「土方さんが弱いだけですよ」


「言ったな、この野郎」


 笑いが起こる。


 試衛館は、貧しい道場だった。

 だが、ここには奇妙な熱があった。


 金もない。

 名もない。

 未来も見えない。


 それでも彼らは、剣を振るっていた。


 ただ、強くなるために。


 ただ、仲間と生きるために。


 そして――


 まだ誰も知らなかった。


 この小さな道場の若者たちが、

 やがて幕末の嵐の中で名を刻むことを。



◆夜の試衛館


 稽古が終わると、道場は静かになる。


 囲炉裏の前に、近藤と土方と総司が座っていた。


「京が荒れてるらしいな」


 土方が言った。


「浪士が集まってるとか」


 近藤は黙って聞いていた。


「幕府が人を集めてるって話だ」


「……京か」


 近藤はゆっくり言った。


 江戸の外。

 戦の匂いがする場所。


「行きますか?」


 総司が聞いた。


 近藤は少し笑った。


「行きたいか?」


「はい」


 迷いはなかった。


 土方も笑った。


「俺もだ」


 沈黙が流れる。


 火がはぜる音だけが響く。


 やがて近藤が言った。


「なら決まりだな」


「俺たちは、剣で生きる」


「逃げねぇ」


「曲げねぇ」


「最後までな」


 総司は静かにうなずいた。


 この時の約束が、

 彼らを新選組へ導くことになる。


 だがその道は、血に染まっていた。


 まだ誰も知らない。


 この中の誰かが、

 若くして死に、


 誰かが処刑され、


 誰かが最後まで戦い続けることを。


 それでも――


 試衛館の夜は、静かだった。


 剣だけが、そこにあった。



第一部 試衛館の剣 終

後書き


第一部「試衛館の剣」を読んでいただき、ありがとうございます。


この章では、

まだ新選組になる前の近藤・土方・沖田たちの姿を書きました。


強さを求めるだけだった若者たちが、

やがて時代に巻き込まれ、

戦いの中へ進んでいく。


その始まりが、この試衛館だと思っています。


沖田総司は史実では病弱なイメージもありますが、

本作では誰よりも強く、

そして誰よりも仲間思いの剣士として描いています。


次の第二部では、

いよいよ壬生浪士組、新選組誕生、

そして血に染まる京の戦いへ進みます。


誠の剣は、ここから本当に始まります。

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