遭遇
黒猫行列部隊は瞬時にフォーメーションを組み、あらゆるポジションからの射線を確保した。
ミチカは逃げも隠れもせず、ただ営業担当者の死体を盾にした。
毎分・九百発を撃ち出す「SR-90」アサルトライフルの一斉掃射。
営業担当者はすぐさま弾け、盾の役目を失った。
生身の肉体を貫いた弾丸が、ミチカの身体に衝撃を伝える。
痛みでも苦しみでもなく、それは喜びだ。
生まれ変わった黒猫の身体。傷跡こそ残るものの、そんなものでは決して壊れない。
血液の粒を滴らせ、ミチカは跳ねた。
空中で、背骨に沿うように装着された、駆動鋸刃剣を引き抜く。
着地と同時に一体目を踏み潰し、二体目の銃身を刈り落とすと、続けざまに叩き付ける。
舞い飛ぶ火花の煌めき。
鋸刃の小刻みな往復運動が、ガリガリと金属を削った。
左肩から右の脇にかけての鋭い袈裟斬り──平らかで、つるりと綺麗な断面だった。
三人目と四人目の容赦ない発砲を、蹴り飛ばした死体で一瞬、牽制。
懐に飛び込んで、まずは銃身から刈り取る。
火花と共に三人目の首を落とし、四人目に斬り掛かるが──
バキン!
振動に耐えきれず、刃が折れてしまった。
ミチカは仕損じた相手に蹴りを入れ、素早く背中のスロットに握りを戻す。
刃の破損を感知したスロットは、自動で替刃をリロード。
カラン──と、折れた刃の残りが下部から排出され、再び使えることを知らせた。
もっともその頃には、ミチカは首の無くなった三人目の駆動鋸刃剣を引き抜いている。
同じく剣を抜き、構えようとする四人目。
が、ミチカの方が速い!
相手の鋸刃が駆動する前、剣ごと胸から上を削り取った。
さくっと四体を始末した訳だが、敵はほとんど減っていない。
足止めにしかならないアサルトライフルを捨て、黒猫たちが次々に剣を抜き放つ。
彼らが一斉に奏でる、鋸刃の往復運動の音。
──いいだろう。面白くなってきた!
ミチカは背中の剣を抜き、二刀流に構えた。
一番先頭の黒猫が、剣をうならせ突進する。
縦一直線に振り下ろされた剣筋──
ミチカは、駆動を止めた剣を交叉させ、十字の形でそれを受けた。
──正確には触れるか触れないかの瞬間、左手の剣で、駆動する鋸刃の側面を弾いた。
チュイン、という火花のほとばしり。
相手の剣先が大きく逸れる。
その一瞬の隙を狙って、右手の鋸刃を駆動、相手の顔面に振り下ろした!
気持ちが良いほどに軽い力で、それは真っ二つに裂けた。
ガクガクと崩れ落ちる胴体を尻目に、ミチカは次の相手に備える。
迫って来たのは、二人だった。
打ち掛かる一人を左の剣で弾く。
振動する互いの刃が触れ合い、激しい火花と共にジャリジャリと嫌な音。
続いてもう一人の右の剣で弾き、一歩後ろへ下がる。
立て直して間合いに入った最初の一人を、やはり左で受け流して、右で振り下ろす。
浅い斬撃は、しかし左腕と胴の一部を削り取った。
その頃には二人目が、反対側から打ち掛かる。
ミチカはターンし、三本目の剣──蛇のようにしなる尻尾でそれを弾いた。
追撃を掛けようと迫り来る、片腕の黒猫。
ミチカは刃を滑らせるように、一直線に突き出した。
顔の真ん中に、見事突き立った駆動鋸刃剣。
ブルブルと震えながら、未だ火花を散らし続けている。
けれども、それを抜き取る時間はない。
下から上に薙ぐ剣筋が、火花をあげて左の剣に接触した。
同じ運動をする刀身同士が、酷く耳障りな騒音を立てる。
まるで通り雨のように、まき散らされる赤い火花。
やがて、激しい衝撃と共に両方の鋸刃が折れ飛んだ。
互いに武器を失った──いや、そうではない。
ミチカには見えていた。
相手の二本目の剣──
つまり、黒猫の尻尾が、いち早くこちらに突き出されたのを。
──マズイ!
直撃を覚悟した瞬間だ。
バカン! という金属的な音がして、黒猫の頭がふっ飛んだ。
一瞬、何が起こった解らなかった。
眼前まで伸びた尻尾が動きを止め、身体と共に地面に崩れる。
かろうじて、大口径のライフルによる狙撃であることは解った。
握りをスロットに戻し、リロードさせながら敵の群れを見やる。
そこには、さらによく解らない光景があった。
真っ赤に光る日本刀を振り回し、次々と黒猫を切り捨てる猫娘──
果たして敵か味方か──
──なんにしても、あの赤熱日本刀の方が切れ味は良さそうだと思った。