13.新しい考え方
※ この話は、「12.考え方のヒント」の姉妹編です。
バイト先の本屋に新人の子が入ってきた。高校生だ。
何年か仕事をしてきた私が、その子の指導係に店長からご指名された。
内気な子のようで、でも几帳面な真面目な子らしく、一つ一つ言ったことにメモをとる。
私がこのバイトを続けていられるのは二人の人のおかげだ。
一人は先パイ。初めはミスした私に対し、嫌っているのじゃないかというくらいの説教ぶりだった。いつもいつもその先パイに対して嫌気がさし、私はその人が苦手だった。だけど、それは私がその問題を乗り越えられると信じてくれていたこと。
もう一人は、親友の緑。そのことを、その先パイの言動から私のためだってことを教えてくれたから。
この二人の考え方のヒントで、私は随分心が楽になった。
その子──寺島さん──は私が注意すると子犬のように縮こまってしまう。
例えばレジで、
「文庫にはカバーかけるか聞かないで、カバーするのがうちの店のやり方だから。前にも言ったよね?」
と言うと、
「……すみません」
と蚊の鳴くような声で返ってくる。ついでに何回も頭を下げられる。
まあ、まだ慣れていないのだから仕方ないのに、そこまでされるとどうも気分が悪くなる。弱い者いじめしているみたいだ。
他にも、スリップの抜き忘れ(写真集が多いけれど)などには、また注意する。
「スリップの抜き忘れには気をつけてね」
「……はい」
メモはとっても見る時間がないのだろうか。
仕事中は私語もなく静かにカバーなども折っているけれど、それすら大きさが合わなかったりして口を出してしまう。
「ねえ、文庫のカバー折る時は光文社のを見本にして、何ミリかずらして定規でくせつけてね」
言わなけば危なっかしいのだ。
「でも先輩」
先輩、という言葉が耳に残る。どことなくくすぐったい。私が言われる立場になったのだ。私がよんでいた先パイは、結婚を機に辞めてしまった。瞬間、あの時のことが蘇る。懐かしい思い出。
「ん?」
「そうすると他のが大きくなったりするんですけど」
ちゃんと考えて仕事しているのが窺える。
「あまりにも大きすぎるようなら、その場でカバーを折り直してもらえる? 並んでたら無理しなくていいから」
「分かりました」
私は口うるさく言っているのだろうか。
そのせいなのか、時間になると、逃げるように帰ってしまう。
気持ちは分かる。
私だって嫌だった。
でも時間がずれていたから、先パイに居座られてずっと説教を言われたあの日々。
どうしたもんかな。
もう少ししたら、仕事を任せたいこともあるんだけど、と思い悩む。
それで彼女のプレッシャーになったりしたら大変だ。
と、考えていたら、ふっと何かが頭を横切った。
あ!
そういうことか。
もしかして、先パイも同じ気持ちを抱いていたのだろうか。私に対して。
信用しているからこそ、何かを任せたい、そのためには注意もする。
でも、言われている側からしたら、いびりだと感じることもあるかもしれない。
同じ立場になって、ようやく気付いた。
あの子は昔の私そのものだ。
でも私の場合は緑がいた。緑が「それは違うよ」と教えてくれた。
寺島さんの近くで、それを教えてくれる人がいないなら──。
だったら私が、素直に伝えよう。
「あなたを信用してるから、時には厳しくなってしまうのよ」と。
まずは、お茶でも誘ってみようか。
【終】
《初出》
2013年3月17日発行「新しい考え方」




