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15.友達と彼との境界線


 それは一本の電話から始まった。

 夕飯を作り終えて、バラエティー番組を見ている時に彼女からの携帯の着信音が、けたたましく鳴った。

 愛華だ。

 テレビを消音にして携帯を耳元にあてる。

「はい、もしもし?」

『ちょっと! もしもし、じゃないわよ』

 何か知らないけれど、彼女はとても怒っているようだった。

 はて? 何を怒っているのだろう?

『この前、祐二と歩いてるとこ見たんだけど、どういうこと?』

「どういうことって?」

『あなたねえ、結婚してるのよ! 他の男の人と歩いてていい訳ないでしょうが』

 だんだん話の糸口が見えてきた。

 なるほど。

 それは先週、銀座で会っていた時のものだ。

「あ、でもねえ、それ、俊之も合流したの、後から。だから問題ないよ」

『それでも、ひと時、一緒に二人だけになったのは変わりないでしょう。端から見るとデートしてるみたいに見えたよ。恋人同士って。俊君、何にも言わなかった?』

「うん、特に」

 電話の向こうで眉をひそめている、愛華の様子が目に浮かぶ。私は、まるで怒られてる小学生のように正座をしながら、一回テレビの電源を切った。

『ああー。理解できない! 何その関係。きっちりしなさいよ。誤解受けるからね! 特に隙があると狙われやすいんだから』

 愛華は可愛い名前とは裏腹に、姉御肌のところがある。きっちりしっかり、常識を訴える。そういう所がすごく私のためになっていた。

 だけど。

「あの祐二くんは、そんな人じゃないよ」

『そんなの分からないじゃない。結婚したってことは、ちゃんと《友達》と大事な《旦那様》との境界線をつけなさいね』

 それじゃあ、と言って彼女は電話を切った。《大事な》と《旦那様》を強調して。ツーツーツーとの音が、虚しく心に響いてきた。

 愛華の言葉を反芻する。


──友達と旦那様との境界線をつける──


 でも実際、大学時代から友達同士で会っていたり、飲みに行ったりするのが当たり前に行っていたから《結婚》の自覚が足りなかったのだろう。

 祐二くんと会っていたのもそうだ。俊之の土曜出勤だったため、じゃあと彼が仕事帰りに合流するということで、予定が組み込まれたものだ。

 でも、そうかあ。

 端から見られるとそういう風に見えるんだ。

 考えたりしなかったな。

 俊之はなにも言わなかったのだけど、もしかしたら気にしていたのかもしれない。

 またしても愛華の助言は、当たっていたのだろうとそんな気がしていた。

 境界線、線引きしないとな。

 有り難い友人の言葉に、男女間の付き合い方の難しさ、微妙さを、目の当たりにした電話だった。

 人から言われないと気付かないこと。言われて初めて気付くことの大切さ。


──いつまでも独身気分じゃいられない。ちゃんと結婚しているんだからその辺のけじめはしっかりつけないと──


 そんな風に考えられるきっかけをもらえて、一歩前進出来たような気がした。




   【終】


《初出》

 2013年5月5日発行「目に見える愛情」収録

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