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人間を噛んだ猫

 ソウナの運転するマクシムスは、超高層建築メガストラクチャを支える幾本もの脚の間を軽快に飛んでいた。

 彼女の倉庫にはほぼあらゆるものが揃っていたが、車両だけは存在しない。

 セオリーに従うなら、そろそろこれも乗り捨てるべきだが、今しばらくは仕方がなかった。


 機械身体の換装中、シノが見たという夢のような記憶──

 ソウナも当然、まったく同じものを見た。

 記憶に対するスキャンから、早々に「SATOMI KK」や、黒猫行列カッテンストゥッツ部隊を割り出した二人は、その製品の最終出荷先として記録されていた、とある住所へと向かうことにしたのだった。


 人間をAIに変える計画──

 その異常さに二人は激しい怒りを覚えたが、ソウナとしては疑問もあった。

 自分やシノにも共通する──どうしてウイルスは入り込んだのか? というものだ。


 シノに言わせれば、「考えるだけ無駄」というが、やはりネットランナーとして解析不能はどうしても許せない。とはいえ、堅い防壁を突破出来ない以上、シノの言う通りであるのは間違いなかった。

 彼女のようなシンプル思考も、たまには見習うべきなのかも知れない──


 そんな訳で、シノはさっきから改造された後部座席──すべてのシートを取り払い、金属が剥き出しになっている──の上に座し、隠し倉庫から持ってきた赤熱日本刀ヒート・ブレードの抜刀練習を一人黙々と続けている。


 バーチャルのイメージトレーニングなので、実際に刀は抜かれていないのが幸いだが、これを武器庫で見つけたときのシノの喜びようといったら、まるで子供のようだった。よほどに失った名刀村雨丸シャープブレード・ムラサメマルが恋しいのだろう。


 ソウナは高度を落としながら、あらゆる情報網に意識を浸透させた。

 サイバー浪人、サモジロー・アボシ。

 責任を感じていたし、今のうちから奴の足取りをつかんでおきたかった。


 完全にネットを遮断し、すべての痕跡を消して生きることはほぼ不可能なはずだ。

 にも関わらず、サモジローは上手くやっているようだった。

 あるいは刀を盗んだまま、どこかで野垂れ死にしているのかも知れない──


 ふいに、探していたものとは違う情報ニュースが飛び込んだ。

 ヤクザ・マスター、ヤヤ・ヤマの死。死因は──調べるまでもなかった。

 自分の人生に影を落とす重大な事柄だったはずなのに、もう特別な感情は湧かなかった。

 ソウナはその情報ニュースを、ただそっと閉じた。



 ニュー・イバラキのコガ・シティ。

 出荷先だった政治家の私邸は、その豪華さ以上に、厳しい警備体制が敷かれていた。

 広大な敷地の周囲には高い壁が張り巡らされ、正門には武装した民間警備員プライベート・ガード

 要所要所に彼らの詰所も設けられ、かなりの人数が集められている。

 またスキャンの結果、ドローンや不審飛行車両のための対空防衛システムもあった。


 これでは簡単に近付けない。

 私邸の中で一番背の高い、まるで天守閣のようにそびえる建物──それが見渡せる沼地の対岸に、一旦は着陸する。


「──てゆうか、いっそ突撃しちゃおうよ。中に入っちゃえば、なにか解るでしょ」


 そんな無謀な作戦を持ちかけてくるシノ。

 いくらなんでも、それはちょっとシンプル過ぎる!

 はやる彼女を何とか押し留め、「最低限、城内のカメラはハックして!」とお願いする。


 面倒くさそうに、ハッキングを開始するシノ。

 それに続いて、ソウナも意識を躍らせた。

 シノが掌握して行くカメラの映像を片手間に感じつつ、自分では対空防衛システムに侵入する。


 かなり金を掛けて組み上げられてはいるが、ソウナの手にかかれば何ということはない。

 ──と、カメラ映像に動き。

 城内にある広場──そこに整列した真っ黒な猫型サイボーグの群れ──


 なんとその中の一体が、突然人間に向けて発砲したのだ!


「ソウナ! 発進! 突撃しよう!」

 目を輝かせながら、シノが叫ぶ。

「──了解」


 対空システムはもう停止できていた。

 なんだかシノの言うとおりに成り過ぎて癪だったが、ソウナはマクシムスを急発進させた。

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