報復者CRAD(クラッド)
CRADの両腕に搭載されたガンポッド。
それぞれが真っ直ぐに差し伸ばされ──片方がサモジロー、もう片方がトモヨに照準された。
「報復対象、確定。関わりなき者は、速やかに退去して下さい」
しかしその警告音声が流れたのは、ガンポッドの掃射が始まったのと同時だった。
トモヨはとっさに床を蹴り、真上に飛んだ。
左右に逃げるのでは被害が拡大する。
かといって、名刀・村雨丸を握っている以上、透明化も無意味──
そう思っての判断だが、すべてを自動で行うガンポッドAIの反応は速い。
高速回転する複数銃身から吐き出される小爆発。流れる灰色の硝煙。
あちこちに無数の穴を穿ちながら、それが迫ってくる。
が、こちらはすでに天井まで到達していた。
左手の指を突き立て、一時的に身体を固定。
名刀・村雨丸を口にくわえると、射角を変えつつあるガンポッドの上部レドームに、火遁砲をぶち込んだ。
もちろん、そんなことで破壊はできない。
少なくとも、追跡アンテナや探知センサは攪乱できるはず──
トモヨはすぐさま砲を格納、少し向こうの天井画──女神の顔面──に右手を突き立てる。
左手を抜き、片側だけでぶら下がったとき──
さっきまで居た空間を、機関砲の嵐が駆け抜けた。
標的への自動予測修正?
──あるいは炎など対策済みか? クソッ!
ずぼずぼと幾つもの穴を開け、トモヨは天井を進む。
目指すのは、真下のデカ物が落下時に作った穴。
自分か、サモジローか。
CRADがどちらに食い付くかは解らないが、一旦逃げだ。
ようやく穴の淵に辿り着く。勢いをつけ、身体のバネで躍り込んだ。
数メーター転がって、体勢を立て直す。
辺りを見回すと、どうやらマルヅカ・ヤマの最上級スイートらしい。
広々とした空間に、本物と思しき情報戦争前の高級家具。
部屋の隅にはたくさんの洋酒を並べた専用バー・カウンターだ。もっとも、デカ物のせいで半分倒壊し、液体が滴っている──
トモヨは数秒身構えるが、一向に弾は飛んでこない。
どうやら炎は、それなりに効果があったようだ。
もし自動予測が正常なら、今頃部屋中が蜂の巣のはずだった。
ゆっくりとした足取りで、穴の淵に近付く。
サモジローに食い付かせたことが面白いような、しかし特殊忍具が犠牲になったような複雑な気分。
激しい音が続く遥か下を覗いた瞬間──何かが勢いよく顔を覗かせた。
サモジローだ!
どうやって掃射を回避したものか解らないが──きっとCRADを踏み台にでもしたのだろう。
慌てて斬り捨てようとしたが、タイミングが遅い。
ただ刀は構えていたのでふいの攻撃は受けず、サモジローはトモヨを飛び越え、高級家具を真っ平に潰して着地した。
ほんのわずかな間──二人の視線が絡み合う。
ニンマリと、薄気味の悪い笑みを浮かべているサモジロー。
──考えは同じ。
向こうもこちらに食い付かせたいって訳か!
残っているであろう風車型手裏剣に注意しつつ、トモヨは日本刀を構えて突進する。しかしサモジローは流れるように避けるばかり。
急に足元がぐらついた。
続いて起こる連続的な衝撃と、次々うがたれる穴。
──標的への正常な照準予測!
バリバリと音を立てながら、床のあちこちに一直線の穴が走る。
美しいフローリングの床材と、その下に横たわるカーボン棒筋の荒れ狂う炸裂。
およそ二十ミリと思しき銃弾はさらに天井を貫き、白い屑と砕けた棒筋の雨を降らせる。
やがて、本格的に足元が揺れ始めた。
幾筋も走る一直線の弾痕──そのせいで、床が重量が支えられないのだ!
今にも崩れ落ちそうな床──
トモヨは力いっぱいにそれを踏み、前に出た。攻撃の間合いなど気にしない、危険な前進。
目の間には当然、サモジロー・アボシ。
しかし究極、読みは合っていた。
サモジローが自分を追って来たもう一つの理由──
それはきっと、名刀・村雨丸。
トモヨが特殊忍具を欲しがるように、奴もこれを欲している。
ならば、自分からそれを傷つけるような攻撃は出来ないはず──
手裏剣投射機を搭載した腕をこちらに向けながら、やはりサモジローは発射しなかった。日本刀を突き出していたのが良かったのかもしれない。
身体をひねったサモジローに切っ先は刺さらなかった。
それでもトモヨの身体はめり込むように吸い込まれ、二人は一緒になって部屋を転がって行った──




