八話 「指名の依頼」
指名の依頼を受け水路の清掃にやってきたアッシュ
依頼場所に行くとそこには前回お世話になった依頼主が待っていた
『どうも、依頼でやってきましたアッシュといいます』
『おー!また君が来てくれて助かるよ!ドブさらいなんて皆やりたがらないのにアッシュ君は嫌な顔ひとつしないでやってくれていたのが印象に残っていてね。つい指名して頼んでしまったよ』
『そう言ってもらえると頑張った甲斐があります。今回も頑張って綺麗にさせてもらいますね!』
この依頼をしてきた依頼主は以前まで自分で清掃を行っていたそうだが、数年前に腰をやってしまった為組合の方に依頼をしているらしい
指名の依頼ということもあって当然気合が入る。アッシュは挨拶も早々に早速仕事に取り掛かった
仕事内容としては水路に溜まった泥を掻き出すという単純作業だが、中々力を使う仕事でのんびりやっているとあっという間に日が暮れてしまうので手早く行っていかなくてはならない
まずは着ている服を汚さないよう依頼主が貸し出してくれた防水性のある服と靴に着替えていく
着替えている途中、クウが近寄ってきて何かを伝えようとしている動きをみせた
アッシュは何を伝えたいのかと必死に読み取ろうと試みた
『もしかしてクウも手伝ってくれようとしてるの?』
アッシュの言葉にクウは肯定と取れるような動きを示した
手伝おうとしてくれている気持ちは有り難いが、スライムの体では泥を処理するのは難しいだろう
だが手伝う気満々のクウにそれを伝えるのも気が引けたので、とりあえず一緒に水路の中へ入ることにした
水路の中は泥もそうだがゴミも落ちているのでそれも拾わなくてはいけない
足を取られないようにしながらスコップで泥を掻き出す。この作業をひたすらこれを行っていく
黙々と作業をしながらクウの動きを目で追っていると、何かをし始めようとしているのが見えた
気になったので近寄ってみるとなんとクウは水路に溜まった泥だけを体内に上手く吸収することで水路を綺麗にしていた
『なるほど、確かにそれならクウでも泥を処理することができるね』
しかしいくら雑食とはいえ味とかは大丈夫なのか、量が量なので張り切りすぎてお腹でも壊さないかと心配したが、クウの様子を観察している限りでは特段辛そうにしている気配も感じられなかったのでその調子で手伝ってもらうことにした
それから作業を続けること二時間、アッシュはひたすら泥を掻き出しクウも休まず泥を取り込み続けたことで想定していた以上の時間で水路の清掃を終えることができた
開始三十分辺りで流石にクウの限界がくるんじゃないかと見続けていたが結局最後までやり切ってくれた
表情一つ変えずに淡々と吸い続けている姿を見ていると心配するだけ損だというのが理解できた
『凄いやクウ!クウのお陰で早く終わったよ!』
アッシュに抱きかかえられ褒められるとクウは嬉しそうに体を震わせる
これだけの小さな体にあれだけの量の一体どうやって収めたのか不思議で仕方がないが、人の言葉も理解できるクウならこれ位できてもおかしくないのではないかと納得することにした
清掃が終わり依頼主に依頼完了の旨を伝え水路の状態を確認してもらうと、予想以上に早く終わらせてきたことに驚いていた
『いやぁまさかこれ程早く終わらせるとは。本当に助かったよ。ありがとう』
感謝の言葉と共に依頼完了のサインを貰い清掃の依頼を無事に終えることができた
時刻は昼を少し過ぎた頃。まだ活動を終えるには大分早かったが、陽が昇る前から依頼を立て続けにこなしていたことを考えてアッシュ達は組合所で依頼報酬を貰った後宿へと帰宅することにした
それに今日はクウと出会うことができた記念すべき日
依頼も一緒に頑張ってくれたしせっかくなので祝おうとアッシュは考えていた
『今日はクウとの出会いの記念にいつもより奮発した夕食にしよう』
依頼を二件こなしたことでお金はある。今日くらいは盛大に使っても罰は当たらないだろう
宿に到着し納屋で少し休んだ後、アッシュは従業員に二人分の食事を用意してもらった
滅多に食べることのできないこの宿で一番豪華な食事、見ているだけで涎が垂れてきそうになる
『はい、これはクウの分ね。それと改めてこれからよろしくね』
アッシュの言葉に反応するや否やクウは目の前に置かれた料理を凄い勢いで取り込んでいっていた
それを見て我慢出来なくなったアッシュも久しぶりのご馳走にありついた
瑞々しい新鮮な野菜のサラダにホッと落ち着く優しい味の温かいスープ、そしてメインはなんといっても柔らかなステーキ肉
鼻腔をくすぐる香ばしい匂いに干し肉とは比べ物にならない柔らかさで噛む度に肉汁が溢れ出てくる
どれもこれもがアッシュにとって初めてといっても過言ではないくらい美味しく、思わず涙が出そうになるほどだった
アッシュは一品一品しっかりと噛み締めながら料理を平らげ、食事を済ませた後は納屋に戻ってその余韻に浸った
『美味しかったぁ・・・あんな美味しいお肉食べたの初めてだったよ。クウはどうだった?』
クウに声をかけると既に気持ちよさそうに眠りについていた
昨日はミノタウロス襲われこれからやっていけるのかと不安に駆られていたが、クウとの出会いによって新たに希望を持つことができた
『明日はダンジョンに行ってみようか。一階層だけなら僕達だけでもなんとかなると思うし危なくなったらすぐ帰ってくればいいしね』
寝ているクウにアッシュはそう呟いた
パーティを組まずにダンジョンに入るのは初めてだが、無理をしなければ自分達でもいけるはず
そんな事を考えつつクウをそっと抱き寄せる
クウの体は柔らかく抱いていると不思議と心が落ち着き、アッシュは心地よい眠りにつくことができた
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