四話 「ソロでの活動」
命からがら帰還してきたアッシュは疲労困憊の状態でダンジョンの入口へと戻って来た
扉を開けると数時間ぶりの陽の光に目が眩んだ
目が慣れてくると見慣れた風景が視界に飛び込んでくる
それを見てアッシュはようやく命の危機が去ったことを認識し、張り詰めていた緊張の糸が解れその場でへたり込んでしまった
『ん?アッシュじゃないか。大丈夫か?』
『グンダさん・・・』
アッシュに声をかけてきたのは重厚な鎧を身に着けている屈強な男グンダ
ダンジョンから魔物が出てきた場合にそれを対処する為に配置されている警備の人間である
過去ダンジョンから魔物が出てきた事例がなくとも万が一ということもあるので、冒険者稼業を引退した者の中で選び抜かれた実力のある人物を抜擢している
『どうしたアッシュ、ボロボロじゃないか。お前確か今朝他の冒険者と一緒にダンジョンに入っていったよな?』
『ははっ・・・まぁそうだったんですけど・・・』
『ん?そういやさっき慌ててダンジョンから出てきた奴がいたがお前といた奴らに似ていた・・・あぁ~そういう事か』
グンダはアッシュの事を小さい頃から知っていて気にかけていてくれた
他の冒険者からどんな扱いを受けてきたのかもずっと見ていて、これまで何度もパーティから外されていることも知っているので今回もそうなのだろうと察したようだ
『ダンジョンの中で何があったかは聞かないが・・・まぁなんだ、お前にもいつかちゃんと互いを信頼し合えるパーティができるさ』
『でも未だに魔物をテイムできないですしこんなおちこぼれとパーティになってくれる人なんて・・・』
『アッシュ・・・』
『ハッ・・・!だ、ダメですよねこんな気持ちじゃ!また明日から頑張ります!じゃあ!』
つい弱音を吐いてしまったアッシュはグンダを心配させまいと無理矢理元気を振り絞り、笑顔で手を振ってその場をあとにした
ダンジョンが見えなくなった所まで来るとでアッシュは走るの止め、トボトボと歩き出した
『はぁ・・・明日からどうしようかな』
恐らくもうアッシュと組んでくれる冒険者はいない
グレイ達とパーティを組むことになったのも本当に偶々だった
ソロで活動したところでダンジョンをクリアする事は難しいし、そもそもテイムが出来ないという根本的な問題が解決していないのでは何をしたところでこの先には進めない
『一先ずあそこを確認してみるか』
考えが纏まらないアッシュは気は進まないが冒険者組合に向かうことにした
何をするにしても金は必要だ。重い足取りで組合所に到着すると恐る恐る扉を開けながら中を確認する
中は他の冒険者で賑わっていたが、その中にグレイ達の姿は確認できなかった
あっちはあんな事をした後でも何とも思わないだろうがアッシュはやはり気まずい気持ちになってしまうので今はできるだけ会いたくはなかった
中に入るとアッシュは一目散にある場所へと向かった
向かった先にはクエストボードという町にいる人達からの依頼が貼り出されている掲示板がある
『えっと・・・僕だけでも出来そうな依頼はあるかな』
町の清掃依頼や買い出しの荷物運びといった雑用の様な依頼から、畑を荒らす害獣駆除と様々な内容の依頼のものが貼られている
冒険者は基本ダンジョン攻略に力を注いでいるが、こういった組合が町の人達から受けた依頼も請け負ったりしている
大抵の冒険者は興味を示さないが、アッシュにとっては町からの依頼は生活をしていく上で欠かせない存在
ダンジョンでパーティが稼いだとしても荷物持ちしか出来ず成果をあげられていないアッシュの元には殆ど報酬が入ってこない為、町の依頼で生活費を補っていた
なので今回もソロで出来そうな依頼を探し、一先ずそれで食いつなぐことに決めた
危険度が低い安全そうな依頼はないかと探していると一つの依頼が目に留まった
『薬草の採取・・・これなら何度もやったことあるし僕一人でもなんとかなるか』
森に生えているポーションの元となる薬草の調達、報酬額は決して高いとはいえないが過去に同じ依頼者の依頼をこなしていて勝手は分かっている
今のアッシュにとって打ってつけの依頼だったので早速その依頼の紙を掲示板から剝がしカウンターがある場所に持って行った
『こんにちはナタリアさん』
『あっ、アッシュさんお疲れ様です。どういったご用件ですか?』
声をかけたのは冒険者組合で受付を担当しているナタリアという女性、アッシュが冒険者になった頃からお世話になっている人物だ
受付の間でもアッシュがおちこぼれのテイマーということは知られており冷たい態度をする者もいるが、ナタリアはそんな事を気にせず接してくれているので自然と専属の受付係のような関係になっていた
『すみません、この依頼を受けたいんですが』
『薬草採取の依頼ですね、確認させて頂きます』
ナタリアはアッシュが持ってきた依頼の紙に目を通し始めた
その途中で何か思い出した様にアッシュに語りかけてきた
『そういえば他の方はどうされたんですか?朝はご一緒でしたよね?』
『あぁ~ははは・・・まぁいつものやつです』
『そうでしたか・・・アッシュさんの様な真面目な方でしたらいつか必ずいいお仲間に巡り合えますよ』
『ありがとうございます』
グンダと同じような事を言われて少しだが気持ちが楽になった
ナタリアは依頼内容を確認し終えると紙に判を捺しアッシュに返してきた
『はい、ソロでの依頼ですので森の魔物には気をつけて下さい』
『はい、ありがとうございます!失礼します!』
依頼を受けた後アッシュはナタリアにお辞儀をして組合所を出た
今日はもう日が傾き始めていたので森へ行くのは明日にし、休息をとる為に宿へと向かう
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