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本当にありがとう

どうも、思いついたので書きました。三日坊主にならないことを願います。

俺は魔王だった。魔族の中でも特に優れた一族であるバハムート家の第11代当主であり、第9代魔王であった。バハムートの一族は寿命が500年ちょうどで寿命が切れると胸に埋まった真紅の宝石を残し塵となる。最期はどの生物よりもあっけないものだ。

魔族と人類は有史以来常に争ってきた。少なくとも文献に残っている限りでは争いが絶えたことはない。魔族は種族にもよるが最低でも150年は生きる。そして個々人の力は生態系のトップに君臨するだろう。しかし絶対数は少ない。それに対し人類は長くとも80年が限界であり、力も弱い。だが彼らは知恵を絞り、受け継ぎ、長い間我々魔族と互角の戦いを繰り広げてきた。

私が父上から魔王の位を受け継いだのは150歳の時だった。本来であれば200歳で代替わりなのだが私は歴代の魔王の中でも特に優れた魔力があったため早めに代替わりした。そこから300歳まで戦争に没頭した。魔王とはいえ何かと適当な魔族である。政治なんて喧嘩が起これば両者に拳骨を落とす程度である。だからいつも最前線に赴き街を滅ぼしたり捕まった同胞を助けたり思いついたことを思いつくままにしていた。

そんなある日、今日も街を占領し終わった後、汚れを落としに近くの森の川に行った。そこで私は運命の出会いを果たした。その子達はまだ幼い人族の少女であった。双子なのか同じ栗色の髪をした少女たちで手には何やら籠を持っている。先ほどまで人族でも選りすぐりの戦士たちを相手にしていた私は抵抗らしい抵抗もできない少女たちを殺す意欲は湧いてこなかった。興味を失い去ろうとしたその時、微かに香る匂いに気がついた。魔族領では嗅いだことのない何処か牛の乳のような、しかしその何倍も濃厚で優しい匂いだ。より注意して嗅いでみるとそれとは別に何やら香ばしい匂いもする。実際のところは知らないが太陽の香りという言葉がなんとなく浮かぶそんな香りだ。どうやら少女たちが持つ籠から漂っているらしい。

未だ震えて目を逸らすことさえできていない少女たちに私は尋ねた。


「これ、少女たちよ。今我は貴様らを殺す気はない。それよりもその籠の中身はなんだ?」

「きょ、今日のお昼です、、、」

「昨日の夜ご飯のシチューとパンをそのまま街から持ってきたです、、、」

「街から?それにシチュー?パン?なんだそれは、、、飯か?」


魔族は基本的にめんどくさがりである。適当に魔法で焼き殺した魔物を食べたりその辺の草やたまに人族の町にある野菜をそのまま食べるだけだ。しかし少女たちが言ったシチューやパンというものは食べたことがない。その時初めて先ほどから刺激されるこの欲求が食欲であるとわかった。食欲が刺激されたのはいつ以来だろう。いやもしかしたら初めてかもしれない。


「少女たちよ、そのシチューとパンとやらを寄越せ」

「でも、これはマロンたちのお昼で、、、」

「マロン、あげよう?殺されちゃう、、、」

「、、、うん」


少女たちから渡されたカゴの中には何やら白いドロドロした何かと茶色い何かが入っていた。そういえば茶色い方はたまに戦士たちが持っていたな。硬いし戦士の血や泥がついていたため気にも止めなかったが飯だったのか。しかしこれは戦士たちのよりも幾分か柔らかいな。どれ、、、


「!!!!????」

「「!!!!????」」


これが私の運命の出会い。『シチュー』と『パン』との出会いである。私は過去こんなにも衝撃を受けたことがなかった。なんだこの凄まじい味は、、、私が今まで食べていたのは一体なんだ?味覚とは毒物を見分けるためのものではないのか?おっと、、、無くなってしまった。この小さい二人で分けるつもりであったであろう量では私には少なすぎた。


「少女たちよ、追加でもっと持ってこい。逃げれば承知せんぞ」

「で、でも、、、もうシチューはそれで最後なの、、、パンもあまりないし、、、」

「ま、町に行けば材料もあったけど、昨日魔族が壊しちゃったから、、、」

「な、なんだと、、、ま、町にはこんな素晴らしいものがまだあったというのか!?」

「そのシチューはお母さんの得意料理で、、、他にもロットおじさんのパスタも、、、キャルロッテおばさんのパイも、、、他にもいっぱいあったけど全部無くなっちゃった、、、」

「魔族の人たちはなんでそんな酷いことするの?あんなに美味しいのがいっぱいある街をどうして?」

「、、、、、、」


私はこれまでにないくらい後悔していた。これ以外にもまだたくさんだと?何かの間違いだろう、、、ならなぜ今まで私たちは戦争していたのだ?人類は敵?この世界の腫瘍?滅ぶべき種族?こんな事を言っていた奴は頭がおかしいのではないか?


「お母さんが言ってたのに、、、みんなで食べればもっと美味しいって、、、その人を思って作ればもっと美味しいって、、、なのに何で人と魔族はずっと戦争してるの?」

「昨日までみんな美味しそうにご飯食べてたのに、なんで?」


待て。いまこの少女は何と言った?

『みんなで食べればもっと美味しい』?

『その人を思って作ればもっと美味しい』?

さっきは『街にはもっと美味しいのがいっぱいある』とも言っていた。しかし今はどうだ?

『街の外』で『一人で貪り食い』『人と魔族は戦争中』、、、それなのにこんなにも美味しいのか!?これ以上のおいしさがあるというのか!?ああ頭が痛い。よし決めた。魔王の権限で人との戦争をやめる。歯向かう奴は私が止める。これは決定事項だ。よしすぐに取り掛かろう、、、まずはその前に腹ごしらえだ。この少女達の母とおじさんとおばさんに飯を作ってもらわねば。


その後、私は150年を費やし人族と魔族の諍いをなくしていった。今では街を歩けば人と魔族が共に酒を飲み、魔法に長ける魔族の力によってより発達した人族の技術がよりうまい飯を作る。人族と関わり私は新たな発見をした。人族は飯だけではないのだ。例えば物語。彼らは想像だけで全く別の人を巧みに描写できた。バカな魔族にはとても真似できん。そして馬車などの乗り物。我らは走った方が速いからそもそも乗ったことすらなかったがなかなか快適でその快適さの追求に余念がない。全く素晴らしい限りだ。

しかし、私ももうそろそろ限界か、、、もうすぐ500年経つ。450歳の時に魔王を息子に譲り50年遊び歩いていたが全く人生の半分どころではなく大半を無駄にした、、、

この食事が我が人生最後の食事だと思うと何だか泣けてくるが、献立はあの日少女達と会った日に決めていた。


「やはり何時になってもシチューとパンはうまいなぁ」


こうして人族と魔族の和平に生涯を賭した最も偉大なる第9代魔王アクラム・バハムートは永遠の眠りについた。






「と、言うわけで貴殿は死んだわけだ。どうじゃ?死んだ感想は?」

「、、、、、、まずお前は誰だ?私は確かに死んだはず。なぜ生きている?いや、死んでいるのか?だとするとお前は神というやつか」

「正解じゃよ。と言っても貴殿たち魔族が信仰している魔神ではなく人族が信仰している神じゃがな。さて、貴殿はその生涯のほとんどを人族との和平に賭してくれた。例えそれが打算の上でもその実績には報いなければならない。そこでじゃ、転生せぬか?この世界よりもずっと人が栄えている世界じゃ。人同士での争いが絶えないのが玉に傷じゃがいいところじゃよ?」

「なるほどな。しかしあまりにも都合が良すぎる。何を企む?」

「安心せい。確かに企てがあってのことじゃが、貴殿が好きに生きていれば結果として良い方に進む。双方の利害が一致しているまでのことよ」

「、、、ならばいいだろう。転生に応じる」

「うむ。最後にこれだけは言わせてくれ。本当にありがとう」


こうして魔王アクラム・バハムートは死にアラブ首長国連邦の王子アクラム・アウス・バハムートが誕生した。

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