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青い恋と守り神  作者: 月丘きずな
第三章
19/28

内緒

 凛が放課後自宅に帰ると、珍しく伊織のローファーが玄関に揃えて置かれていた。今日はアルバイトではないとは言っていたけれど、真っ直ぐ帰ってきたのだということがわかって途端に気分が上がる。彼はバイト以外だとジンと遊んでばかりだ。だから今日は伊織だけと話せることが嬉しくて、階段を一段飛ばしでのぼり、彼の部屋の扉をノックした。ところが、いくら待っても返事は返ってこなくて、どうやら部屋には不在のようだとわかった。だから一旦自室に荷物を置き、伊織のいそうな場所を考えて一階へ降りた。リビングの扉を開けると、ソファの背もたれから頭が少しだけ見えている。それだけなのに、凛はニヤけそうになる顔をなんとか抑えた。

「伊織くん」

 優しく声をかけたものの、伊織からは特別反応がない。寝ているのかと伊織の前へ回り込んで凛が顔を覗かせると、伊織の目はちゃんと開いていた。

「伊織くん」

 凛がもう一度声をかけると、伊織はやっと反応して「おう」ときこちない笑顔を見せた。その様子があまり元気がなさそうに見えて、途端に心配になってしまう。

「何か考え事?」

 凛が左隣に座りながら聞いてみると、伊織は首を横に振って「なんでもないよ」と言った。

「本当に」

「うん」

 あまりにも問い詰めるのではしつこいかなと思って、それ以上は聞くのをやめた。ところが、伊織が溜息を連続でつくものだから、凛の胸の奥に嫌な予感が広がる。もしかして、そんなにジンに会いたいのだろうか。

「もしかして、恋煩い、だったりして」

「……え?」

 ジンという存在に、恋焦がれているのかもしれない。伊織とジンの関係は恋心のカケラもないのだろうと勝手に思っていた。むしろそういったものを超えているように感じて嫉妬すらしていたのだ。でも、もしジンに対して恋心が少しでもあるなら。それはそれで焦燥感が湧き上がる。

「ちょっと違うかも」

 伊織の返答に多少安心しつつ、ちょっととはなんだろうかと新たな疑問が湧いてきた。

「じゃあなんだろう。告白でもされた?」

 少しだけ揶揄うつもりで聞いてただけなのに、伊織は目を見開いてどこか宙を見ながら固まった。

「え……、本当に」

 うぶな伊織にはまだ早いと勝手に決めつけていたものの、いつかはこんな日が来るかもしれないとは思っていた。だって、伊織はこんなに優しくて、可愛くて、魅力的なのだ。凛以外にも当然好きになる人間はいるだろう。一体、相手は誰だろうか。伊織と仲の良い人間なんて、付き合いの浅い凛には全く思い浮かばなかった。

「どんな子?」

「いや、あれは告白じゃないのかもしれない」

「どんな子なの?」

「……多分、良い子」

「多分って、仲良いんじゃないの」

「いや、昨日初めて会った」

 昨日初めて、と口の中で呟いて、そこで凛はピンときた。昨日だなんて、心あたりがあり過ぎるではないか。

「……春川くんってこと」

 凛が恐る恐る尋ねると、伊織はハッと凛を振り返った。その反応ですべてわかってしまって、凛の心臓のあたりが嫌な音を立てた。

「だめだよ」

 気がついた時には、伊織の瞳を見つめながらそう口走っていた。

「だめって言われても」

「絶対だめ」

「なんでだめなの」

「むしろ、付き合うつもりなの」

「それは、まだなんとも」

「まだなんともって、ちょっとは考えてるってこと!?」

 凛が驚愕してそう聞くと、伊織は慌てたように首をブンブンと横に振った。それから焦ったように口を開く。

「だって、俺には、よくわからなくて」

「……わからないの?」

「だって、春川くんは男の子だし、俺も男だし、まだ何も知らないし」

 伊織は本気で戸惑っているようで、視線を落としながらそう言った。そうか、まだわからないのか。それなら少しくらいは良かったなと思った。まだまだ、凛にも勝算があるだろう。

「春川くんは、良い子だと思うよ」

 凛がそう呟くと、伊織は俯きながらこくりと頷いて、「……そうだよな」と溜息をついた。

「でも、俺の方が伊織くんにはあってると思う」

「……え?」

 伊織が凛の顔を見上げた。上目遣いは彼の魅力を倍増させる。つまりはすごく可愛いということだ。その可愛い伊織に向けて、凛は渾身の綺麗な笑みを浮かべてみせた。少しくらい伊織の心が靡いてくれないかと邪な思いを込めながら、内心は余裕そうで、大人っぽくて、優しくて、伊織を一番に思うあの守り神に近づきたいと必死で言葉を探してみる。

「伊織くんには、俺がいるよ」

「凛が?」

「そう」

 伊織は眉間に皺を寄せて、みるからに納得がいかない顔をした。それから、ゆっくりと、絞り出すように言葉を紡いでいく。

「凛も、俺を、好きなの」

 鈍い伊織がここまで気がついてくれたら凛はとりあえず満足だった。喜びが表情にまで表れてしまっているかもしれない。でも、恋には焦らしも大切なのだ。恋愛なんてあまり積極的にはしたことがないけれど、それくらい知っている。だから凛は伊織に向けて笑みを深めて、「内緒」と片目をパチリと瞑った。

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