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青い恋と守り神  作者: 月丘きずな
第四章
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凛の祈り

 昨日は散々だったな、と凛は思う。それでも今日こうやって元気に起きられたのは、伊織の心を確かめられたからだ。伊織はなんと、嫉妬していたらしい。あの鈍い伊織が嫉妬に気づいたことが、凛には奇跡に思えた。可愛くて可愛くて、食べちゃいたいくらい可愛い。でも、伊織がスイーツだったら、凛はきっと可愛すぎて食べられないだろう。そんなことを考えながら、凛は隣でローファーを履く伊織を見下ろした。

「大丈夫?」

「うん。お待たせ」

 無事にローファーを履いた伊織と一緒に玄関を出る。庭を通って門まで向かうと、そこにはいつもの通り赤城が待っていた。

「赤城くん、おはよう」

 伊織がそう言うと、赤城も「おはよ」と返した。赤城は昨日伊織に失恋したわけだけれど、想像より随分と余裕そうだ。そんな赤城が伊織の胸の辺りに何かを押し付けた。目を凝らしてみると、それは冷たそうな缶のオレンジジュースだった。

「まだ冷たい」

「さっき買ったから」

「これはなんのお礼?」

「ナポリタンが美味かったから」

 赤城はそれだけ言うと、踵を返して去っていった。凛は伊織とその背中を見守りながら、胸がムカムカとしてきた。伊織の作るナポリタンは凛の大好物だ。その大事なナポリタンを赤城も食べたのだと思うと気に食わない。ところが、隣で缶をスクールバッグにしまった伊織が凛の手をさりげなく握ってきたから、凛はすぐにどうでも良くなったのだ。

「凛、今日は一緒にアルバイトだ」

「そうだね」

「アルバイト代は何に使うか決めてるの?」

「内緒」

「内緒なの?」

「うん。伊織くんには言わないよ」

 凛がわざとそう言うと、伊織は唇を尖らせて「なんでだよ」と小さく言った。可愛くて可哀想だけれど、伊織には内緒なのだ。

 来週の木曜日は伊織の誕生日だ。ある時ジンからこっそり教えてもらった。その日はテスト期間で学校が早く終わるから、放課後に初めてのデートをしようと目論んでいる。今までたくさんの時間を一緒に過ごしてきたけれど、本格的にデートをしたことはなかった。だから、きっと上手く誘って、楽しませて、プレゼントを渡すのだ。伊織と繋いだ手をブンブンと振ると、伊織は機嫌を直して楽しそうに笑った。

 そろそろ学校が近くなってきて、学生の姿がポツポツと目立ってきた。でも、凛は絶対に手を離すもんかと思った。凛だって、できる限り伊織と手を繋いでいたいのだ。ところが、確かに繋いでいたはずの手を、伊織がいきなり振り払った。

「伊織くん?」

 驚きながら隣の伊織を振り返ると、その瞬間に口に触れた柔らかい感触。状況を整理した時には、少し離れたところにいる伊織がイタズラに笑顔を見せた。

「凛、また放課後」

 そしてそのまま凛を置いて、走って行ってしまう。いつの間にか、伊織の隣をジンが走っている。朝から姿が見えないから天界で仕事かと思ったけれど、もしかしたら凛と伊織の様子を伺っていたのかもしれない。ジンに気がついた伊織が何か言って、ジンがそれに言葉を返して、戯れあって走っていく様子に、心から羨ましいなと思った。

「凛」

 突然名前を呼ばれて振り返ると、そこには西田たちの姿があった。体育祭の一件以降、彼らとはつかず離れずの距離感で関わっている。

「凛、最近彼女ができたって本当?」

 宮川に尋ねられて、少し考えてから凛は頷いた。彼女というより、彼氏というか、つまりは大事な恋人だ。凛の反応に彼らは騒ついて、「誰」と口々に聞いてくる。

「教えるわけない」

 伊織を酷い目に遭わせた彼らに教えるわけないじゃないか。凛が前を向いて歩き出そうとすると、彼らのうちの誰かが「あの時は、ごめん」と言った。きちんとした謝罪は初めてで驚いたけれど、凛は足を止めなかった。

 空を見上げると、薄い水色が広がっていて、今日も良い天気になりそうだ。好きな人がいるというのは、生活が彩るなと思った。何も持たずまるで灰色だった凛の人生は、伊織のおかげで明るく鮮やかに彩った。今日も伊織のことが好きで、伊織が可愛くて仕方がない。そんな伊織の笑顔を守るために、凛は伊織をずっと好きでいると神に誓うのだった。

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