プロローグ
レールとレールの継ぎ目を通るたびにガタンガタンという音と振動を感じる列車内で私は窓枠に肘をつき、外の様子を眺めていました。
外の様子を眺めていたといっても、列車は絶賛トンネルの中を走行中で窓に映るのは真っ黒なトンネルの壁と窓ガラスに映る黒くて肩に届くか届かないかといった具合の長さの髪と黒い瞳が目を引く少女……私こと小野田香苗の姿が鏡の様に映っていました。
ここは「クラウディア」と呼ばれる世界にある北大陸最大の都市、聖都ミカに向かう国際列車の車内。
この世界に意図せず流れ着いた「迷い人」であり、元居た世界に戻るための方法を探す旅人である私はこの列車の行き先である聖都ミカへ向けて旅をしている最中でした。
聖都ミカを守るかのように囲う背の高い山脈を長大トンネルで突っ切るこの列車の車内には長い耳が特徴的なエルフやケモ耳やしっぽの生えた獣人、私と同じ人間など様々な人々が乗り合わせています。
おそらく彼らの多くもどこかしらの世界から流れ着いてきた異邦者で、この世界に様々な知識や技術をもたらし、この世界の住民として溶け込んだ人や私と同じように元の世界に帰るために各地を転々と旅をする人など、それぞれの目的をもってこの列車に乗り合わせているのでしょう。
私は小さくため息をついて窓枠から手を放し、カバンから日記帳を取り出して、最初の方のページを開きました。
『クラウディアはすべてを受け入れる。それはとても美しく見えて、それ以上にとても残酷なことだと言えるでしょう』
この世界に転移したその日に告げられた言葉を頭の中に浮かべながら私は数か月前の出来事に思いをはせていました。