第2話 伴侶(呪いの共同体)では?
身支度と朝食を済ませた私は精霊を探すために公爵邸の庭に来ていた。
私にまで短命の呪いの効果が及ぶのなら解くために協力しないわけにはいかない。
それが分かった翌日から毎日欠かさず屋敷の中を散策しているのだ。
「……あの」
私はちらりと後ろを見る。
そこにはこちらを見て笑みを作る公爵さまがいた。
「どうしたフラリア?」
「どうしたもこうしたも……なんでそんなに毎日私に構うんですか?」
「そんなのお前が俺の伴侶だからに決まっているだろう?」
「……」
伴侶と言っても「伴侶(呪いの共同体)」だろう。
むしろカッコ内の気持ちの方がでかでかと主張しているだろうに、この男は妙な言い回しを好む。
恐らくは精霊王を見つけられなかった時に備えて正規の解呪方法の可能性を上げておこうとでも思っているのだろう。
(残念ながら私が相手じゃ意味ないのだけど)
だってこの男の本性を知っているのだ。
とてつもなく性格が悪いことを。
(私をだまして協力関係を取り付けたこと、忘れていないわよ)
どれだけ取り繕おうとも、そんな男を愛せるはずもない。
だから精霊王探しに力を入れているというのに……。
「毎日暇なんですか? あと過度な接触はしないはずでは?」
「愛しの妻といる時間が暇なわけなかろう。それにこの程度、過度とは言わないなぁ」
「……はあ」
相変わらず微笑みながらそう言われてしまい、私は胡散臭げな視線を投げかけるしかなかった。
もう何を言っても無駄だろう。
早々に諦めるのが吉だ。
気を取り直して庭を歩く。
その時くらりとめまいを起こしてしまった。
「うっ」
「フラリア!」
公爵さまが慌てた様子で支えてくれる。
使用人たちが集まって来た。
「……あ、大丈夫です。少し立ち眩みを起こしただけで」
公爵邸にきて分かったことだが、私にはあまりにも体力がなかった。
狭い物置部屋にずっといたのだから普通の令嬢よりもひ弱なのは納得できることだったが、いかんせん運動不足過ぎるのだ。
少しでも早く手掛かりを探したいのに、公爵邸を10分も歩けば息切れを起こしてしまう。
今日のように日差しが強い日にはいうまでもなかった。
これはまずい。
早いところ精霊とコネクションを持ちたいのに、探し続けるだけの体力がなく、今日まで精霊を見つけられていないのだ。
気持ちだけが急いて、体が全く追いつかない。
不甲斐なさでいっぱいだ。
「少し休もうか」
公爵さまはそういうと私の膝下に手を回し抱き上げた。
物置部屋にあった童話に載っていた、いわゆるお姫様抱っこというやつだ。
「えぇ!?」
あまりにも驚いてしまって手足をばたつかせると上から困ったような声が落ちてきた。
「こら、暴れるな。落っこちると痛いぞ」
「で、でも!」
「お前は体調が悪いんだから無理するな。こういう時はおとなしく面倒を見られればいいんだ」
見上げれば心配の言葉とは裏腹に耐えようにも堪え切れないとでもいうように口角が上がっていた。
(この人……慌てる私をみて笑ってる!!)
私はショックを受けた。
なんて酷い男なんだ! 誰のせいでこんなに必死になって探していると思っているんだ! と。
「~~! あ、あなたのせいでこうなってるんですからね!」
「ぶはっ!」
ぷいっとそっぽを向いてそう言うと、公爵さまはさらに噴き出した。
じろりとにらみつける。
「ん、んん、こほん。いやすまん。そうだな俺のせいだな」
顔は取り繕っていても密着している体から小刻みな震えが伝わってきているのでなにも隠せていない。
じろりとにらみつける。
……微笑みで返されてしまった。
「……さてそんなことよりも、ここで少し休もうじゃないか」
下手な話題転換をした彼に連れられてやってきたのは庭園の中腹にある大きな木の下だった。
公爵邸からは少し距離があるためここまでこられたのは今日が初めてだった。
木陰は涼しく、木の葉が触れ合う音が耳に心地よい。
公爵さまは木の根本に腰をおろすと、足の上に私を座らせた。
「……は? なんです? この体勢は」
「そのまま座ると服が汚れるだろうし、これなら安心だろう?」
「安心できるかぁ! 一応言っときますけど、髪にも毒あるんですから気を付けてくださいよ!?」
思わず強めにツッコミを入れてしまったが私は悪くない。
毒があると言っているのにやたらと傍に寄ってきたり、触れてこようとしたりするやつが悪いに決まっている。
毒に当てられたら即さよならとなる可能性もあるということを分かっているのだろうか。
「あなたが死んだら私も死ぬんでしょう? だったら精々長生きしてくださいよ!」
「ふ、あっはは! そこなのか怒るところは!」
「なんで笑うんですか! 私は真剣な話をですね……!」
「分かった分かった。気を付けるよ」
公爵さまは未だにくすくすと笑っているが、一体何にそんなに笑っているのか……。
本当に理解できない。
そう思っているとイニスが冷やしたタオルとシートを持ってきてくれた。
シートを敷いて寝転ぶ。
貰ったタオルを首筋にあてると火照った体がじんわりと冷やされていく。
さらさらと心地のよい風が吹いた。
……気持ちがいい。ずっとこうしていたい。
爽やかな草の匂いに優しい風。
こんなにも穏やかな時間を送れるだなんて思いもしていなかった。
やがてうとうとと瞼が重くなってくる。
(ああ、寝ている場合じゃないのに……。体がいうことを聞いてくれない)
私は重みに抗うことなくそのまま目を閉じたのだった。
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