七話 「紹介」
始めこそトラブルはあったものの、服を着て戻ってきたモリンにヒール草を渡す
先程まではだらしがない姿を見せていたが仕事の事となるとモリンの目つきは変わり、一つ一つ品質に問題ないかを念入りにチェックしていった
『うん、品質に問題なし。これならいいポーションが作れそうだ』
『それは良かったです』
『じゃあはい、依頼完了のサインしておいたから組合に持って行って報酬受け取ってね。あとこれ、品質のいい薬草と部屋を掃除してくれたお礼だよ』
『ありがとうございます!』
依頼完了のサインを受け取るとモリンは追加の報酬も渡してきた
これも朝早くから採りに行った甲斐があったというものだ
依頼はこれにて完了、するとモリンの視線が鞄の方へと移る
『そろそろ聞きたいんだけどさ。その鞄に何かいるの?もぞもぞ動いてて気になってたんだけど』
『あっ、すみません。クウ、出ておいで』
クウには店に入る前に邪魔にならないよう鞄に入ってもらっていた
だが息苦しかったのか鞄から出ようとしていたみたいだ
アッシュはモリンに森での出来事を話しクウの事を紹介した
「ふぅん、それは良かったね。にしてもそのスライム・・・クウって子見かけない色をしているね」
『そうなんですよね。普通のスライムはもっとこう濁った感じの色をしてると思うんですが・・・あっ、それと関係してるか分からないんですけどクウは人間の言葉を理解していると思うんです。ねっ?』
アッシュの問いかけにクウはジャンプして応える
『ほぉ・・・それは興味深いね。ドラゴン等の知能が高い魔物の中には人語を理解する者もいるとは聞いたことがあるがスライムでというのは聞いたことがないな』
モリンも知らないということはやはり言葉を理解するスライムというのはかなりレアな個体のようだ
だからあんな森の中で群れずにいたのかもしれない
モリンにクウを紹介し終え店をあとにした後、アッシュは組合所へと足を運んだ
組合所が混雑するのはなんといってもこの朝の時間帯、ダンジョンへ向かう者達が仲間と待ち合わせ場所として使ったりアイテム等の消耗品を調達したりと慌ただしい
受付もその対応に追われていて忙しそうだ
アッシュ達は今日ダンジョンに行くつもりはないのでこのラッシュが過ぎ去るまで大人しくすることにし、まだ済ませていなかった朝食を摂ることにした
食事は昨日の残った干し肉とパンの耳、その二つを隅っこのテーブルで黙々と食べているとクウがジッと見つめていることに気がついた
『ごめんごめん、クウもお腹減ってるよね。スライムは雑食で何でも食べるみたいだし同じものでも大丈夫か』
試しに干し肉の切れ端をクウの顔に近づけてみる
クウは少し様子見した後干し肉を体内に取り込んで吸収し始めた
すると干し肉と食べたクウは今までにないくらい飛び跳ねた
『ハハッ、そんなに美味しかった?まだあるから全部食べていいよ』
アッシュにとってはもう食べ飽きてしまった干し肉だが、こうして喜んでもらえるのなら今度からはクウの分も含めて多めに購入することに決めた
朝食を終え暫く待っていると受付の方が大分空いてきたので報酬を受け取りにいこうと席を立つ
その途中、クウを肩に乗せたアッシュを見つけた他の冒険者の声が耳に入ってくる
『おい見ろよ、おちこぼれが魔物を連れて歩いてるぞ』
『マジ?・・・ってなんだよただのスライムじゃねぇか。あんな雑魚魔物じゃなんにもなんねぇだろ』
『スライムなんて魔物の中じゃおちこぼれみたいなもんだから気が合ったんじゃねぇのか』
『ハハッ!そうかもしれねぇな!』
容赦のない言葉が飛び交うが、不思議と以前のような悔しい気持ちはあまり湧いてこない
スライムだろうとなんだろうとクウはアッシュにとって初めての従魔、他人の心無い言葉よりもクウと巡り会えた嬉しさの方が遥かに勝っていた
いつも通り受付でナタリアんい依頼完了の紙を渡す。クウを目にしたナタリアは真っ先にその事について触れてくれた
『アッシュさんテイム出来たんですね。おめでとうございます』
『ありがとうございます。クウという名前にしました』
紹介するとクウはアッシュの肩から降りてナタリアの元へと近づく
すると挨拶でもしているのだろうかナタリアの手に体を擦りつけ始めた
『か、可愛い・・・』
愛嬌を振りまくクウにナタリアも思わず頬が緩む
クウもナタリアが危険な人物ではないと本能で感じ取っているのかもしれない
クウの紹介を終えると依頼の報酬がアッシュに渡された
まだ時間は昼を回っていない。この後の予定をどうしようかと考えているとナタリアが話を切り出してきた
『アッシュさん、この後予定はありますか?』
『いえ、特に決まっていませんけど』
『出来たらでいいのですが追加の依頼を受けてはくれないでしょうか?』
ナタリア依頼の件を聞いてみるとアッシュが以前水路の清掃依頼を受けた依頼主からのご指名らしい
なんでも文句一つ言わず黙々と作業をしていた姿が好印象だったようでまたお願いしたいとのこと
それを聞いて見てくれている人はちゃんといるんだなと嬉しくなり思わず笑みがこぼれた
『分かりました!受けさせてもらいます!』
『助かります』
清掃の依頼とはいえ初の指名依頼。自分を頼ってくれるのなら精一杯力になりたい
アッシュは薬草採取の依頼を終えて早々次の依頼の受け目的地へと向かった
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