18.一輪の花のように
世の中は理不尽だ。
こんなにも私は目立ちたいと思っているのに。中心になりたいと思っているのに。存在を知ってほしいと思っているのに。
自然と華を持っている人がいて、当然のごとくクラスの中心になる。本人にその気がなくても。
もちろん、見た目も関係あるだろう。
彼女は確かに、同性の私でも見惚れるほど端正な顔立ちをしている。そして、どこか大人びた雰囲気とミステリアスの行動に、男子も釘付けだ。
それに比べて私ときたら。
彼女の真っ直ぐなストレートなボブに対し、同じ長さなのに私は癖っ毛。ぱっちりとした二重に対し一重な私。リスのような唇は私の半分ほどだ。
私は心までもしぼみかけていた。自分のあまりの凡庸さと、存在感のなさに。
*
そんなある日──。
五月の日差しが強めな、快晴の祝日。
お昼を食べた後、犬の散歩にとカットソーと短パンに着替え、玄関から出る。リードを引きながら歩いていく。
そこで声が聞こえた。首を後ろにやりつつ上半身だけ振り返る。若い親子連れの二人。角のマンションから出てきたのだろうか。女の子の赤いギンガムチェックのワンピースがとてもよく映えている。
まず私の連れている犬に目をやり、
「ワンちゃんだー!」
と無邪気な笑顔を浮かべ、母親に嬉しそうに伝える。母親は、ちょっと申し訳なさそうにこちらを見やり、軽く会釈した。
「こんにちは」
「こんにちは」
初対面の挨拶は、どこか気恥しい。けれど私も会釈を返した。犬がワン、と一声上げた。
アスファルトの隙間から咲く花に目を止めたらしく、女の子はかがんでそれを見つめる。
「おはなだー。ママ、きれいだねー」
三歳、四歳くらいだろうか。髪の毛を高い位置で二つに結び、イチゴのゴムで止めてある。その子によく似合っていた。女の子の手を取りながら歩いている三十代前半と見られる母親は、にっこりと微笑む。
「そうね、かわいいたんぽぽね」
「でも、にほんだけなんだね」
「仲良しなのよ、きっと」
歩く方向が一緒らしく、歩けど歩けど平行線な私たち。自然に会話が耳に入る。
二本しかないたんぽぽ、かあ。
寂しいなあ。
綿毛も一緒に飛んで行っちゃうからなあ、簡単に。
そんなことを考えていたら。
「ママ!」
「なあに?」
「すごいよ、このふわふわ。お空にとんでいっちゃったよ! いいねえ、お空からはいろんなものがみえるからね」
視線を向ければ、その子はたんぽぽの綿毛に息を吹きかけ、空を舞い上がるその不思議な存在に目を見張っている。ほっぺたを膨らませるその仕草が愛らしい。
「すごい、すごい! たかくあがっちゃうよ」
興奮してかん高い声で話す女の子を、まじまじと見つめてしまった。
そういう考え方があるのか。
子供はいつでも真っすぐだ。歪みを知らない。無邪気なその心には色をつけられない。
だからこそ、子供から学ぶことは多い、というのだろうか。
こんな小さな花でさえ、子供の心に夢を見させ、気分を明るく変えてくれる。
思わず足を止めた。アスファルトの隙間から生えている、たんぽぽ。
もう一度、自分のことを見つめ直そうとする。
そうだ、だったら。
見た目の華やかさじゃなくても、いいのではないのだろうか。
心が華やかであれば、気分も良く過ごせるはずだし、今より友達も増えるかもしれない。
誰かの心に、今の私みたいに心を動かせられるかも知れない。
それで、もし駄目でも。
地面に咲いているたんぽぽのように、間違いなく私はここにいる。
この世の中に、生きている。
【終】
《初出》
2013年10月20日発行「なないろ」収録




