学校での放課後、視聴覚室にて
放課後、結城未来はガラッと視聴覚教室の扉を開けた。すると中段に一人の少女が寝ているのが見えた。「あっ、いた。紗奈!」と声を掛ける。しかし、紗奈はピクリとも動かない。「グッスリ眠ってるわ」と結城は思った。「学校の視聴覚教室であんなにグッスリ寝るなんて、紗奈ったら徹夜でもしたのかしら?」
ここは結城未来が通う文京区にある虹ヶ丘高校である。時は2089年。現実の世界は仮想世界に侵食していった。人々はより快楽と住みやすさを求め、理想のユートピアを求めている時代だ。
突然、結城の後ろに人の気配がしたので振り返った。そこには体育の先生が立っていた。「何をやってるんだ?」木達先生が結城に問いかける。結城はヤバっと感じ、とっさに笑顔を作って返事をした。「あの、友達がここにいるので迎えに来たら眠ってて。起こしてすぐ帰りますから」と言うと、木達先生は穏やかな顔で「起こさなくてもいい。寝てるなら後で俺が起こしておくから、お前は先に帰りなさい」と言った。
結城はここを立ち去る様に促されていると感じ、「ハイッ!」とだけ言って慌ててその場を去った。この時、もし結城がわずかでも後ろを振り返っていたら、きっと恐怖で青ざめていただろう。なぜなら、体育教師の木達の顔はさっきまでの穏やかな顔ではなく、冷酷な眼差しで結城を見ていたからである。