絶食論争
気まぐれ更新!
『俺、絶食するわ』
勝手にすればいい。
「がんばれ」
俺は友人の意思を尊重することにした。
『一緒にやろう』
勿論、丁重にお断りさせて頂いた。
…………。
一週間後。
「……最近見ないな」
胸騒ぎがした俺は友人邸へと足を運ぶ。
ドアを蹴飛ばして中に入ると、うつ伏せになって倒れている友人の姿を発見した。
「…………オイ」
急ぎ食料を友人の口の中にぶち込み、事なきを得る。
『絶食の邪魔するなよ』
死にたかったのか?
「というか、なんで絶食?」
『……忘れた』
脳に深刻なダメージが残っていた。
『でも絶食は続けたいと思う』
思えば最初から致命的なダメージを受けていたのかもしれない。
放っておくと同じ事を繰り返しそうなので、俺は見守ることにした。
…………。
三日後。
人間は案外融通の利く体をしている。
何も摂らなくても勝手に筋肉や内臓からエネルギーを絞り摂るらしい。
頑張れば一か月程度の絶食は可能なようだが……もちろん、俺は良く知らない。
「何してんの?」
『寝ている』
動くからエネルギーを消費する。
ならば動かなければエネルギーの消費を最小限に抑えることができる。
『だからだ』
「そこまでして絶食したいのか」
少し尊敬。
実際、この三日間は飲まず食わずで点滴さえもしていない。
何がここまで友人を駆り立てるのか……少しだけ興味が沸いた。
一ヶ月後。
「何て言ってた?」
国で一番大きな病院で友人の検査結果が出た。
病院内が騒がしいのは、友人の体内に人類の進化に関する重要な手がかりを得たからだ。
『俺、何も食べなくても生きていけるんだって』
新種の酵素……体質と言った方がいいか。
友人の身体は空気を取り込むだけですべてのエネルギーを賄えるようになったらしい。
「人体の神秘か」
絶食一週間で友人は一度死にかけた。
ずっと眠っているだけだったので俺も気付くのが遅れたのだが、そこから奇蹟的に回復してから、何故か友人が活発的に動き始めたのである。……もちろん絶食したままで、だ。
これはおかしいぞと、俺が病院に連れて行って今に至る。
『もう注射は勘弁』
「それくらいやってやれ。世界の食糧問題が解決するかもしれんぞ」
『知ったこっちゃないね』
どうやら検査が相当辛かったようだ。
「あ、でもどうする? 来週おまえの誕生日じゃん」
『うん』
「ケーキ食わんの? 好物だろ?」
『食べる』
…………。
一週間後。
ケーキを食した友人の体質は元に戻ってしまった。
絶食した理由(思い出した)も、空腹が最高のスパイスとかなんとか。
……まぁそれも全部後からわかったことだ。
今は友人御用達しの豪華客船で誕生日パーティーが開かれている。
『おまえの作ったケーキが一番だった。また来年も頼む』
「そりゃどうも」
市販のケーキにイチゴを塗しただけだけどな。
かくして、絶食論争は幕を閉じたのであった。