マルヅカ・ヤマ大虐殺
空気を切り裂く音が連続した。まるで爆弾の炸裂音のようだった。
トモヨの掲げた盾に襲い掛かる執拗な追い撃ち。
陽極と陰極のレールから発生するローレンツ力、その加速によって飛翔するタングステン合金の手裏剣。
サイボーグの硬い外装を貫き、チタン骨格を砕き、なおも突き進む。
ついに、その一つが貫通した。
さすがに風車型手裏剣の先端が盾の背中から出ただけで、こちらにまで被害はない。
目録の説明に書かれた「サイボーグのメタル・ボディすら──」は嘘ではなかった。
それは充分に驚きだし、あれを装備すれば凄まじい火力を得られるだろう。
しかし現状──その装備者は敵だ!
左手で警備員の頭を支え、右手でその背中に掌底を打ち込む。
手裏剣のようにはいかないが、盾は事故車両から投げ出される人形のようにすっ飛んだ。
それが何にぶつかったかなど、確認している暇はなかった。
弾切れまで撃たせようかとも思ったが、その前にこちらがヤラレてしまう!
トモヨは身を翻し、滑るように床を進んだ。
近づく、オークション会場への出入口。
猫耳のすぐ横を、幾つもの風切り音が駆け抜ける。
転がるようにそちら側へと出ると──実に悲惨な光景が広がっていた。
壁を貫通した幾つもの手裏剣が、オークショニアや競売関係者にめり込み、あるいは切り裂いていたからだ。
「おい、お前! 向こうで一体なにが起こっている!」
トモヨの方へ駆けて来る、会場の警備員。
次の瞬間、水平に飛んできた一つが綺麗にその首を切り落とした。
──当たり所が悪ければ一撃!
いや、もしかして出力を変えられる──?
そんなことを考えながら、同時に首なしの警備員を引き寄せ、身を守った。
会場は大混乱。
あちこちで悲鳴と怒号があがり、その中を人々が逃げ惑う。
残った警備員たちは会場の裏へ急行しようとして、あるいは蒐集家たちを守って殉職する。
──いくらなんでも、やりすぎだ! びっくりするほど狂っている!
元同社・警備主任の暴挙。オーギガは絶対に許さないだろう。
すぐさま賞金首リストに載せられ、一生追われることになる。
もっともその金額は、私には届かないかもしれないが──
手裏剣の掃射がふいに止んだ。
トモヨは新たな盾を引きずって、少しでも距離を取る。
弾切れだとするなら有難いような、しかし勝手に使われて腹が立つような複雑な心境。
やがて、出入口の向こうにサモジローが現れた。
左右どちらに装着したのか知らないが、投射のために腕を突き出してはいなかった。
刀身から冷気の流れる日本刀──それをしっかり、両手で握っている。
クソ! よくも私の風車型手裏剣を!
警備員の腰に下がる電撃短針銃を抜き、連射する。
神社でかしわ手を打つような、甲高く小気味よい音。
目の奥に焼きつく紫の瞬きと、それが生み出す鼻を突くオゾンの刺激臭。
その中の一発がサモジローを捉えた──と思われた瞬間、霧のような冷気が尾を引いた。
辺りにスパークが走るが、命中したときの輝きではない。
うねるように霧が晴れたとき、カラリと何かが床に落ちた。
真ん中から綺麗に両断された、電撃針だった。
続いて襲い掛かる針を、同じようにサモジローが切り落とす。
トモヨは理解した。
──眼球だ。サモジローは何か特殊な目を装着している!
こちらの手の動き──あるいは弾道そのものを読んでいるのだ。
──まさか、自分の知らない特殊忍具?
電撃短針銃の弾薬が尽きた。
急いで盾の腰にあるポーチに納まった、カートリッジに手を伸ばす。
が、その隙をサモジローは見逃さない。
ダンッと床を踏み、真っ直ぐにこちらへ向かってくる。
忍びの者と剣豪の両刀使い。
まったくいい加減にして欲しい! せめてどちらかにしてくれ!
先に拝借した電撃警棒、トモヨはそれを自分の腰から引き抜くと、盾の後ろに構えて待ち受けた。




