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暗闇の猫はみな灰色

「TAKIDA」のソードフィッシュは快適に空を走った。

 車窓の向こうには超高層建築メガストラクチャの群れ。

 遥か下には低空を行く飛行車エア・カーの明り。

 更にその向こうの下層下町ダウンタウンは、漆黒の闇に包まれて何も見えない。


 ソウナは座席に腰かけたまま、意識を集中した。


 研ぎ澄まされ、拡張された現在の意識(オーバーマインド)なら、もしかしてさっきのビジョンをもう一度捉えられる──? そう思ったのだ。


 ──どこか遠くから、緩やかに迫って来る光と音。


 脳の奥が熱くなり、チリチリとする感覚。

 まさか、デバイスが焼けている訳ではないだろう。


 けれども、それ以上続けていると本当に熱暴走オーバーヒートしそうな恐怖──

 視界に混ざり込むノイズと、警告を発する幾つもの精神アラート──


 ──()()()()()()()()()


 ネットランナーとして経験が告げてた。

 ソウナは意識を閉じると、ときおり僅かな振動を続ける座席に身を任せた。



 ソードフィッシュが着陸した最下層は、かつての公園だった。

 見渡す限りに、荒れ果てた地面。一切の光が届かない為に植物はない。

 錆びて朽ちた遊具だけがその面影を伝えていた。


 ソウナは解析した画像を頼りに、下層下町ダウンタウンを進んで行った。

「ANZAI」の眼球アイボールを、暗視機能ナイトビジョンに切り替える。

 暗闇に沈んだ街角はすぐさま明るさを増し、どこまでも見渡すことが出来た。


 現視界に対して幾つかのフィルタリング。

 更に情報を細分化──細分化──詳細解析。


 ソウナが見つけたのは、肉眼では解らないような淡い足跡。大型のサイボーグではない、小さなブーツ。しかし、踏み込み方で無改造ナチュラルではないと解った。



 ソウナはそれを追い掛けた。

 歩幅から、全速力で駆けていたのだろう。ならば、何かから逃げていた可能性が高かった。


 倒壊したビルを迂回し、路地に入ったときだ。

 ソウナはそれを見つけた。


 逃げた相手ではなく、きっとそれを追っていた方──

 三体の追尾型ドローンだ。


 それは一見二枚のように見える、重なり合った四枚のウイングを持っていた。

 ソウナが操るものとは違う、球形と流線形のモジュール・ボディ。

 狂暴な大顎と、尖った腹部の先に発射口マズルを持つタイプ。たしか、民間自警会社プライベート・ポリスのオリジナル・モデルだ。


 ソウナはしばらく、それを尾行した。

 事を荒立てないつもりだったが、すぐに二つの理由で攻勢に出た。


 一つ目は、「こいつ等に見られていては捜索が出来ない」というマトモな理由。


 そして二つ目は、こいつらが何を考え、どんな思考ルーチンなのか──

 「ちょっと繋がって解析したい」不純な理由だった。



 ソードフィッシュから二体のドローンを起動、発進させる。

 一体をふらふらと泳がせ、あえて向こうの注意を惹いた。


 警戒態勢に入り、追尾を開始する三体のポリス・ドローン。

 とはいえ、まだ何も悪いことはしていないし、こんな時の為に武装も解除済み。

 セオリーから言えば、すぐさま攻撃されることは無い。


 三体が一体に接近して行く中、隠しておいたもう一体が躍り出る。


 計算通り、二対一に分かれた!


 味方のドローンをそれぞれ反対方向に飛ばし、ある程度両者を引き離す。

 そして一体になった方に向かってソウナは駆け出した。


 彼女が所持するMB(マルチ・バレル)ピストルを確認、ポリスドローンの脅威判定はソウナに移った。


 耳障りな音で接近し、腹部の発射口マズルをこちらへと向けるポリス・ドローン。


 しかし、ふらふらと飛んでいたソウナのドローンが急に牙を剥く!


 武装など無いかように思われた口吻マズル──その中には、ハッキング用の接続端子ジョイント・コネクタ

 味方ドローンはその細長い脚でポリス・ドローンに抱き付くと、隠されてる接続口ポートに端子を挿入した。


 脅威判定の増加によって、引き離されていた別の二体が急接近。


 けれども、もうソウナは襲われない。


 ──()()()()()()()()()()()()()()()()


 ポリスドローンたちは瞬時に、ソウナを仲間だと認識する。

 彼らが立てる、ぶんぶんという楽しそうな羽音。

 やがて大人しいペットのように、三体はそれぞれソウナの身体に着陸した。


「──いい子たち。ちょっと見せてもらうね」

 ソウナは直接、その一体と繋がった。



 ポリス・ドローンの思考パターンは、実に単純でつまらなかった。

 ただし、彼らの見た物は面白かった。

 逃亡者の後ろ姿を、朧気ながら捉えていたのだ。


 ソウナはそれを検索サーチの最上位に置き、仲間になった計五体を方々へ飛ばした。

 問題のものは引っ掛からなかったが、元ポリス・ドローンの報告にはヒントがあった。


 ここ最近、破壊された可能性の高いドローンの残骸が見つかったのだ。

 ソウナは現場に赴いた。


 それはかつての調整池の近くだった。

 流れ込んだ濁った汚水が、今にも溢れそうな人工の川──

 そのほとりに、二体のドローンは散乱していた。


 興味を惹いたのは、鋭い何かによって両断されていること。

 しかもその断面は、水に濡れたかのような湿り気を帯びていた。

 ソウナはしゃがみ込み、更に調べた。


 ドローンには、電撃針スタン・ニードルを発射した形跡があった。

 装弾数から考えれば、十発以上撃っている。

 この中のどれか一つでも当たったとすれば、逃亡者は生きていない可能性が──


 ばしゃん!


 水飛沫の上がる音──


 ソウナは咄嗟に飛び退いた。

 周囲に群れ飛ぶドローン──その複眼が、確かにそれを捉えていた。


 調整池から飛び出した猫娘キャットボディのサイボーグ──


 彼女の握る日本刀ジャパニーズ・ブレードが霧のような冷気コールド・ウェーブと共に、一瞬前の自分が居た地点をかすめて行ったのを──

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