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第1話 不思議な感覚

 

「んん……」


 心地の良いまどろみから意識が浮上していく。

 目を開けると真っ白な天井が見えた。


 カビのないキレイな天井、私の体を柔らかく包み込むベッド、解放的な窓からふりそそぐ暖かな陽の光。

 どれも私には縁遠いものだった。


 既に公爵邸に来てから1ヶ月程たっているのに、未だに朝起きるたびここがどこなのか分からなくなってしまう。



 体を起こすと同時に侍女が入って来た。


「お目覚めですか? 本日は天気がいいですからお庭の散歩などいかがでしょう?」


 そう言って微笑(ほほえ)む侍女に目を向ける。

 この子はイニス。いつも私の世話をしてくれる変わった子だ。


 イニスは私と同じくらいの年なのに公爵邸の中ではベテランに入るくらい長いこと務めている侍女で、代々公爵邸にお仕えしている家柄らしい。


「……今日も来たのね」

「はい! もちろん!」


 呆れたように溜息(ためいき)を吐いてもイニスはニコニコと笑ったままだった。


 そもそも侍女なんていらないと言ったはずなのに、気が付くとお世話をされている。

 毒があるから、危ないから近づくなといっても「わたしを心配してくださるなんて……!」と変なところで感動されてしまうだけだった。


 特に朝なんて露出が多いのだから本当に危ないのに……。


 極力肌の露出を減らしてお世話するので大丈夫です、と言われてしまってはもう何も言えない。


 イニスはこちらの気も知らないでテキパキと支度(したく)を進めていた。


「奥様! 本日も旦那様が朝食を共にと待っていらっしゃいますよ!」

「えぇ……またなの?」

「ふふ。旦那様、結婚されてから本当に変わりましたよね~! 奥様にべたぼれって感じです!」

「ははは、まさか」


 乾いた笑いが出てしまった。

 (はた)から見たらそう見えるのかもしれないが、私からしてみれば獲物を逃がさないように囲っているだけだ。


「またまた~! 照れなくてもいいんですよ? だって奥様のお部屋をご自分のお部屋のとなりに持ってくるなんて昔の旦那様からしたら考えられないですもん!」

「本当の夫婦なら部屋が別ってことはないと思うけど」


「旦那様は誰も傷つけたくないという奥様のお気持ちを尊重(そんちょう)してくださっているのだと思います。でも内心は……それはもう奥様と触れ合いたくて仕方がないんだと思いますよ~!!」



 イニスはきゃーっと興奮しながら騒いでいる。


 ……朝から元気そうで何よりだ。



 私は死んだ目で鏡に映る自分を凝視(ぎょうし)していた。


 ヴェールを被らなくなった私の素顔がそのまま映っているというのに、イニスは気持ち悪がったり怖がったりという様子はない。


 彼女が特殊なのかとも思ったが、屋敷の中を歩き回っていても意外と敵意を向けられることはなかった。

 一部露骨(ろこつ)に私を嫌っている人間もいるにはいるが、むしろ大部分の人からは好意的な視線を感じる。



 シェフは食事のたびに私の好みを聞いてくるし、部屋もいつの間にか清掃されるし、使用人たちからは暖かい目線を送られることが多い。



 ……たぶん、みんなイニスと同じように公爵さまと私の仲を勘違いしているのだろう。


 嫌悪(けんお)嘲笑(ちょうしょう)の視線には慣れていてもこんな風に暖かい視線には慣れていない。

 だからいつもどぎまぎしてしまう。



(……まあでも、ちょっとは嬉しい……のかな?)


 今まで受けてきたどの視線とも違うから。


 好意的な視線というものを自分が受けることになる日が来るとは思わなかった。



 だけど、同時にとても怖い。

 それが崩れる日が来るのが。


(初めから知らなければ何とも思わなかったのに……)


 私は早くも本日2度目となる溜息を吐いた。




ここまでお読みいただきありがとうございました!


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