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10.答えのない明日へ


 少女は悩んでいた。

 両親の不仲は、毎日言い争うその様は、自分のせいではないのかと。

 とはいっても、少女が寝たと思われる時間帯に言い争っているのだから、誰から見てもそんなことはなく、ただ単に両親の意見の食い違いや価値観の違いがそうされているのにも関わらず、少女は悩む。

 まだ小さい体を丸めて、布団の中にくるまって耳を両手で塞ぐ。

 

 少女には、歳の離れた従姉妹がいた。

 彼女から見たら、この光景はどう思うのだろう? 少女は幼心にそう思った。

 自分のせいでないと、誰かに背中を押してもらいたかった。

「安心して。ケンカしているのはあなたのせいじゃないから」と、そう言われたくて。

(私のせい? そういえば、どうしてそんなことを思うんだろう)

 当たり前のように考えていたこと。

 でもそれが、当たり前じゃなかったら?

 事実は大きく変わる。

 少女はまだ、そんなことにも気付けなかった。


 従姉妹のお姉さんは、七つ年上で、小学生の少女から見たら十分な大人だった。

 社会的に見てももう大人の部類に入るだろう。それだけの知識や知恵は身についている。

「ねえ、パパとママがケンカするのは、やっぱり私が悪いせいなのかな」

 勇気を振り絞って出した一言に、従姉妹は仰天した。

「……どうしてそう思うの?」

 やっと出た言葉に、またしても少女は驚きの発言をする。

「だって、私が生まれる前はしなかったんじゃないの? だから私が生まれたんじゃないの? でも、やっぱり私がいい子じゃなかったからケンカしてるんじゃないの?」

 従姉妹は小さな瞳に涙をためている少女を見て、胸を痛めた。

 どうやって説明したら理解できるだろう。そう思った。


 やがて少女は大人になり恋をした。

 そして知った。

 子供の頃、親がケンカしていたのは決して自分だけのせいじゃないと。確かにもしかしたら、自分が理由になることもあったかもしれない。

 けれど、現実はもっと邪悪で目を背けたいことだらけだった。嫉妬や妬み、負の現実に溢れている。

 そんな中、恋をした。愛し愛され、結婚の約束をし、結婚をした。

 しかし、一緒に住むうちに見えてくるものがあった。

 形でない、空気のようにふわふわした感情。

 言葉にするのが難しい、ズレのような感覚だった。

 瞬間、ピーンときた。

 これだ!

 私が幼い頃、きっとあったであろうものはこれだったのだ、と成長した彼女には思えてならなかった。

 要するに『価値観』というやつだ。

 また、これがやっかいで一度気になりだしたらずっと気に障る。何をしても癪に障る。

 彼女は、これに思いを寄せた。

 自分は両親のようにケンカしたくはない。

 結局、離婚してしまった両親のようには、絶対にならない。

 それならどうすればいいのか。

 答えは一つ。

 実に明快で簡単だ。

 全てを受け入れればいいのだ。

 結婚した彼も、少なからず何かを感じ取っているはず。それなのに何も言わない。それなら、むしろ感謝すべきではないのか? その時点で自分を受け入れてくれていると解釈は出来ないか? 

 人は一人一人違う。価値観が違って当たり前ではないか。ならばそれを『尊重する』ということが、どうして思い浮かばないのか。考えを変えるならば、それを楽しむことも出来る。

(私は、そういう人間になりたい)

 嫌な事柄を見続けてきたからこその発想かも知れなかった。

 答えなんかどこにもない。

 だから探し続ける。

 答えが見えない明日へ、彼女は手探りで光を求めながら歩き続ける。



                          

   【終】




 ※ 収録情報不明

 2012年3月24日執筆  

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