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青い恋と守り神  作者: 月丘きずな
第三章
15/28

義兄と義弟と守り神と

 月曜日、伊織はいつかのようにアルバイト先で頼まれたお使いにでていた。いつかと同じくジンは一番安い卵をみつけに行っており、伊織はトマトマークのスーパーまで歩いている。今日は梅雨の間の貴重な晴れ間で、青い空に無数にある雲のひとつから太陽が覗いていた。湿度が非常に高くて、背中にはじっとりと汗をかいている。今も決して快適ではないけれど、雨が降るのは勘弁だから、もう少しこのままでいておくれと天に祈るばかりだ。

 トマトのマークのスーパーまでもう少しのところで、調剤薬局の前が騒がしいことに気がついた。すごく嫌な予感を感じつつも進んでいくと、その予感は見事に的中していた。いつかのように学ラン姿の集団が調剤薬局の前で誰かを取り囲んでいるのだ。まさか凛じゃないだろうなと思って彼らの間を覗き込むと、そこには確かに伊織の高校の男子制服が見える。真っ先に恐れたことは、ジンに怒られるということだ。だって、凛のことは絶対に見過ごすことはできない。ジンにはひどく怒られるかもしれないとしても、伊織はやらなければならないと思った。もちろん本当は怒られたくはないけれど、義弟のためを思ったら仕方がないだろう。

 義兄としての自覚を持って学ランの男たちに近づく。心臓が異様に速く動いてうるさいけれど、伊織は勇気を出して「あのう」と声をかけた。男たちがすかさずグルリと振り返る。

「……お前、この前の」

「はい、そうです」

 内心覚えられていたことに焦りながらもそう答えた。すると次の瞬間には一番大柄な男が伊織の胸ぐらを掴み上げてきた。伊織は焦って足をばたつかせる。足が地面から浮いてしまったことが怖くて、首が締まって上手く息ができない。でも凛に逃げろと言いたくて、苦しい中で彼をやっと見下ろした。そこで、伊織は心底驚いた。そこにいたのは、どう見ても凛ではなかったのである。大きなメガネの君は誰ですかと思ったけれど、ここまで来たらむしろどうにでもなれと腹を括った。「逃げろ」と口の動きだけで何度か伝える。すると彼は戸惑いつつも頷いて、誰が止める間もなく本当に逃げていった。正直、この状態の伊織を置いて本気で逃げるのかと衝撃を受けた。いや、彼が逃げられて良かったけれど、彼の選択は人間としてどうなのだろう。逃げろと言ったのは自分なのに複雑な気持ちを抱えたまま、これから先どうしようと途方に暮れる。

 その時だった。重い衝撃と共に、伊織を掴んでいた手が離れる。その反動で、伊織はゴロンと地面に転がり落ちてしまった。強く打った背中が痛くて息が詰まる。しかし次の瞬間には手を握られて、目を白黒させているうちに強く引っ張られていた。そのまま立ち上がれたと思ったら、強く手を引かれて走り出すことになっていた。

 走りながら観察する。手を引いているのは、先ほど一瞬逃げた大きなメガネの彼のようだった。逃げたふりをして助けてくれたのだろうか。凛の時より随分とゆるいスピードに、後ろからは男たちがどんどん迫って来ている気配。きっと捕まったら二人一緒に殴られるのだろう。伊織は非常に恐ろしくなった。だから伊織はスピードを上げて彼の前に進み出ると、彼の手を引いてトマトのマークのスーパーへ逃げ込んだ。

 狭い通路を逃げ回って、最終的に一番奥の卵コーナーまで辿り着いた。強く繋がれた手をそのままに「大丈夫?」と尋ねながらもう片方の手で彼の背中を摩り続ける。お互いに息が切れて苦しいけれど、きっと不良たちはこんなにたくさん大人がいる場所まで追って来ないだろう。呼吸を整えてしばらく経った時、突然近くから視線を感じた。もしかして、追っ手がここまできたのだろうかと途端に恐ろしくなって、彼を隠すように視線から背を向ける。

「……伊織くん?」

 背後からかかったその声に、心底ホッとして振り返った。声の主は確かに凛で、彼は買い物カートを手に伊織たちをじっと見ている。

「如月くん」

 そう言ったのは伊織が庇っていた彼だった。するとそれに応えるかのように、「春川くん」と凛が呟く。二人は知り合いなのかと伊織が理解した瞬間、凛が両目をつりげた。

「なんで手繋いでるの」

 それからカートを放って伊織たちに近づくと、春川と繋がれていた手を引き剥がした。

「あれ、何してんの」

 その声に反応したのは、伊織と凛だけだった。なぜならそれはジンの声だったからだ。ジンは春川に気がつくと、何かを察知したのかギュッと眉を顰めた。伊織は彼の鋭さが恐ろしい。

(伊織、どういう状況)

(……後で説明するよ)

(すぐ言えないようなことしたんだ)

(そう言う訳じゃないけど、後で)

(うん、後でね。必ずね)

 そう言って笑ったジンが非常に恐ろしくて、伊織は本気で身を震わせたのだった。

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