チームプレイ
ハックしたカメラの中で別の男の首が握り潰され、もげ落ちた。
「早く近付いて!」
マクシムスの後部座席で、シノは叫んだ。
城の中庭に居並ぶ、黒い猫型サイボーグ・四十体。
今、その中の一体が、残り三十九体にじりじりと追い詰められている。
細かいことはよく解らないが、夢のような記憶を信じるなら、助けるべき相手はもう決まっている。
マクシムスが正門上空に接近した。
ソウナのお陰で対空システムは切られているが、武装警備員は健在だ。
城内の緊急事態──宮殿所有者の心肺停止──に対し、全員がそこへ急行した訳ではない。
リズミカルに鉄を打つような連続的な音。
アサルト・ライフルの弾丸がマクシムスの車体下部を次々と貫通。
シートを取り払った後部座席に跳弾が乱れ飛んだ。
ソウナに換えてもらったばかりの真新しい身体。
その腕や脚に早速、真新しいキズが出来る。
さすがに貫通などしないが──無性に腹が立つ!
シノはワンボックスのドアを乱暴に開く。
「先に行く!」
「え? ちょっと、待っ──」
ソウナが止めるのも聞かず、飛び下りた。
ごうっという風の音。
サイボーグの身体に加わる激しい重力。
猫耳の横を幾つもの弾丸がかすめ飛ぶ。
落下しながら身体をひねり、次の弾丸を避けながら宮殿のデータベースに侵入。
敷地と建造物の地図データを取得する。
ずずんっという衝撃。
着地したのは、やはり広大な中庭。
一つの浮島を中心に広がる池、それに渡されたアーチ状の石橋、レプリカの石灯籠と植物──
金に糸目をつけず造られた、池泉庭園。
地図によれば、ここは二の丸と呼ばれ、黒いサイボーグが戦う三の丸ではない。
鞘を払い、赤熱日本刀を輝かせる。
と、連続的な発砲音が轟き、池の水がぴちゃぴちゃと跳ねた。
遠くに見える埋門、そこから溢れ出て来た警備員たちの一斉掃射。
シノはすぐさま、背の高いレプリカ・黒松の後ろへと隠れる。
グラスファイバーとエポキシ樹脂、LEDの寄せ集めで作られた樹幹に、防弾性は皆無。
バリバリと音を立て、レプリカが弾け飛んだ。
「チッ!」
木屑色の粉塵をまといながら、シノは転がるように走る。
嬉しいことに、石灯籠は本物だった。
竿の部分から縦に引き抜き、即席の棍棒兼、盾にする。
そこに浴びせかけられる弾丸。どうやら固い石ではないらしい。
灯篭の表面が、ガリガリ削れている。それでも、無いよりは全然マシだ。
怯むことなく駆け、ジャンプ。浮島を経由して、警備員たちの手前に着地する。
恐れをなした彼ら──
なにせ、こちらの右手には赤熱日本刀、左手には石灯籠。
フォーメーションの崩れた列の先頭に、まずは棍棒を叩き付ける。
いとも簡単に、警備員と石灯籠が飛散した。
考えてみれば当然だろう。大理石の彫刻のように、一つの石から作られた物ではない。
二人目は、日本刀の横薙ぎをお見舞いする。
赤熱化した刀身がサイボーグの横っ面をぬるぬると熔かし、遂には上顎と下顎骨を切り離した。
未だ残っていた灯篭の竿。
三人目の頭をそれ諸とも砕き、自由になった左手を柄に添え、四人目を逆袈裟斬りで仕留める。
と、逃走した五人目と六人目の頭が、次々にふっ飛んだ。
一瞬、訳が解らず焦るが、すぐに通信。
「次からは相談して下さい!」とソウナの怒った声だ。
わずかに流れ込んだ彼女の意識──そうすると、ソウナが武器庫で選んだ「SS49 スナイパーライフル」の援護射撃だと解った。
あれでも相談したつもりなんだけど──と思ったが、口には出さなかった。
もっとも共有された意識下において隠し事は不可能。
ソウナのうるさい心の呟きが、ダイレクトに伝わってくる!
「ごめん、ごめん!」と謝りながら、三の丸に続く門を目指す。
次々に現れる警備員──
そして次々に、頭がふっ飛んで行く。
お小言を言いながら、しっかり排除を忘れないソウナ。
「ありがとう。次は相談する! ──多分」
シノも負けじと刀を振った。二体、三体と切り伏せる。
ソウナのアシストと、赤熱日本刀。
これが名刀村雨丸ならなお良いが、それは忘れよう。
二人の力があれば、全く負ける気がしなかった。




