三話 「命からがら」
『ハッ・・・!ハッ・・・!』
二階層に本来現れることがないミノタウロスが突如アッシュ達を襲ってきた
勝ち目がないと踏んだグレイは即座に撤退を指示、戦うことができないアッシュも必死に逃げる
しかし四人分の荷物を持っている為どうしてもその足は他の三人よりも遅れをとってしまっていた
ミノタウロスが一歩進む毎にアッシュとの距離を縮めてくる
『な、何か足止めできるような物は・・・!』
迫ってくるミノタウロスに恐怖を感じたアッシュは逃げながら背負っていた鞄を漁り、その中から球状のアイテムを取り出してミノタウロスの顔目掛けて思い切り投げつけた
アッシュが投げたボールがミノタウロスに頭部に直撃、するとボールが破裂し中に入っていた赤い粉が舞う
『ブモォッ!』
拡散した粉が目や鼻に入るとミノタウロスは途端に苦しみ出した
アッシュが投げたボールの中には強力な香辛料がふんだんに詰められており、目や鼻に入ると激痛に襲われる
ダメージを与えることは出来ないが足止め位にはなる
この隙にとアッシュは再び全良で走り出した
『ヴモオオオオオオオオオ!!!』
背後からミノタウロスの雄叫びが聞こえてきて振り返ってみると、闇雲に棍棒を振り回しながらこちらに迫ってきていた
先程のアッシュのボールがミノタウロスの逆鱗に触れてしまったようだ
『見えたぞ!あの扉の先に行けば助かる!』
前方にいるグレイの先に一階層へと繋がる階段と扉が見えてきた
そこに辿り着ければミノタウロスが追ってくることはないはず
なんとか逃げ切れる。そう思った刹那、アッシュの体は宙に浮いた
『ぐふっ・・・!』
突然腹部に痛みが走る
何が起こったのかも分からずアッシュは途中まで登ってきた階段を転げ落ちていった
再び二階層の地面に叩きつけられたところで見上げてみるとそこにはグレイの姿があった
『悪いな、せめて囮になって死んでくれやおちこぼれ』
『そんな・・・』
グレイに囮として使われた
それが分かった頃にはもう手遅れ、ミノタウロスはもうすぐそこまで迫って来ている
助かったと思っていたのに一瞬にして絶望の淵に叩き落とされたアッシュはすぐさま立ち上がり魔物から逃げようとするが、脚に力が入らず思うように動けない
どうやら階段から落とされた時に脚をやってしまったらしい
『ヴモオオオオオオ!!』
そうこうしているうちにミノタウロスがアッシュの眼前までやって来て、手に持っている棍棒をアッシュ目掛けて力一杯振ってくる
回避は間に合わない、そう判断したアッシュは咄嗟に背負っていた鞄を自身の前に突き出した
ミノタウロスの攻撃がその鞄に直撃、アッシュはそのまま壁の方まで吹き飛ばされてしまう
『カハッ・・・!』
鞄をクッション代わりにした事で棍棒のダメージが緩和され骨は問題なかったが、壁に強く叩きつけられてしまったことで全身に痛みが襲う
更に今の衝撃によってに持ってきていたアイテムが鞄から出て散乱する
すると幸運なことにアッシュの目の前に傷を癒してくれるポーションの瓶が転がってきたのでそれを手に取り一息で飲み干す
ポーションを飲み干すとそれまで痛めていた場所が治っていき動けるようになった
その間にまたミノタウロスの攻撃がアッシュを襲う
今度は振り下ろしの一撃、脚の踏ん張りが利くようになったアッシュは横っ飛びで回避
一撃でもまともに喰らえば即死は免れられない
そこまでの攻撃速度があるわけではないが一対一の勝負では攻撃が集中してくる
現状避けることに全神経を集中させるのに精一杯、しかも出口は今ミノタウロスの背後にある
『このままじゃ戻ることが・・・あっ、あれを使えば!』
アッシュは先程散らばった中から筒状のアイテムと火打石を拾う
筒には導火線が付いていて火打石で火をつけようと試みる
だがそれを待ってくれる程ミノタウロスもお人好しではない
振り回してくる棍棒の攻撃を避けながらアッシュは幾度も着火を試みた
『よしっ!ついた!』
何度目かの挑戦で導火線に着火したのを確認するとアッシュはタイミングを計りミノタウロス目掛けて投擲
ミノタウロスの足元にそれが転がっていき、導火線が燃え尽きると爆発した
アッシュが投げたのは小型の爆弾、ミノタウロスにはかすり傷程度の威力だが怯む位はするはず
アッシュの目論見通りミノタウロスの脚が止まり攻撃も止んだ
『い、今のうちに・・・!』
ミノタウロスが怯んでいるうちに出口を目指すアッシュ
散乱してしまったアイテムを拾いたいところだったが命の方がよっぽど大切だ
死に物狂いで階段を駆け抜けていき一階層へと上がっていく
ミノタウロスから逃げ切りようやく一階層に到着、背後を確認しても追って来ている気配はなかった
『ハッハッ・・・い、生きてる・・・』
死ぬかもしれない状況に直面したアッシュの手は今もまだ震えていた
まだここから出口まで距離はあるし武器もアイテムもないので油断は許されない状態だが一階層のゴブリン程度であればアッシュでも逃げ切ることは出来る
地図が無くともこのダンジョンの地形は既にアッシュの頭の中にインプットされているので問題無い
『はぁ・・・』
心身共に疲労しながらも着実に出口へと向かっている途中、アッシュはこれからの事を考えていた
こんな事が起こった後ではグレイ達のパーティに居続けられるわけがない
自分を囮として使われたことに対しての憤りも勿論ある・・・だが実はこれが初めてのことではなかった
アッシュはグレイ達のパーティだけでなく今まで他のパーティにも加わった経験がある
流石に今回の様な命の危機に瀕するような事態までになったことはなかったが、その全てのパーティで蔑ろな扱いを受けてきた
もうアッシュを受け入れてくれるようなパーティは残っていない
この様な目に遭う度におちこぼれテイマーという悪名とテイムができない自分の無力さに毎回打ちのめされそうになってしまいそうになる
それでも冒険者として生きていく道を諦めることができずアッシュはまたダンジョンに挑む
『もうすぐ出口だ・・・今は助かった事に喜ぼう』
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