第1話「勇者が焼いた村」
この世界には、“異世界から来た勇者”がいる。
神に選ばれ、絶大な力を持ち、魔族を討ち、国家すら変える者たち。
だが、彼らがすべて正義とは限らない――
家族を焼かれ、仲間を失い、戦えぬ少年は、ただ“見抜く目”を得た。
戦場の端で生まれた、最弱の解析士による“黙示録”が今、始まる。
――世界が焼けていた。
けたたましい爆音。火の粉が舞い、空気が裂ける。
目の前にあったはずの家が、畑が、人が、ただの灰になっていた。
でもそれは、“いつも”の村じゃなかった。
朝。
いつも通り、学校に通い、実習のために剣を握る。
「――はあぁっ!」
掛け声と同時に木剣を振るが、まるで当たらない。
簡単に倒されて、土を舐めるのはもう何度目だろう。
シオン・グレイフは、最弱だった。
魔法の才能は皆無。スキルも一度も発現したことがない。
剣の型も身体に入らず、どれだけ鍛えても一勝もできなかった。
勉学だけはできた。努力だけは誰にでもできると思っていた。
そのせいか、教師や村の大人達からはいつも言われていた。
「戦士より、文官を目指してはどうか」
「君には軍よりも、役所が似合う」
悔しかった。でも、反論できなかった。
だから、せめて体だけは鍛えていた。いつでも、動けるように。こんな最弱でも、いつでも戦えるように。
毎朝、村の坂道を走り、素振りを繰り返していた。
いつか、戦えるようになる日を夢見て。
でも――その“いつか”は、唐突に終わった。
村に、火の雨が降った。
何の前触れもなく、空が裂け、紅蓮の魔法が地面を貫いた。
「この村は魔族との関係が疑われた。よって、浄化を開始する」
空に響いた、どこか芝居がかった声。
そこにいたのは、自在に炎を操り破壊を行う青年。
――彼は、異世界から召喚された“勇者様”だった。
「神に与えられたこの力で、君たちを“救済”する」
彼は、笑っていた。
罪悪感も、葛藤もない。
ただの“結果”として、村を、人を、すべてを焼き払っていた。
「う、あ……っ!」
シオンは、逃げるほかなかった。剣も、魔法も使えなかった。
できることは、ただ走ることだけだった。
途中で何度も転び、周囲の炎に包まれかけ、気を失いかけた。
それでも、シオンは奇跡的に村の外れの茂みに転がり込んだ。
外の火柱を眺めながら、息を潜め、ただ生き残ることだけに集中していた。
やがて、地鳴りが止んだ。
焼き尽くすだけ焼き尽くし、勇者は満足げに村を去ろうとしていた。
その姿を、シオンは後ろからずっと見つめていた。
その瞬間――
──《スキルを取得しました:アナライズ・フレーム》
──《発動条件:一定時間の対象観察》
──《効果:対象のスキル構造・制限・弱点を視認可能》
「これって...スキル…?」
初めてのスキル。
でも、それは剣でも魔法でもなかった。
【スキル名】:カルマ・イグニッション
【使用者】:桐生エイジ
【発動条件】:対象が“悪”であると精神が判断した場合に自動発動
【弱点】:主観判断/精神異常時に暴走の可能性
「……こいつ……全部、自分の都合で……!」
怒りがこみあげた。
でも――手は、震えていた。
剣を持っても勝てない。
魔法は使えない。
このスキルで、何ができるというのか。
だけど、それでも。
「いつか、必ず……絶対に、お前を――」
もう勇者の姿も遠くなり、やがて見えなくなった。
そのときだった。
誰かが、背後から肩をつかんだ。
「……シオン、生きてたんだ……!」
振り向くと、そこにはティナがいた。
制服の上から実習用の外套を羽織り、全身に土と焦げがついている。
「……どうして……」
「今日、封印術の実習で村の外だったの。で、帰ってきたらこれよ……
……シオンのこと、探してた。絶対、生きてるって思ってたから……」
言葉が、出なかった。
息が震えた。
「……ティナ……俺、何も……できなかった……」
彼女は少しだけ困ったような顔をして、言った。
「……できなかったことなんて、誰も責めないよ。」
ただ、自分に寄り添ってくれる、安心感をくれる、そんな声だった。
「シオンのせいじゃないし。……でも、これからどうしよっか? 行くあてもないし……」
シオンはうつむいたまま、拳を握る。
心の中はまだ整理がつかない。
何もできなかった悔しさ、怖さ、そして……目に焼き付いた“あの力”。
桐生エイジ。
世界を焼き、正義を名乗り、すべてを奪った“勇者”。
あいつを許してはいけない。
でも、どうすればいいのかは、まだわからない。
ただ――
「ティナ、村を見に行こう。何が起きて、何が残ったのか…
何もできなかった俺でも、何か、見えるかもしれない。」
それが、今のシオンにできる唯一の答えだった。
ティナは小さくうなずいた。
「うん。じゃあ、まずは歩いてみよう。一緒に...」
焼けた村の匂いが、まだ風に残っていた。
でもその中で、ふたりの足音だけが、確かに未来へ向かっていた。
――そして、シオン・グレイフは“最弱”のまま、最初の一歩を踏み出した。
はじめまして、作品をご覧いただきありがとうございます。
こちらが、私の初投稿作品になります。
文章を書くのはあまり得意ではないのですが、最近は生成AIなどの助けもあり、
昔から温めていた設定や構想を少しずつ形にできるようになってきました。
「これなら案外、書けるかも?」と思い立って、とりあえず1話を書いてみたところです。
まだまだ拙い点も多いかと思いますが、暖かい目で見守っていただければ幸いです。
※本作の執筆には、プロット構成・表現補助などに生成AIを活用しています。