表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/54

報復者の鎮魂

 ソウナが「ホテル・ホンゴー・マルヅカヤマ」の上空に達したとき、辺りには自警(PP)警備会社ガードの車両は見えなかった。

 とはいえ電子空間の中では激しく通信が飛び交い、あと五分もすれば陸と空は埋め尽くされ、立ち入り禁止となるだろう。


「──たいへん申し訳ありません。緊急事態につき、飛行車(エアカー)での乗り入れはできません。速やかに避難して──」


 追い返そうとするホテル側からの自動誘導アシスタント。

 ソウナは音声を切るのと同時にハックを開始。

 システムを味方につけ、ホテル内のセキュリティ映像をチェックした。


 はっきりいってムチャクチャだ。

 ゴシック建築の屋上に空いた大穴──

 そこから察せられるとおり、巨大なドロイドが縦横無尽ヒステリックに暴れ回っている。


 流れ弾によって絶命する警備員ガードやホテルスタッフ、また宿泊客──

 命に紐付けられた連鎖反応チェーンリアクション

 発せられ続ける通報が、出動命令と報復指令の件数をさらに増大させて行く──


 オンラインの名刀・村雨丸シャープブレード・ムラサメマルは、たしかにホテルの中に存在している。

 そして微妙に動いている。

 けれども果たして車を飛び下り、侵入するのは賢い選択だろうか?


 刀の持ち主がシノならば──答えは決まっている。

 が、その可能性はあり得ない。今も呼び続ける通信に、彼女が出ないはずがないからだ。


 ──ああ、もう!

 せめてドローンを用意しておくんだった!


「テトラクテス」の狭い車内を一瞥し、ソウナはもどかしさを募らせる。

 ──と、屋上に動きがあった。


 初めは、宿泊客かスタッフの一人が逃れてきたのだと思った。

 けれども切り立ったスレート葺きの大屋根を、片腕と脚の力だけで登るその姿には見覚えがある。試しに車載カメラを使って拡大すると──間違いない!


 サモジローだ!


 顔はずいぶん焦げ、人造皮膚シンセ・スキンも剥がれている。

 どうして口に自分の右腕を咥えているのか解らないが──


 ──ここで会ったが百年目ワンハンドレッド・イヤーズ!!


 即座に自動操縦への切り替え。

 シートを乗り越えて後部座席へ移り、立て掛けてあったものに手を伸ばす。


 SS49スナイパーライフル。


 安全装置セーフティを外し、光学照準器スコープと自分を同期した。

 パワーウィンドウが下がると銃身を突き出し、息を整える。

 身体制御系のアシスト、また脳内の過剰なアドレナリンも抑制され、妙に白茶けた気分。

 まるでAIにすべてを任せ、傍観しているかのよう。


 レティクルは滑るように流れるように動き、やがて必死の形相で屋根の断崖を登る男の眉間にピッタリと合う。


「ふっ」


 息を吐いたとき、スコープの中でサモジローと目が合った気がした。

 もちろんそれは単なる気のせい──あるいは、ソウナの願望だったのかもしれない。


 ──お前の命を奪う者の顔をよく見ておきなさい、という──


 次の瞬間、放たれた徹甲弾アーマーピアシングが両目の間に小さな穴を穿ち、内部を砕きつつ炸裂して反対側へと抜けた。

 機械油とインプラントデバイス、脳漿──


 あらゆるものをぶちまけて、サモジローは崩れた。


 手足の力を失った身体は、まるで雪山のそりみたいに屋根を滑って行く。

 口からこぼれた右腕も同様だ。

 スレートタイルの上に伸びる、長い長いオイル染み。

 死体は屋根の淵に設けられた小さな尖塔に引っかかり、止まった。


 ──シノ、やったよ。

 名刀(シャープブレード)村雨丸(ムラサメマル)はまだだけど、必ず──


 ソウナは再び、「ふっ」と息を吐いたのだった。



  *



 ぶるぶると空気が震える。

 左右、両ガンポッドの掃射が階段を追ってくる。

 飛び散る破片と折れたカーボン棒筋を浴び、それでもトモヨは階上を目指した。


「逃走はやめましょう。今すぐ停止して下さい」


 CRAD(クラッド)の言葉と共に吐き出されるマズルフラッシュ。

 なるべく人々を巻き込みたくはない。けれども逃げ惑う中、勝手に階段に出て来てやられて行く──


 残った片方の猫耳キャットイヤ──

 それが一発の銃声を察知した。

 階下からのものではなく、ずいぶんと上だ。


 それが脅威かどうかは解らない。

 何が待ち受けるにしても、上へ向かう以外の選択肢はない。

 連射の切れ目を狙い、トモヨは長く伸びる階段を強く踏んだ──


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ