異世界もハラスメントが最強すぎる件。 ~その言動、不快です。~
「ハル。突然だが、お前はこのパーティーから出て行ってもらう」
「…………え?」
冒険者ギルドに併設された酒場。
一番遅れて到着した僕が席に着くなり、パーティーリーダーのセオが静かにそう言った。
「出て行くって……どういう事ですか?」
「そのままの意味だ。お前は、このパーティーから抜けてもらう」
「な、なんで!」
唐突な追放宣言に困惑しながら隣を見ると、パーティーメンバーのメリーがため息をついて、
「そりゃあ、あんたが弱いからに決まってるでしょ」
と言った。
「足は遅いし力も無い。どんくさくてノロマ。使える人脈も貯金も無いようだし、完っ全に戦力外だわ」
「そ、そんな……! 確かに強くはないですけど、僕だってちゃんとパーティーに貢献してるはずです!」
「はあ?」
「この前だって、剣ハラリザードを数十体倒しましたし、毒ハラドラゴンの囮役だってしたじゃないですか! 毒ハラの四肢を全部部位破壊したのは僕で――」
「でもなぁハル。トドメをさしたのは俺、だろ?」
怪力のパーティーメンバー、ゴルードが言った。
「冒険者ってのはなあつまり、倒した奴が一番偉いんだよ。だからお前の活躍は0だ」
「そ、そんなふざけた事――!」
「第一、お前――【能力】持ってねえんだろ?」
「っ…………」
ゴルードの言ったその言葉に、僕は反論することが出来なかった。
この異世界で生まれた人間は、生来的に一人一つ【能力】を天から授かる。
僕ら人間の特権であり、僕ら冒険者が魔物を倒すために不可欠なメインウエポン。
差異はあれど、どの【能力】も強力だ。
卓越した剣技?
現実離れした大魔法?
いいや違う。
その【能力】とは――。
「だからてめえは、雑魚なんだよ――オラぁ!!!!」
全身が軽く吹き飛ばされ、他のテーブルに激突する。
揺れる視界で見上げれば、ゴルードが一瞬で立ち上がって僕を蹴り飛ばした事が分かった。
「どうだ。これが俺の能力――《パワハラ》だ。てめえみたいなゴミに使ってやったんだ。光栄に思えよ」
ゴルードの【能力】――《パワハラ》。
機能はいたってシンプル。
自分に相対する対象へ向けて、極大火力攻撃をすることが出来る。
筋肉や魔法の力じゃない。そんなのとは比べ物にならない。
物理面・精神面もどっちも著しく脅かす――ハラスメントの誇る超威力だ。
「……なんで……ぐっ」
「ったくゴルード、やりすぎよ。騒ぎになったら周りに迷惑かかっちゃうでしょうが。……ほらハル、大丈夫?」
メリーが手を伸ばしてきた。
「う、うん。ありがと――」
「……ふっ」
「――! あばっばばばばばばばばばばばば!!!!!!!」
メリーの伸ばした手に触れた瞬間、僕の全身を稲妻が駆け抜けた。
「あははッ! ほんっとに馬鹿な奴! 一体誰があんたなんかに手を差し伸べるというの!」
「……め、メリー……! どうして……」
「あら、そんな濁った目で見ないで。汚らしい。はあ――そういうの何て言うか知ってる?――《セクハラ》よ」
【能力】――《セクハラ》。
機能は、「能力者自身がセクハラだと感じた行為をした者に、裁きの雷を与える」というもの。
セクハラの定義は曖昧。
今回みたいに、「ただ触れる」だけでセクハラ判定になる事もある。
触れるように手を伸ばしてきたのがメリーだとしても、関係ない。ハラスメントは絶対だ。
で、でも一体、どうしろと――、
「さあハル、今すぐ出て行くんだ。そして二度と俺達の前に顔を出すな」
リーダーのセオが、僕を酷く醜いものでも見るかのような目つきで言い放った。
「このパーティーに、お前のような社会的弱者は――要らない」
* * *
確かに、僕は弱い。
別の酒場で一人、安酒をちびちびと飲む。
お金が無いのだ。パーティーを追放され職場を失った今、収入源も消え失せた。
お先真っ暗。
「はあ……」
ため息しか出ない。
僕は、生まれながらにして手に入れることが出来る――【能力】をゲットすることが出来なかった。
いや。
正確には、自分の【能力】が分からないのだ。
《パワハラ》みたく、スーパーパワーを体に宿すような超人感覚も経験したことない。
《セクハラ》みたく、迷惑・不快感を武器として認識することなんてできない。
《モラハラ》の精神魔法も、《マタハラ》の生命を侮蔑するような瘴気も、今の僕には無い。
僕も……セオの【能力】みたいな強い能力が欲しかった。
セオの【能力】の詳細は不明。
メリーやゴルードは知っているようだが、僕だけには知らされていない。信用が足りていないんだろう。
唯一分かるのは、とにかく強い事。
――彼が魔物に向かって、
< 自害しろ。 >
と一言呟くだけで、その魔物はたちどころに自分で命を絶つ。
最恐無敵。
彼の「命令」には、誰もあらがえない。
どんなに恐ろしいハラスメントなのか……僕には想像もつかない。
「……くそっ」
不意に涙が流れた。
どうして、僕だけ【能力】が無いんだ。
能力さえあれば、僕だって彼らと同じように戦えたのに。
「お、ハルじゃん! こんなところで何してるの?」
震える僕の肩を、誰かが叩いた。
「……アイリ!」
「お久しぶりだね、ハル。冒険者になってバリバリ冒険してるって思ってたけど、こんな廃れた安酒場でやけ酒? 何かあったの?」
僕を心配そうに見つめる少女は、幼馴染のアイリ。
年齢は僕の一個下。同じ村で一緒に育ったから、子供の頃から現在までとても仲が良い。
今は隣町で薬草屋を営んでいたはずだが――。
「あ、アイリこそ、どうしてここに?」
「いやあ、今日は店はお休みの日だから飲み歩いてんの。この酒場、よく来る行きつけの店なんだよ? ――ね、マスター!」
「おうアイリ! こんな廃れた安酒場にいつもありがとな!!」
アイリの呼びかけに禿げ頭のマスターが反応する。「やべ、聞かれてた……」と頬を掻くアイリに、僕はふっと笑ってしまった。
「……ふ、っ、あははっ」
「ハル?」
「……はあ、ありがとアイリ。元気出たよ」
「え、何もしてないけど。なんか怖いよハル」
「ええ?! 酷いなあ」
「ははっ……まあいいや。それよりどうしてここに? ねえ、折角だし、ちょっと話聞かせてよ」
アイリの陽気さに引きずられるように、僕はさっき起きたことを愚痴りながら説明した。
彼女は僕と一緒に怒り、悲しみ、そして笑い飛ばしてくれた。
……そんな笑顔に、何度救われてきたか。
僕にとってアイリは、何年経っても何が起きても――最高の幼馴染だ。
* * *
一週間後、僕はアイリの薬草屋で働かせてもらえることになった。
働くところ無いなら私のところに来なよ、と明朗快活に笑う彼女に、僕は土下座したい思いだった。
本当に最高の友達だ。
薬草屋の仕事は驚くほど簡単だった。
仕入れられた薬草の鉢を種類ごとに、棚に順序良く並べる。
定期的に水をやって、健康状態を確認・記録する。
お客様が来たときは、勘定台で会計をする。
冒険者だった時の知識も活用できた。
薬草の詳細を求められたときには、使ってきた経験や状況を例示することで実用的な説明ができた。
「……ああ、もしかしてこれが、僕の天職だったのかもしれないなあ」
冒険者だった頃より、薬草を売っている今の方が遥かに楽しいと思っている自分に、自分でも驚く。
毎日、仕事にやりがいを感じる。
薬草がみずみずしく成長するさまを見ると、言い表せない達成感が身を包む。
――しかも、毎日アイリと会うことが出来るしね。
「おー、邪魔すんぜぇ」
入店時のベルが鳴った。
「あ、いらっしゃいま――――――え」
「……あれ? ハルじゃん。こんなとこで何してんの??」
「おお、また会ったな雑魚」
「……ふふっ」
「み、皆…………」
三人の客は、セオ、メリー、ゴルード――かつての僕のパーティーメンバーだった。
* * *
「ギルドで最近見ないなーって思ってたら、こんなとこで働いてたんだ」
「へえ、てめえみたいな雑用にはお似合いの仕事じゃねえか。……ちょうどいい。ハルてめえ」
ゴルードが僕の胸倉をつかんで、低い声で言った。
「この店にある薬草とポーション、タダで全部寄越せ」
「……は、はあ!?」
何言ってるんだこの人は。そんなことできる訳ない。
この店は――薬草は、アイリが一から集めてできた彼女の人生そのものなんだ。
お前らみたいな奴らに、簡単に渡せるものじゃない。
「だ、駄目に決まってるだろ!」
「あ? なんだてめえ、俺らに口答えすんのか?」
「当たり前だ! 全部タダでなんて――そんなの、強盗とやってる事は同じじゃないか!」
「ほーお、まあ、確かに一理ある」
ゴルードがにやりと面白そうに笑った。
「ハルお前、この店の主人か?」
「え……いや、アイリは今外出中だ」
「なら、お前が代理の主人って事になるよなあ」
「だ……だったらなんなんだよ」
ゴルードのギラギラした赤い目が、僕を見下ろす。
「この店の中で上の立場であるお前が、客人という下の立場である俺達に『従わない』って言ってるんだよなあ――――これ、優越的な権力の乱用――《パワー・ハラスメント》に該当するぜ」
「はあ!? そ、そんな馬鹿な、はな、し…………」
僕の前で、ゴルードの筋肉質な肉体が膨張する。
熱気のような覇気が辺りに漂う。
【能力】だ。
「ひっ」
反射的に後ろに下がる。
「何びびってんだよハル、それでも元冒険者か? マジで情けねえ奴だなあ。……そのほっそい根性、俺が叩き直してやるよ――!!」
鬼のこん棒みたいな右腕が振り上げられ、僕の脳天に向かって振り下ろされる。
「うわああああ!!!!」
風圧で店中の薬草がなびいた。
凄まじい量のエネルギーが、頭上で爆発して――、
「やめろ、ゴルード」
ゴルードのパンチを止めたのは、なんとセオだった。
「は? セオ? 何で止めんだよ」
「あくまで、俺達はこの店の客だ。店員であるハルに、俺たちが逆らっていい道理なんて無い。違うか?」
「……」
「そうね、その通りだわ」
「メリーもかよ」
「腕を下ろして【能力】を撤回しなさい、ゴルード」
「はあ……チッ」
ゴルードがつまらなさそうに舌打ちして能力を解いた。
「…………セオ……」
なんで、彼が僕の味方になるようなことを言い出すんだ。
意味が分からない。
でも、セオが言っていることはとても真っ当で真面目で……全く悪い人には見えない。
もしかして、実はセオは――冒険業に真面目なだけの、普通に良い奴……だった、のか?
「なあ、ハル」
「……う、うん」
僕の前にセオがすたすたと歩いてきて……
「 < 土下座しろ。 > 」
と言い放った。
次の瞬間、足と腰が勝手に崩れ落ちて、僕は床の上にひざまずく。
両手と頭が真下に吸い寄せられるように床にくっつき、額に鈍い痛みが走った。
「がっ――」
「……はは、ははははははっ!! ははははははははっっっ!!!!!!!」
セオの笑い声が店内に響く。
「どうだ、ハル!? 安心したか!? 店員と客という立場の差を思って愉悦したか!?」
「……な、なんで!! セオ!? さっき言ってたのは何だったんだよ!」
「ああ? 嘘に決まってるだろあんなの。俺はなあ、お前みたいな思いあがった奴を引きずり落とすのが大好きなんだよ」
いつも冷静沈着なセオが、今まで聞いたこともないような上ずった声で叫んでいた。
「残念だったなあハル! お客様に跪く劣等感は!?!? 恐ろしいか!? クビになるのが怖いか!? 炎上するのが怖いか!?!?」
「――な、何言って――」
「はははっ!! お前ごときには分からないだろうな! 俺の高貴で、尊大で、神のような【能力】は!!」
セオが、狂気じみた声で宣言した。
「胸の奥にしかと刻み込め。――お客様は、神様である、と」
「――ッ!!」
全身を恐怖に似た震えが包んだ。
噂に聞いたことがある。
最も強く、最も残酷な【能力】。
その理不尽さとチートじみた機能から、その能力を扱うものは一様にして「カス」と呼ばれる、伝説のハラスメント。
カスタマー・ハラスメント――《カスハラ》だ。
「セオ! 君はもしかして《カスハラ》の能力者なのか――!!」
「ああそうさ! ようやく気付いたみたいだな! お前みたいな凡人でも、少しは学があるようだ!」
「くっ――! 魔物に命令するのも、カスハラの力か!」
「はははっ! 当たり前だろう! ダンジョンという商業施設に招かれた俺達冒険者という客人。それを迎える魔物という店員たち。どちらがへりくだるべきかは一目瞭然だ! 俺は神であり、魔物はゴミであるからな!!」
「なんてことを――。セオ、君はそんな最低な思想の持ち主だったのか」
「何とでも言え。薬草屋の店員。お前は既に――俺のハラスメント対象だ」
全身を縛る力が強くなる。
額がより強く地面にこすり付けられる。
くそ。
なんで俺は、こんな惨めな姿を晒している。
ちくしょう。
なんで。
アイリからこの店を任されたのに。
僕を救ってくれた彼女に報いたいのに。
なのに、どうして。
――僕に、力さえあれば。
僕も、理不尽に立ち向かえる――能力があれば!!!
「さあ、終わりだ。 < 商品を全て、俺達に無償で差し出せ。 > 」
絶対なる命令。
従ってしまえば最後、この店は完全に潰れるだろう。
赤字も赤字……大赤字だ。
けれど、僕はその言葉に逆らえない。
……はずだった。
「……あ」
その瞬間、僕は何かに違和感を覚えた。
「……」
「なにしてるハル。早くしろ」
「……」
そうだ。そうだったのか。
これが、僕の【能力】――――。
「……はは」
「……? 何故、動かない」
「……あははは、あははははっ!」
「いい加減にしろゴミ店員、もう一回だ! < 商品を全部、俺達に寄越せ。 > 」
「……そんなキツイ言い方しないでよ、セオ」
僕がそう呟いて、目の前のカスを一瞥する。
その直後。
巨大な旋風がセオの目の前に突然出現し、彼の体を紙切れみたいに吹き飛ばした。
「――――――があッッ!!!!」
セオはそのまま薬草棚に激突し、ずるずると落ちて動かなくなった。
ははは――当然の、報いだ。
「てめえ! 何した!!」
「何って、ハラスメントを注意しただけだよ」
「チッ! クソが。おいハル――」
「やめて」
また、目視。
案の定、次の瞬間にゴルードの体が真横に吹っ飛んだ。
「はあ……《カスハラ》も、《パワハラ》も、結局こんなもんか。大したことないなあ」
「ヒッ――は、ハル! ――な、なんなの!!?」
「最後は君だよ、メリー」
僕がじりじりと詰め寄ると、メリーは涙目で後ずさった。
「ち、近寄らないで!! それ以上来ると《セクハラ》で攻撃するわよ!!」
「え、何? メリーも僕に怖い言葉遣いするの?」
「ば、化け物が――!!」
メリーは僕を睨みつけながら後退する。
すると、ゴン、と薬草の棚に右手をぶつけてしまい、少し顔をしかめた。
見れば、右手の甲が少し腫れてしまっている。
あの棚には小さな棘付きの薬草が置いてあったし、それに当たってしまったのか。
「痛っ。もう――!」
「あ」
かかった。
「え?」
「…………」
「――なんで!? まだ私、何も言ってな――!!」
「……それ、ハラスメントだよ?」
「ごふっ――!」
突風がメリーを薙ぎ払い、彼女の意識を奪った。
棚が崩れる音の後、店内に静寂が訪れる。
「……はあ、はあ」
僕が、やったんだ。
セオも、ゴルードも、メリーも、全員埃の中で白目をむいて気絶している。
これを全部、僕の力で。
これが僕に秘められた【能力】――《マルハラ》だ。
機能は――「。」つまり句点が付いた文言を発言した存在を、一瞬で無力化するというもの。
そいつがどんなに強くても怖くても関係ない。
勇者でも魔王でも、「。」を口に出した時点で、全員一撃でただの木偶の坊にできる。
……信じられないな。
こんなに強い能力を僕が宿していたなんて。
「……あははっ」
いや、強い能力っていうか。
当然だよな。
僕に、アイリに、この店に――あんなに怖い言葉遣いをして怖がらせるなんて。
本当に最低最悪だなあの三人。
「。」なんかつかっちゃって。
「。」なんてそう易々と使っていい代物じゃない。
あいつらは「。」が含有する恐るべき威圧感を理解していないのだ。
あの矮小な丸一つで、一体どれだけの人が苦しめられてきたか――!
「あははははっ! あははははっ! あはは――」
「ただいま――って………………なに、これ」
ベルが再び鳴って、アイリがドアから姿を現した。
「ああ、おかえりアイリ」
「た、ただいま……って! え!? 何これ!? 薬草も棚もぐちゃぐちゃじゃん! 店内埃まみれだし――は!? お客さん三人倒れてるし!」
「安心してよアイリ。彼らは皆悪い奴らなんだ。この店を潰そうとしてきて――」
「え、ええ!? これ全部ハルがやったの!?!?」
「うん。僕が【能力】でね。……だって、しょうがなくない? こいつら僕らに向かって「。」なんて使ってきたんだよ!? 流石に非常識過ぎない!? こんなの、立派なハラスメントだよね!!」
僕が少し得意気にそう言うと、アイリは手に持った鞄をポトリと落として、
「……「。」を使うことが、ハラスメント?」
と呟いた。
「そんな些細な句点一つで、ハラスメント扱い?」
「え? 当たり前じゃん。不快で迷惑だし」
「悪口とか、誹謗中傷とかじゃなくて?」
「それも悪いけど、文章終わりに「。」を付けるのもそれくらい悪いよ。だって単なる会話だよ? 小説の地文じゃあるまいし」
そう説明すると、アイリは数秒沈黙した後、深くため息をついた。
うーん、アイリは何に引っかかっているんだろう。
さっぱり分からない。
「ねえハル」
「何?」
「そういう過剰なハラスメント反応、何て言うか知ってる?」
「……え?」
「――《ハラハラ》って言うんだよ。ハル」
ビュン。
細くて短い何かが、僕の胸元を通って行った。
「……え?」
直後、熱い激痛が胸の辺りを襲った。
撃たれた?
何に?
ピストル? は?
「あ、アイ……リ……っ」
薄れゆく視界で最後に見たものは、驚くほど冷たい視線で僕を見下ろす、幼馴染のアイ――――――………………
* * *
「――はっ!!」
飛び起きる。
手汗で濡れた両手で握っているのは、子供の頃から使ってる白い毛布。
部屋は暗い。
が、うっすらと勉強机、通学用リュック、クローゼットに制服が見える。
「…………」
どこにも薬草や棚、ドアに括りつけられたベルは無い。
異世界じゃない。
僕の自室だ。
「…………夢、か」
時間を確認しようと、半ば呆然としながら枕元で充電しておいたスマートフォンを手繰り寄せた。
〈 篠田 愛梨 から一件の新着メッセージが届いています〉
ロック画面に表示されている表示に、嫌な予感がした。
恐る恐るメッセージアプリのトーク画面を開く。
* * *
晴「じゃ、あとよろしくね。」
愛梨「おけおけ」
晴「てか、昨日の係の当番忘れてない? 先生が探してたよ。」
愛梨「あー、忘れてたわ(涙)」
晴「やってんな。」
愛梨「幼馴染として、代わりにやってくれたっていいじゃん」
晴「いや、やるわけないだろ。」
愛梨「ケチだなー」
愛梨「てかさ」
愛梨「別に聞き流してくれていいけど」
愛梨「晴のそのメッセ終わりの 。 なんかめっちゃ怖いんだよなー なんか威圧感感じる」
晴「え?」
愛梨「正味怖いから、控えた方が良いかもw」
愛梨「他の女子も言ってたよ、晴とのやり取りなんかきびいって」
愛梨「まあどうでもいいか」
愛梨「じゃあまた明日ねー」
* * *
思い出した。
昨日の夜。
幼馴染の愛梨とアプリで話してて、それで俺の「。」 の使い方を指摘されて……。
ちょっと……いや、結構落ち込んで。
気分が晴れないまま、布団に潜り込んだ。
「………………」
それで、あんな変な夢を見てしまったのか。
はは。
……ああ。
おもむろにトーク画面の返信欄をタップする。
「気にしたこと無かった。もしそれで変に感じさせちゃってたらごめん、愛梨」
そう打ち込んで、送信ボタンをタップする。
いや、夜分遅くに連絡は悪いか?
うーん。
……《ヤブハラ》とかになるか?
「……ま、気にしすぎか」
送信ボタンをタップした。
きっと、本当に大切なのは「ハラスメント」を必要以上に意識して、過敏に反応することじゃないはずだ。
「まだなんか気になる事があったら何でも言ってほしい」
続けてそう送信した。
――何がハラスメントで、何がハラスメントじゃないか。
それを当事者同士で話し合うのが、本当に大切な事のはず。
その相互の認識共有が無いと、関係はうまく立ち行かない。
例えば、追放とかされたりする。土下座催眠させられたりする。
だから。
注意すべきだ。
《パワハラ》も。
《セクハラ》も。
《カスハラ》も。
《マルハラ》も。
それら全部含めた――――《ハラハラ》も。
能力として魔物を倒せるくらい、強力なものだから――、
ハラスメント、ダメ、ゼッタイ。
……もし、それでも語尾に「。」を付けてしまうようなら……僕の【能力】で全員弾き飛ばしちゃうからな。




