九話 「従魔とダンジョン探索」
クウとの出会いを果たした翌日、アッシュ達はダンジョンに入る為に組合所に行き物資の調達をしていた
『食料よし、ポーションよし、装備も昨日念入りに点検したから問題なし・・・と』
リストに書いていたものを見て不足しているものはないかを念入りにチェック
何せクウ以外に仲間がいないのだからいざという時に備えておかないといけない
ポーションは組合所で販売している物を購入
昨日依頼でお世話になったモリンの店でもポーションは販売しているが、あの店のポーションは他よりも値が張る
その理由としてはモリンの調合した薬が恩恵の力によって他より強い効果を得ることができるというのが大きな要因である
対して組合所で売られているポーションは冒険者登録をしていると少しお得に買うことができる
もっと下の階層の強い魔物が相手であればモリンのポーションも必要になるかもしれないが、一階層の魔物相手であれば組合所で売っているポーションで十分事足りるだろう
物資の調達を終えるといよいよダンジョンへと向かう
その途中アッシュは緊張で段々と心拍数が上がっていっていた
『ふぅ・・・何度も行ったことがある場所だけどいざ一人で行くとなると緊張するな』
今日は様子見で一階層にしか入らない為そこまでの危険はないと思うが、いざその時が来た時に上手く動けるだろうか
そんな事を考えているとミノタウロスとの事が脳裏に浮かぶ
高鳴っていく鼓動を深呼吸して鎮めようとしていると、突然クウが顔面に飛びかかってきた
『わぷっ!なっ何?』
顔から引き剥がしクウの顔を見つめるとそれはまるで『自分がついている』と言わんばかりの自身満々な顔つきをしていた
それを見てアッシュの緊張はどこかへ吹き飛んでしまった
『ははっ、そうだね。クウもいるんだからきっと大丈夫だ』
クウのお陰で落ち着きを取り戻すことができたアッシュは駆け足でダンジョンを目指した
ダンジョンの入口に到着すると扉の前にはいつもの様にグンダが立っていたので声をかける
『おはようございますグンダさん』
『おう、おはようさん。あー・・・なんだ、あれから大丈夫だったか?』
『はい!大丈夫です!』
どうやらこの前話した時気丈に振る舞っていた姿を見て気にしてくれていたようだ
心配をかけてばかりで不甲斐ないと思いつつもその気遣いは素直に嬉しかった
『それで?今日は一人でダンジョンに潜るのか?』
『いえ、僕だけでなくこの子と一緒に行きます』
グンダに背中に隠れていたクウを見せる
アッシュが従魔を従えることができたと知るとグンダは自分のことのように喜んでくれた
『ほぉ!お前さんにも遂に従魔が出来たんだな。良かったじゃないか』
『ありがとうございます』
『今日はその従魔とダンジョン探索ってわけか。気をつけてな』
グンダは従魔がスライムだと知っても馬鹿にすることはなかった
元冒険者ということもありグンダもクウが他のスライムと違うのを見て感じたらしい
挨拶を終えると扉を開けてダンジョンの中へと入る
周りに他の冒険者の気配はなく、魔物も近くにはいなかったので奥へと進んでいく
一階層はもう何度も来ているので魔物がどの辺りに湧くかはある程度把握しているのでなるべく魔物の湧きが少ない場所へ向かうことにした
周囲の警戒をしつつ目的の場所へ向かい、二股に分かれている道の細い道を選んで進んでいくと物音が聞こえてきた
瞬時に身を隠し気づかれないよう岩陰からそっと覗くとそこには二体のゴブリンが彷徨いていた
『ゴブリンが二体・・・よし、あれならいけるぞ』
ゴブリン二体であればアッシュでも正面からなんとか倒す事は出来る
だが可能であれば相手に反撃をさせることなく倒すのがベスト
どのタイミングで攻撃を仕掛けるかと考えていると、今まで大人しくついてきていたクウが突然アッシュの前に出た
するとそのままゴブリンのいる方へと単身で突っ込んでいってしまった
『クウ!?』
予期していなかったクウの動きにアッシュは反応が遅れる
そして今の声でゴブリンにこちらの存在が気づかれてしまった
アッシュも急いで自分も駆けつけなくてはと短剣を抜いてクウのあとを追いかける
戦う方法がクウが一体どうやってゴブリンを相手にするのかと見ていると、なんと体から勢いよく泥を噴射させゴブリンの顔に命中させた
『ギャギャギャギャ!!』
一体に命中させると続けて二体目にも同様に噴射する
視界を奪われると片方のゴブリンは暴れ回れもう片方は転倒してしまった
クウがゴブリンに使用した泥を見えてアッシュは昨日の事を思い出した
『もしかして昨日吸収した泥・・・?ハッ!ボーッとしてる場合じゃない!』
クウが使った技は気になるが今は後回しだ
まずは暴れているゴブリンを先に始末する為短剣で喉元を斬り裂き、その後転倒し起き上がろうとしいていたゴブリンの胸部を突き刺して止めを刺した
こうしてアッシュとクウによる初戦は危なげなく勝利を手にすることができた
『凄いねクウ!そんな事まで出来るなんて驚いたよ』
頭?を撫でてあげながらそう伝えるとクウは喜んでいた
倒したゴブリンからは魔石を回収、幸先よく魔石を二つ手に入れることができた
クウの能力は不明だが、あれで援護してくれるだけで大分戦闘が楽になる
この調子で次のポイントへと向かおうとすると、クウがゴブリンの元まで近寄っていき何をするのかと思ったら今度はゴブリンの死骸を吸収し始めた
『クウ、それは別に無理に吸収しなくても・・・』
通常魔物の死骸は霧散して消えていくが、クウはそれよりも早く魔物を吸収してしまった
お腹が減っているのか、それとも何か別の意味があるのかと考察していると突如クウの身体が光りだす
昨日名前をつけた時と同じあの現象、少しすると何事もなく治まった
『一体なんなんだろう。クウは平気そうだから多分心配するようなことじゃないんだろうだけど・・・』
もしかしたらゴブリンを吸収した事と何か関係があるのかもしれない
謎は深まるばかりだが当の本人であるクウはそんな事お構いなしに先へ行こうと急かしてくる
クウのことについては一旦保留することにし、今はダンジョン探索に集中しようと引き続き一階層の探索を続けることにした
ご拝読いただきありがとうございます!毎日20時に最新話を更新していますのでよろしければ次回もよろしくお願いします!