絶望の駒の主・柊結城
時代の変化は時に崩壊進めた。ある人がこの都市を独占すると言った時全員が猛反対した。だが世の中は金と名誉が全てであるため反対勢力の攻撃はなすすべなく終わった。
ある日、太陽が光を失った。
ある日、水が底をつきそうなった。
ある日、大量虐殺が起きた。
ある日、町から平和が消えた。
ある日、都市から人が消えた。
ある日、人は人ではなくなった。
ある日、一人の少女が言った。「私が世界を救うと」その子は殺された。
ある日、一人の少年が言った。「世界は終わりに向かっていると」その子は自ら命を絶った。
そして現在、俺たちは小さな小屋で体を寄せ集め体を温めている。
「ねぇ、お兄ちゃん。まだ死にたくないよ」
可愛い声で言うのは、柊遊。俺の弟だ。
遊は小さな声で俺に何度も声をかけてくる。
「大丈夫だよ。お兄ちゃんが何とかするからさ」
俺、柊結城は小さな声で弟に言う。
「本当に?」
「うん」
結城は優しく弟を抱き締める。強く優しく。
「そんな訳ないだろ」
優しい雰囲気を壊すのは、山田智。町の村長でいつも温厚な性格なのだが今はそうでもないだ。
なんせ、今の俺たちの町は侵略されているから。
空気は一変して変わり、どんよりとした空気に変わる。
「大丈夫ですよ。俺が全員を守ります」
こんな空気を換えたのは結城だった。優紀は震えている手を隠し、深呼吸をして言う。
「全員で生きましょう」
結城の一言でみんなの顔が変わる。優紀のある顔に。
「ふん。それはどうかな」
村長だけは意見を変えずひねくれたままだった。
しかし村長もまた、分かっていた。今は誰かを責めるときはでないことくらい。
「大丈夫俺が……」
い、痛い。頭が引き裂かれそう。
は、はあ、今まで感じたことがない痛みだ。痛い、痛い。
「お、お兄ちゃん?」
「は、は、はは……」
結城は頭を押さえる。なんとしても痛みを外に逃がすために。
「だ、大丈夫」
「おい、そこに誰かいるぞ」
外に居る武装兵たちは結城たちに気付き、どさどさとこっちに向かって走ってくる。
「ああ、くそ、お前のせいだバレたんだ」
村長は結城に向かって指を指し、責めるようなことを何回も言う。
他の人たちも結城を責めるような視線を向ける。
「お兄ちゃん?」
結城は焦っていた。この状況をどう乗り切るべきか。
痛くなる頭、痛くなる心。
すべてが敵に見え始めている目。
全部が俺のせいだと言っているような視線と暴言。
俺じゃない、俺じゃない。
俺は気が付くと立っていた。
「何をしている? 早く隠れるんだ」
村長は小さく強い口調で言う。
「俺が悪いんです。俺が犠牲になります」
そうだ、俺が悪かったんだ。俺が犠牲になればここに居るみんなが救われる。
そうだ、そうなんだよ。俺が犠牲になるんだ。
いつの間にか俺は外に出ていた。
俺は手を上げながら、ゆっくりと前に向かって歩く。
「助けてください」
結城は小さな声で言いながら前に進む。
希望なんてないのに、ただ、地獄に進むように歩く。
「お前だけか?」
ごついガタイの武装兵が銃を向けながら言う。
これは完全に死んだな。
向けられた銃口は思ったより怖くなかった。ただ、死ぬということだけが確定しているからだろう。
「はい」
俺がそう言い切ると、後ろに立っていた武装兵は何かを準備し始める。
呼吸を整えながら、周りの状況を確かめる。
武装兵はおおよそ16人。それに対して俺1人。
勝てるはずがないな。
ここで死ぬのか。ほんと対して人生じゃなかった。
「3」
「2」
「1」
謎のカウントが始まる。
すると、後方から爆弾というかロケットが飛んでくる。
お、おい。
やめろ……
止まれ、止まれ。
願えば願うほど、それはどんどん俺の後ろのある小屋に向かって飛んでいく。
やめてくれ。弟がそこにいるん……
ドン。
鼓膜が引き裂かれそうなほど鈍い音が周りを包む。
あ、ああ。
ゆっくりと後ろを振り向く。
風がヒューヒューと吹き、粉が舞う。
跡形もなく、そこにあったのは焦げた何かしかない。
あ、ああ。
「はははは」
ごつい武装兵は勢いよく笑う。
それにつられ、他の武装兵も笑う。
そして、飽きたのか萎えたのか、武装兵たちは結城のことなんて興味をなくし去っていく。
取り残された結城はただ、立つことしかできなかった。
遊、遊。どこに居るんだ……
遊……
遊……
俺は急いで小屋に向かう。粉が舞っていて上手く視界が定まらない。
あれ、どこに居るんだ。
おい、かくれんぼなんてしてないぞ。
おい、おい、おい……
頼むから……
唯一の救いなんだよ。
いつも絶望が舞っている世界で唯一光を希望を与えてくれる存在だったんだよ。それが居なくなったら俺はどんなして生きて行けばいんだよ。
燃えている中に手を伸ばす。
痛みなんて感じない。
ただ、生きているという感覚だけが蝕んでいく。
燃えている中から手を戻し、俺は絶望する。
もう、誰も生きていない。もう、誰も居ない。
もう、この世界に救いなんてない。
結城は絶望に侵されている。
「無様だな」
は? 誰も居ない町なのに声が聞こえてくる。
声に方に視線を向ける。
そこには、なんというか、童話に出てきそうな服を着ている人らしき人物が立っていた。
「おお。その目だよ」
声的に男で、見た目は二十代前半。けど、長い武器を持っていた。
結城はゆっくり口を開いた。
「お前は敵か?」
「敵?」
男は首を傾げた。
「まさか、俺は敵でもないし味方でもない」
「じゃあ、なんだよ」
「そんなの簡単だ。駒だ」
「駒?」
「ああ。駒だ」
男はふざけている様子はなく、本当のことを言っているようだった。
「お前って神様を信じるか?」
男は薄笑いを浮かべながら言う。
「信じない。もし神様が居るならこん状況を生むはずがない」
「そうだよな。もし神様を殺せると言ったら? もし願いが叶う物があると言ったら?」
何を言っているんだ? 神様を殺せる? 願いが叶う? そんなのある訳がない。だって、そんな普通に考えてある訳がないだろ。
「何言ってるんだよ?」
結城は震えた声で言う。
その声を聞いて謎の男は笑う。
「ははは。さすが人間だ。発想が貧しい。いいか、まず神様がお前らに願いの叶う物を用意した。それらを巡ってお前らは争いをしてもらう」
「いやいや、そんな話信じられるかよ」
「信じるも無理がない。だが、お前は選ばれた」
「は?」
「目の前で無様に弟を失い、自分の力なのなさを感じた。そんなダサいお前が選ばれたんだよ」
「だから、お前はチャンスでもあるんだ。もし、お前がトップになったら願いが叶うし、こんな世界にした神様も殺せる機会がある」
謎の男は語り続ける。
「さぁ、選ぶんだ。このまま絶望に侵されるか。光を見つけに行くか」
こいつが言っていることが本当なら、遊を生き返らせることもできる。そして、こんな酷く醜い世界にした神様を殺す機会を得られる。
でも、コイツの話を聞く限り俺以外にも選ばれている人が居る。つまり、そいつらを殺さないといけないのか?
「一個だけ質問してもいいか?」
「ああ」
「俺を抜かして後何人いる?」
「8人」
「そいつらを全員殺さないといけないのか?」
「そんなこともねー。そいつらが辞退すれば死ぬことはない」
「そっか」
結城は目に少しだけ光を宿す。
「俺の駒になれ」
俺は謎の男に向かって強く言った。
「もちろんだぜ。俺の主」
絶望の駒の主・柊結城。