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4.朝ご飯

 スマホのアラーム音で九条の意識は覚醒する。

 今日もいつも通りの一日が始まる。

 五月も半ばということもありそこまで気温も高くなく気持ちよく起きることができた


「あぁ、そっか……」


 いつも通りではないこともあった。

 いつもと違う天井、いつもと違うフカフカなベッド、そして目が覚めてから気付くいつもより早い時間のアラーム。

 九条の家は火事になり紆余曲折あって姫乃とシェアハウスをすることになった。


 まだ完全に頭が冴えきらない九条は目を覚ますためにとりあえず起き上がり、カーテンを開け朝日を浴びて背伸びをする。

 あれから両親からの連絡はなく、何度電話を掛けても繋がる気配も全くない。


 まぁ何かあったら父さんの方から連絡が来るだろし、姫乃さんのことも知ってたみたいだったから本人に聞けば何か分かるかもしれない、と九条も父親譲りなのか楽観的に考える。


「さて、今日の授業は……」

 

 朝ご飯を食べる前に支度をしようとした九条だがあることを思い出した。


「今日もテストじゃん!!!」


 一夜漬けをする気満々だったのに火事のことですっかり忘れてしまっていた。


「今からじゃ間に合わないし今回の点数が悪くても先生たちも大目に見てくれるだろ……くれるよな、くれるといいなぁ……」


 九条は自信なさげに希望的観測を口にし今日のテストのある教科書だけでもカバンに詰めようとした。

 だがその手も止まる。


「どっちにせよ、もう手遅れか」


 九条は諦めて朝ご飯の準備に取り掛かることにした。

 一階のリビングに向かい、そのままキッチンへと向かう。

 今日の朝ご飯は、目玉焼きと昨日作っておいた味噌汁、それからこれまた昨日セットしておいた炊飯器に眠る白米だ。

 使ったことがないメーカーの炊飯器だったが艶もあり上手に炊けているようだ。


「まぁ炊飯器なんて使い方は大体同じだしな」


 ご飯よりパンの方が良かったかな、なんて九条は思いながらも朝ご飯とお弁当の準備を済まし、姫乃が来るのを待つ。


「起きてる……よな?」


 時刻は七時半を回ったところだ。

 ご飯を食べる時間を考慮するとそろそろリビングに来てもらわなければ困る。

 起きてるかどうかを確認するためスマホを使いまずはメッセージを飛ばした。

 数分待っても既読は付かないのですぐさま電話を掛ける。


「んー、出ないな」


 このまま待っていても起きてこないとお互い困るので九条は急いで三階に上がる階段までやってきた。


「愛莉ー! 起きてるかー?」


 大声を出して名前を呼んだが返事はない。

 それどころか恐ろしく静かだ。

 相変わらずメッセージは既読もつかない。


「行くしかないか。別にやましいことなんか考えてないし。か、確認のためだからな!」


 そう自分に言い聞かせ初めて三階へと足を運んだ。


 三階は構造的に二階と同じような造りになっているようだった。

 だとすれば一番奥の部屋が寝室になっているだろう、九条ゆっくりと奥へと進みすぐに寝室に辿り着く。


「の、ノックして返事があったらリビングに戻るからな……何もやましいことはしない、あるわけもない……」

 

 再び自分に言い聞かせて寝室のドアをノックした。

 だが返事は無い。それどころかここに来ても物音すらしない。


「愛莉、寝てるのか? そろそろ起きた方がいいと思うぞ」


 ドアの前で話しかける。

 すると寝返りを打ったのだろうか、擦れる音だけが九条の耳に入る。


「遅刻するよりはいいよな? 入るからなー!」


 ガチャリ、とわざとらしく音を立て、九条は初めて女子の部屋に入室を果たす。

 住み始めたばかりだと言うのに生活感がかなりある。

 薄ピンクのベッドに茶色のテーブルと椅子、窓際には小さなサボテンが三つ置かれていた。

 肝心の部屋の主はと言うと朝起きて着替えを頑張ろうとしたのか制服を握りしめてベッドで気持ちよさそうにスヤスヤと寝息を立てて眠っていた。


 まるで妖精でも寝ているんじゃないかと思うくらい綺麗で、可能ならば起きるまでずっと見ていたい九条だが、このまま見続ける訳にもいかない。


 そんなことしたら勝手に部屋に入ってきた変態になってしまうし、テストだというのに遅刻になってしまう。


「姫乃さん。ほら、朝だから起きて」


 肩を摩って起こす。

 こんな至近距離で下の名前で呼ぶのは抵抗があった九条は苗字で姫乃のことを呼んだ。

 どの道まだ寝てるからどちらで呼ばれようが気付かれないだろう。


「んんっ〜……ふわぁ〜。……もう朝ですか爺や?」


 艶かしい声を上げて寝ぼけた姫乃は九条を昨日の執事だと思っているのかゆっくりと起き上がり目を擦る。

 ネグリジェがあまりにもはだけてしまっているため、九条はすぐさま後ろを振り向く。

 目を瞑っても脳裏に焼き付いて離れない姫乃の谷間、煩悩を沈めるため目を瞑り別を事を考えるが結局先程の光景が脳裏に焼き付いたままだ。


 爺やと呼んだのに何も答えてくれないのが不思議に思った姫乃も漸く意識が覚醒する。

 目の前には九条の後ろ姿があり同時に部屋の時計が視界に入り自分が寝坊していたのだと気付く。

 加えて自分のはだけた姿に気付いて段々と恥ずかしくなる。


「はわ、はわわわわっ!?」


「お、起きたんだね。口に合うか分からないけど朝ご飯作ったからよかったらリビングに来てね。じゃ!」


 オタク特有の早口で捲し立てると九条は急いで姫乃の部屋から撤退した。

 その後、叫ばれると身構えていたが叫ばれることはなく、数分してから制服に着替えた姫乃がリビングへとやってくる。


「先程は大変失礼しました! 大変大変お見苦しいものを見せてしまいまして……」


 開口一番の謝罪。

 失礼どころか大変良いものを見せてもらった、なんて言ったらあの執事に殺されかねないので九条の心の中だけに留めておく。


「気にしてないから大丈夫だよ。それより朝ご飯食べない? 口に合えばいいんだけど」

 

 目玉焼きとその下に敷かれたレタス、味噌汁、白米を出す。

 ラインナップとしてはそれだけじゃ味気ないので沢山あったふりかけもテーブルに置く。

 よくある小袋のタイプだ。

 九条の家でも愛用していたのでここにもあるのは正直言って有難いと感じている。


「何かな何までありがとうございます。いただきます」


 手を合わせていただきますをすると昨日カップ麺をガツガツ食べていた人とは思えない所作で左手に茶碗を持ち、右手で持った箸を綺麗に使い白米を口に運ぶ。

 育ちの良さがよくわかるほどだ。


「美味しい……好みの硬さです!」


 姫乃は目をキラキラと輝かせ、ぱくぱくと食べ進める。

 今度は味噌汁を音も立てずに飲んでいく。


「ネギのお味噌も美味しいです。九条くんは天才ですね!」


 褒めても何も出ないけど、宮学のプリンセスに褒められることなんてそうそうないので九条は嬉しくなる。


「ごちそうさまでした。朝から九条くんのご飯が食べれて幸せです」


 軽く頭を下げ、ごちそうさまを言うと姫乃さんは自分の食器をキッチンへと持っていく。


「あ、置いとくだけでいいから。後、冷蔵庫にお弁当あるからよかったら食べてね」


「ありがとうございます。ふふっ、お昼の楽しみが増えました」

 

 姫乃は冷蔵庫からお弁当を取り出すとお弁当を大事そうに抱きしめながらスキップしてリビングを後にする。


 別に大したものは入れてない。

 みんながよく目にするようなおかずと朝ご飯にも出た小袋のふりかけがあるくらいだ。

 もちろん白米も忘れてはいない。

 そもそもお嬢様である姫乃はこんな食べ物で満足するのか九条には疑問である。

 今はいつもと違う人が作った食べ物だから目新しさがあっていいのかもしれないが、数日続けてみて険しい顔をするようなら聞いてみようと九条は思う。

 

「それでは、お先にいってきますね」


「うん、いってらっしゃい」


 身支度を整えた姫乃がわざわざリビングに居た九条に声を掛けにやってくる。

 赤いリボンをぴょこんと揺らし、九条に一言掛けるとそのまま姫乃は家を後にする。

 先程まで着替えの途中で寝てしまった人物と同一とは思えない優雅さがあった。


「俺も急がないとな」


 呑気に朝ご飯を食べてたら遅刻してしまいそうなので急いでかき込み、洗い物を食洗機に突っ込み、身支度をして九条も家を出る。

 ちなみにこの一軒家はオートロックになっているのでカードキーさえ忘れなければ困ることはない。


「あれ今、玄関にもう一枚あったよな?」


 再度確認のため九条はカードキーを使って施錠を解除して玄関を確認する。


「うん、もう一枚あるな」


 玄関先にあったもう一枚カードキーを手にした九条は、姫乃に鍵を忘れていることをメッセージに送る。

 既読はつくことないが、お昼くらいに気付いて見てくれたらいい方だろう。

 これ以上玄関にいると遅刻してしまいそうなので九条も学園へと向かった。

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