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ワイルド・キャット

 機械猫エレクトリック・キャットはちょうどシャワーの水の境に立ち、こちらをじっと見つめていた。

 シノは不可解さを覚えながら、落ちかかる湯の温もりを感じていた。


 さっき機械猫エレクトリック・キャットが自分を舐めたとき、単にその可愛らしさに心変わりしたのではない。

 命令された気がしたのだ。


 ──戦うな、と。


 機械猫エレクトリック・キャットからそういった無線通信シグナルを受けた訳でもない。

 自分の内側から発せられた、非言語の情報によってである。


 一体、この猫は何なのだ?


 しばらく考えてみるが解る筈もない。それより問題は、名刀・村雨丸シャープブレイド・ムラサメマルだ。

 ネコヅカの形見であるアレは、何としても取り返す──


 シノはシャワーを止めると、自分の腕で顔を擦っている機械猫エレクトリック・キャットを抱き、バスルームを出た。



 リビングに入って驚いたのは、部屋の主が自分に対し服を用意していたことだ。

 シノの身体にちょうど合いそうなフード付きのコート。

 やや細身のシャツと下着。

 猫娘の尻尾キャットガール・テイルに対応した穴のあるパンツ──


 それらが、「さあどうぞ」と言わんばかりにソファの上に並べられている。

 勿論、シノはそんな物に手を出さない。

 機械猫エレクトリック・キャットの喉を必要以上に撫でながら、いつでも爪を突き出せるのだとアピールする。


「危害を加えるつもりなら、もうやっています。この室内にもドローンはたくさんある。解るでしょう?」

 同じソファの上、すらりとした脚を伸ばして猫娘キャット・ガールが言う。

「一つ質問します。あなたはハッカーで、ウイルスの伝染が趣味ですか?」


 シノは混乱する。

「何の話? 端的に言いなよ?」


 すると少女は、いきなり服を脱ぎ出した。

 この人──同性愛者レズビアン? と思っていると──


 猫娘キャットガールの右肩から背中に、黒い牡丹(ブラック・ピオニー)のテクスチャが現れた。

 自分とは形や色が微妙に違っている。

 しかし、まるで同じアーティストの手によるものとしか思えないデザイン──


「──少し、話しましょう。殺し合うのはそれからでも良い筈──」

 少女は言い、全裸のシノに向かって服を投げたのだった。



 ※ ※ ※



 テクスチャを見せた後、相手の猫娘キャットガールは目に見えて警戒を解いたようだった。

 ソウナは自分から名を名乗り、かつヤクザのネット・ランナーであると伝えた。

 裏街道アンダーグラウンドを歩む者特有の所作で、どの道バレていると思ったからだ。


 相手は、自分をシノだと名乗った。

 ただ用心深い性格なのだろう、あえて自分からネコヅカ組の構成員ヤクザだと明かす気はないようだった。


 ソウナとしては、このシノがウイルスの発信者ではないかと考えていた。

 けれども、話を聞いてみると違うらしい──


「それじゃあ、あなたも突然感染したというの?」

「まあ、そうなるね。まさか、同じ病気の宿主ホストに出会うとは思わなかったけど──」

「一つ提案を良いですか? あなたに接続させて欲しい。何かが解るかも知れない」

「それ、何のメリットがあるの? その間に、私を攻撃しない保証は?」


 ソウナは迷ったが、あえて更なる秘密を開示した。

「──あなた、ネコヅカの残党ルーザー・キャットでしょう? 私は親分ヤクザ・マスターから、あなたの排除を依頼されている──」


 その言葉を口にした瞬間、シノの人造筋肉シンセティック・マッスルが、ぎゅっと緊張する音がソウナの猫耳キャット・イヤに伝わった。膝の上の猫を撫でる動作が止まり、即、戦闘準備完了。


 なんて短気ワイルド・キャットな人なのだろう!

 ソウナは慎重に言葉を続ける。

「この情報を教えた理由、解ります? 殺す気ならもうやっている。それよりも大事なことがあると言いたい。だいたい、あなたの為にもなる事だと思うけど──」


 ソウナはしばらく黙って、シノの様子を伺った。

 良い返事が戻ってくるかは不明だが、少なくとも筋肉の緊張が消えたことは解った。


「──条件がある」シノが言った。

日本刀ジャパニーズ・ブレードを返して欲しい。それから、ウイルスの部分だけだ。他に深く潜ったら焼き殺す。──いいね?」

「了解」

 ソウナは立ち上がりながら、むしろシノに好感を抱いた。


 裏街道アンダーグラウンドを歩む場合、用心深さは信用の証だからである。

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