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16.その日の夢


 そこは暗くて人通り少ない道だった。いつもの登校する道のようだ。周りを見渡す。知ってる人はいない。

 何時頃なんだろう?

 そんな疑問を抱く。

 一歩一歩、こわごわと前へ進む。

 何かがすごく怖い。それが何かも分からない。



 そこで目が覚めた。

 夢か……。

 安堵する。自分の部屋を見渡して、いつもと変わらないことに再度安心する。

 そして、いつもより早く目が覚めたことに気がついた。

 やることもないので階段を下りて、顔を洗い制服に着替える。

「あら美月、今日は早いのね」

 お弁当の準備をしているお母さんが驚いた表情を見せ、付け加えた。

「ちょうど良かった、お父さん起こしてきてー」

 はーい、生返事をしノックもせずに部屋に入る。

「お父さん起きてー」

 身体をゆさゆさっと揺らして、言うだけ言ったからと部屋を出たけど、朝食には間に合ったから良かった。


 あの夢。

 今の私と何か関係あるのかな。

 いつも何かに脅えている私。

 人に嫌われるのが怖いから、ついつい誰にでもいい顔をしてしまう私。

 でも。

 だったらどうやって過ごしていけばいいの?

 別に私はいじめられてる訳でも、無視されてる訳でもない。だけど陰口を言うクラスメイトを見ると、そのうち自分が言われるんじゃないかと思ってしまう。勘ぐってしまう。


 味のしない朝食を食べ終え、玄関から出ると陽の光が明るくて、自分がどんな小さい人間かを考えてしまう。他の人は考えないのかな、ふとそんなことを思った。

 夢に見た通学路。

 俯きがちに歩いていたら、肩をバンと叩かれた。

 衝撃に前につんのめってしまう。

「おっはよう。なに暗い顔してるの?」

 カバンで思いっきり叩かれたことに、思わず笑ってしまう。

「なによ? 何笑ってるの?」

 心を預けられる唯一の友達、初穂だった。

「ううん。なんでもない」

 こうやって友達がいる事を、今日忘れていた気がした。

「ねえ、初穂。悩みってある?」

「悩みのない人って、いると思う?」

 逆に聞き返される。

「それもそっか」

 そうだよ、と流され付け加えられる。

「何か、悩んでるの?」

「うーん、どうかなあ」

「なによ、歯切れの悪い感じで」

 初穂が不満そうに口を尖らせた。

「私にも言えないこと?」

 責められているようにもとれる口調だった。

「そう言われると……」

 私は今日見た夢の話をした。

 人通りのない暗闇の中で、誰一人いなかったこと。

 何かに脅えて怖かったこと。

「ふうん」

 頷きながら、初穂が口を開く。

「こう言ったらなんだけど、それってさ、今の美月そのものじゃない」

「え?」

 どういうこと?

 私の表情を見て彼女が言った。

「自分でも気づいてるんじゃない? 八方美人だってこと。気にしてることって、無意識に夢に出るっていうじゃない」

 バッサリとした言い方だった。

 言葉を返せない。

 ゆっくりと歩きながら、彼女は言葉を紡ぐ。

「私もね、分かるよその気持ち。誰だって人に好かれたいもん。でも十人中十人に好かれることなんて無理でしょ。ある部分は自分で割り切らなきゃ。友達を選ぶのも自分だって知ってる? すべての人と付き合う必要なんてないんだよ」

 そこで一息つき、私の方を振り向く。

「美月は優し過ぎるというかお人好しというか…」

 悲しそうに、最後の方は苦しそうに言ってきた。

「そういうの、ツライでしょ。もっと楽に生きようよ。現実はちゃんと見ないといけないけど、私、ときどき美月見てると悲しくなるよ」

 鼻をすすりながら空を仰いだ彼女の頬に涙が一筋伝わっている。

 何で?

 どうして初穂が泣くの?

 そんなに心配かけてたの。

 それにも気付けずに、私は自分のことだけ考えてたの?

「私の悩みはね……」

 初穂が口を開く。ぐいっと涙を手の甲で拭いながら。

「美月がいつ、相談してくれるかなってことだったんだ」

 さらっと風が髪の毛をなびかせ、スカートの裾を広げる。

「だから今、悩み解決したよ」

 頭上の太陽に負けないくらいの最高の笑顔を見せた。

 私は堪え切れず、道にしゃがみ込んだ。涙が次から次へと溢れる。

 こんな風に思ってくれてる友達がいるにも関わらず、私は何を求めていたんだろう。

 私のことを泣くほどまでに考えてくれてる大事な友達がいるのに、悲しませていた。

 自分だけの問題と思っていたのは違ったんだ。

 同じ悩みや思いを抱えてる友達が、すぐ側にいたんだ。

 ……私はバカだ。

 でも今、気付けた。

 泣いてばかりもいられないな。これ以上心配もかけられない。

 すっと立ち上がり、一生懸命笑顔を作る。

「初穂」

 ありがとう、と一礼する。

「やめてよ、他人行儀な」

 初穂が苦笑する。

「「これからも、よろしくね」」

 言葉がハモッた。

 


 私は、今朝見たあの怖い夢に感謝しなくちゃいけないのかもしれない。




   【終】



《収録一覧》

 2013年3月17日 ゲスト原稿として寄稿

 2013年5月 5日発行「目に見える愛情」収録(個人誌初収録)

 

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