因縁の関係
宮殿の内壁には幾つかの侵入防止設備がある。
無人自動銃座はいうに及ばずだが、なんとここには、増幅放射光・鉄条網まで設置されている。
ソウナのお陰で銃座は死んでいるが、増幅放射光・鉄条網は外部制御を受けない常設式で、かつ別電源。
門など飛び越えて進もうと考えていたシノだが、仕方なくハッキングを開始した。
リズミカルに響く狙撃の音。
ソウナが足止めしてくれている間に、侵入を進める。
開錠機構の制御システムに到達。
さあ、開錠! ──と思った瞬間、勝手に門が開き始めた。
「え? これ、ソウナ?」
「違う! 内側からです!」
すぐさま赤熱日本刀を構える。
開かれた門の向こうに現れたのは──真っ黒な猫娘のサイボーグ。
求める相手と姿かたちはまるで同じだが、シノは「違う」と判断する。
「──それは敵!」
そんなソウナの通信が届くより速く、黒い頭を両断した。
「──よく解りましたね」
「あー、なんとなく。てゆうか、勘かな?」
非難するような、ソウナの感情。
けれども、実際に違うのだから構わないだろう。
門の向こうでは二刀流の猫娘が、大勢を相手に戦っている。
シノは駆け出しながら、左の拳から猫爪を露出させた。
二刀流とは実に面白い!
自分でも早速やってみたくなったのだ。
三の丸内に踏み込むと、新たな敵を察知した黒猫の数人がこちらへと向かって来た。
彼女たちの手に握られた駆動鋸刃剣。
赤熱日本刀なら良いが、あれを猫爪で直に受けるのは得策ではない。
が、交換を前提にした仕様らしく、その剣身は繊細で薄っぺらく見える。
間合いに入った一人目──
まずは剣を熔かし斬り、返す刀で首元から頭に向かって斬り上げる。
突き込んで来た二人目──
身を引き、刃先が猫爪の間を通るようにして、手首を回す。
側面からの力を受けた鋸刃はギャリギャリと振動しつつ、やがて甲高い音を立てて折れた。
振り抜いた先で、逆手持ちに握った日本刀。
まるで右フックを打ち出すように斬りかかると、熱を帯びた刃先が相手の顔面を断ち切った。
次の相手に斬りかかる前、ちらと猫爪を見やる。
「ANZAI」の身体、キルケニーの標準装備だが、若干傷が付いている。
問題はないが、数を繰り返すのはマズイかも知れない──
とはいえシノは順調に、赤熱日本刀と猫爪の二刀流で斬り進んだ。
ソウナのアシストは常に的確で、こちらに斬りかかる最大人数をしっかり減らしてくれる。
やがて目指す相手と、数メートルの距離まで近付いた。
未だ残っている敵に対し、二刀流で奮戦を続ける返り血に染まった黒猫。
たしかに狂気じみているが、それ故にある種の雄々しさがあった。
「──あんたに対して敵意はない──」
それを伝えようと、血に染まった黒猫に通信する。
そのときだった。
互いに、ほんの一瞬、繋がっただけだった。
にも関わらず、流れ込み、また流れ出て行った情報は膨大だった。
「──嘘でしょ」
シノは我知らず、そう独り言ちていた。
この黒猫──つまりミチカとの間に、深い因縁があると解ったからだった。
*
シオリやエイミと組んで街角の猫となる前──
ミチカには当然家族があり、父親が居た。
父親と過ごした時間はそれほど長くはなく、また良い印象もない。
どこかのヤクザと親子の盃を交わした父は、ほとんど家に居なかった。組の中で汚い仕事を専門にし続けた所為か、あるいは元々歪んだ性格だからか知らないが、ことある毎に殴られた記憶しかない。
だからこそ、シオリやミチカと共に、街角で生きることを選んだのだ。
父親に対する特別な感情は、はっきりいって無い。
奴がどこで野垂れ死しようと、むしろ清々するはずだった。
──ところが、だ。
いざ目の前に、その父を斬った人物が現れた。
流れ込んできた情報がすべて教えてくれたのだ。
父親の名前は、「ヌカスケ」。
ネコヅカ組で汚れ仕事を行っていた子分衆。
今、目の前にいるこの「シノ」という名の猫娘──
彼女こそ、ネコヅカを操って斬首させたのだ。




